居合の王子様と星のビーナス
「林崎 武様って知ってるよな。」
「えっ、まあ。」
龍美の口からその名が出てきたのは意外だ。
僕と同じ学年で、そいつが学年一の秀才で生徒会副会長だからだ。
それにしても、僕のことはコンドウムで、何でそいつは様付けなんだよ。
ぶっちゃけ、むかつく。
「うちら、林崎武様の大ファンで追っかけなんだよ。」
「そう、そう、軟弱な男子が多い中、あの凛々しさ。あの気迫。萌えるよね。」
「そう、そう。武様だったら、斬られてもいい。」
三人の表情が、一瞬にして変わった。
恋する乙女のように変化したではないか。
頬が紅葉のように染まり、眼が完全にいっちゃっている。
こいつら、薬物やってないよな。怖え~よ。
確かに、林崎武は、居合道部の次期部長候補と言われるほど、腕が立つらしい。
全国大会で、優勝は逃すものの、いつも上位に斬り込んでいる。
おまけに、ジャニーズ張りのイケメンだ。
何度か、その手の雑誌の表紙で取り上げられているのを、書店で見かけた。
「初代、林崎甚助重信の生まれ変わり」とか、「生まれてくる時代を間違えた現代に
生きる武士」とか、もてはやされている。居合の王子様とも、言われているかな。
取り巻き連中や私設親衛隊やらも、かなり多く、芸能界からもお誘いが多いが、
まさか、こいつらまで・・・・。
「あのう、それで。」
話が全く見えないので、恐るおそる聞いてみた。
「そうだった。すまねえ。そうよ、あいつだ。」
「そうですよ、姉さん、あいつですよ。」
「まったく、思い出すだけで、はらわたが煮えくり返りますね。」
今度は、激オコモードに変化した。こいつらって、一体何なんだ。
「あのう、あいつって、どこのどなたですか。」
「あいつはな、生徒会書記の森 星明だよ。」
今度は、森 星明の名が出てきた。もう、驚かないぞ。
男子生徒の憧れの美少女。身長170cm、容姿端麗、スポーツ万能、
頭脳明晰。
天は二物も三物も与えたと言われるほどの逸材で、ファッション雑誌の
モデル活動もすでに行っている。長く艶やかな黒髪が、トレードマークかな。
まあ、東大を目指して受験勉強に励む僕には、関係ないけどね。
森 星明が表紙のファッション雑誌は、書店では見かけたが、断じて買ってないし、
立ち読みもしていない。ネット販売で、お気に入りの一冊だけ中古で買った程度だ。
あれは、僕の家宝とも言える。受験勉強で疲れた僕を癒してくれる・・・・。
「もしもし、聞いてるか。」
龍美の声に、僕は我に返った。
三人がニヤニヤしているので、慌てて顔をつくる。
「あのう、あいつがどこのどなたかわかりましたが、まだ、話がわかりません。」
こいつらデビルドラゴンと星のビーナスとの接点が、まったくわからん。
「うちらの武様と生徒会役員という立場を利用して、イチャイチャするからよう、
ちょっくらヤキを入れてやろうと思ってよ、この前、放課後、捕まえたんだ。」
こいつら、馬鹿じゃない。大馬鹿だ。思考回路が、オカシイ。
普通、そんな風に思わないし、思っても行動しないぞ。
「それで、どうなったんですか。」
まさか、こいつらに無理やり押し倒されて、あられもない恥ずかしい写真を
撮られたとかないよな。
秘かに興奮した僕は、先を促した。
「そう、せかすなって。それが、今日のおまえにやったこと、やられたことと
全部まったく同じよ。コンカツは出て来ねえけど。この意味、わかるよな。」
これは、驚かずにはいられなかった。