悪魔の罠
「ちょっと、止めてください。ここは、学校の図書室ですよ。」
「あら、ラ・ブ・ホだったらいいのかな。」
「ち、違います。塾の時間に遅れます。止めて下さい。」
亜麻色の髪をかき上げ、制服の胸のボタンを一つ、二つ外しながら、
龍美は、僕に妖しく迫る。こいつ、本当に高校三年生か、色気ありすぎ。
逃げようにも、両脇に、葵と紅子がスマホを片手に遮る。
こいつら、動画を撮っているではないか。ヤバイ、ヤバすぎだ。
ドン
とうとう、僕は壁際に追い詰められた。
獲物を仕留める野獣のように瞳を輝かせ、龍美は僕の頭を両手でつかみ、
僕の唇を奪う。いや、むさぼると言った方いいくらい、激しい。
キスというものは、優しく甘いものだと思っていた僕には、眼から鱗だ。
情けない話、僕は、龍美のなすがままだった。
僕の両足の間に、龍美の長く綺麗な脚が割り込んでくる。
龍美の体は思ったより、柔らかくそれでいてしなやかで、めっちゃ
良い香りがした。これが、女の香りか・・・・。
僕は、体から力が抜けてしまった。
正直に言おう。一部だけは、力がこみ上げる。
「顔が熱くなっているわね。もしかして、初めてだった。」
僕から顔を離した龍美が、耳元で甘くささやく。
無意識に、頷いてしまった僕である。
「全身が熱くなることしてやってもいいのよ。うちのお願いを
聞いてくれるならね。」
思わず、頷きそうになった僕であるが、すんでのところで踏みとどまった。
これ以上続けると、僕の下半身が暴発する恐れがあるからだ。
僕のプライドにかけて言いいたい。僕は、君たちのペットでもないし、
大人の玩具じゃないぞ。
何より、あの「汝、姦淫するなかれ。」の厳しい祖父に殺されかねない。
全身の力を振り絞り、龍美の両肩を押し戻した。
「僕を弄ばないで下さい。一体、願いって、何ですか。」
「そんなに怒らないでよ。怒った顔も、可愛いけどね。」
「ふざけないで下さい。塾の時間があるので、帰ります。」
図書室の出口に向かった僕の前に、葵と紅子が立ちふさがる。
「いいのかな。この姉さんとのラブ・シーンの動画をSNSで流しても。」
「学年二の秀才が、図書館で危険なお勉強ってタイトル、どう。」
こいつら、小悪魔どころではない。正真正銘、悪魔だ。
でも、祖父なら、こんな事態に陥った僕を甘い、未熟者と叱るだろうな。
ブチ切れそうになった僕は、深呼吸を2、3回繰り返した。
「わかりました。願いを聞きましょう。受けるかどうかは、聞いて判断します。」
「そう、素直でよろしい。うちらの助っ人になってくれ。
あちらも、助っ人を一人付ける。」
「何だ、そんなことか。無理。」
予想の範囲内だったので、即答した。
葵と紅子がズッコケてくれた。ちょっと、嬉しい。
「うちらのグループの解散がかかってるんだ。
決闘を受ける条件として、うちらが負ければ、デビルドラゴンを
解散するってことになっている。生徒会としては、校内の風紀の粛清を
図りたいらしい。」
なるほど、もっともな話だ。森 星明、キレる。
「それで、デビルドラゴンが勝てば、どうなるんですか。」
僕は、興味津々で尋ねた。興奮しているのが自分でもわかる。
「後期、武様が生徒会会長に、あいつは副会長に立候補することを
考えているらしい。あいつは、うちらに負ければ、立候補をやめる。」
何だ、ちっとも面白くない。興奮して損した。
こいつらのことだから、あの黒髪を坊主にするとか、サンタコスにして
校庭で唄を歌わせるとか、エロくて残忍なことを想像したのに、全然
普通じゃん。僕なら、あんなこと、こんなことさせるな。
「もしもし、聞いてますか。もう一度だけ、聞く。
助っ人を引き受けてくれるか。」
龍美がこれ以上ない真剣な表情で聞いてきた。断ったら、SNSで先ほどの動画を
まき散らすだけではなく、もっと過激なことをしでかすだろう。
葵と紅子の表情も同様である。
「いいですよ。引き受けましょう。」
「やったあ~。」
三人が手を取り合い、喜ぶ。まったく、可愛いものだな。
「ただし、僕にも条件が三つあります。」
「いいよ、言ってみな。」
「一つ目、先ほどの動画を完全に削除すること。
二つ目、これ以上、僕に関わらないこと。」
「お安い御用だ。」
龍美は、機嫌よく答えてくれた。