凍りつく図書館
「へえ~、こんなところに図書館があったんですね。」
「すげえ、本が一杯だ。」
「あたりめえだろ。図書館だから。」
無邪気に笑いながら、図書館に大惨龍が一歩足を踏み入れた瞬間、室内の空気が
一瞬にして凍り付いた。
調べものや勉強、恋を育む二人連れや一人読書に励んでいた罪のない生徒たちが、
蛇に睨まれた蛙などではない。龍に睨まれたミミズの如く固まる。逃げたくても、
逃げられない。恐ろしくて声も出せない。
「すみません、ちょっと席を外してもらえませんか。」
学年二の秀才の僕は顔が売れているので、声をかけると、蜘蛛の子を散らすように
全員がターボ・ダッシュで去って行った。
「すげえな。おまえ。」
「あいつら、おまえのパシリか。」
「そんな、違いますよ。」
感心する葵と紅子に、僕は心の中で、毒を吐いた。
『おまえらがよっぽど怖がれているのがわかんねえのかよ。馬鹿野郎。』
そんな僕の心を知ってかどうかはわからないが、龍美が先に図書館の机の上に
ドカンと座る。
その両脇に葵と紅子が胡坐をかく。
「突っ立ってないで、そこに座んな。」
一瞬、見破られたのかとドキッとした。実は、僕、短いスカートの上に、龍美が
片膝を組むものだから、見えそうで見えないので、ハラハラドキドキしていたからだ。
健康な高校男子には目の毒である。やっぱり、こいつは小悪魔だ。