愛するがゆえに
「おのれ、執事の分際で、黒木、何ということを仕出かしたか。
よくも今の今まで黙っていたものよ。そこへ、座れ。
成敗してくれる。」
奏絵の怒りは凄まじい。眼は吊り上がり、完全に般若と化していた。
木刀で執事の首を斬る気である。木刀でも斬ることは可能であろうと
思わせるほど、怒りの炎が燃え上がっている。
「覚悟しております。」
黒木と呼ばれる執事は、奏絵の前に背を向けて正座し、静かに目を閉じた。
振りかぶった木刀を振り落とそうとした瞬間、僕は止めに入った。
「どうして、今頃、打ち明ける気になったんですか。」
「それは、今日、あなたにお逢いしたからです。
あなたは、若き日の義明様によく似てらっしゃる。
ウリってやつですか。
星明様が、日に日に若き日の奏絵様に似てくると眩しく感じている
昨今に、あなたが星明様と揃って現れました。
私は若き日のお二人が現れたように思い、激しく動揺しましたが、
覚悟を決めました。
実は、私、末期の胃ガンでして、余命わずかなのです。
生きているうちに、奏絵様と義明様に侘びたい。どうせなら、奏絵様の
手にかかって、あの世に旅立ちたい。そう思った次第です。」
それでも、奏絵の怒りは収まらない。火に油を注ぐが如くだ。
今度は、キラちゃんが止めに入った。
「ひよっとして、御祖母様のことを愛していたとか。」
「はい、初めてこの屋敷に御奉公に上がった時から、お慕い申し上げて
おりました。もちろん、叶わぬ恋と十分承知しております。
お傍にお仕えするだけで、私は今日まで幸せでした。」
愛するがゆえに見守る愛もある。しかし、・・・・・。
流石に、奏絵は木刀を執事の首に振り落とすことはなかったが、一閃した。
左鎖骨に振り落とした。パキッ、キレイに生木が折れたような音がした。
「早く、病院に行け。暫く入院しろ。お前の顔など、見たくはないわ。」
奏絵は、僕たちに背を向け、何も言わず、自分の部屋に戻って行った。
執事も去り、広い道場に僕たち若い二人残された。




