表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は 君たちの玩具じゃない   作者: 三ツ星真言
25/59

決闘の結末

「夢想神伝流居合道 林崎 たける」と、

先に名乗りをあげられた。

 僕も、祖父の手前、今度はきちんと名乗るべきかと

迷っていたら、案の定、突き刺すような祖父の視線。

何か、居合にでも恨みがあるくらいの厳しさだ。

 僕だから良いけど、一般人なら心筋梗塞を起こすだろう。

その時であった。

「そこで、何をしている。」

 一つの懐中電灯が、僕たちを照らした。

 今度の邪魔者は、近くにある警察署の一番若い警察官だった。

 武は素早く居合刀を背中に隠した。銃刀法違反で捕まっては、

この上もない不祥事だ。

 祖父は慌てることなく威厳を持って、警察官の前に出た。

 すると、面白いことがおこったではないか。

「これは、近藤先生ではありませんか。いつも、お世話に

なっております。」

 祖父に、直立不動で丁寧に敬礼をする。

 忘れてた。祖父は、県警本部に頼まれて逮捕術の指導に

行ってたな。あれ、機動隊の指導だったかな。

 どちらでもいいけど、可哀そうに、みんな死ぬほど

しごかれているだろう。

「いや、いやこちらこそ、皆の衆が熱心に励んでくれて、ワシも

楽しんでおる。ところで、何か、事件でも。」

「いいえ、この極楽寺で決闘が行われると、署に市民から

通報があり、今どき、決闘とは悪戯電話かと思ったのですが、

念のためパトロールに来た次第です。」

「それは、殊勝な心掛けじゃだが、勘違いだな。」

「勘違いと申しますと。」

「若い者を集めて、夜間の野稽古をしておったところじゃ。

 何なら、一緒にどうじゃ。」

「とんでもない、本官のような未熟な者には、無理です。」

 必死に、誘いを断るところを見ると、祖父はよっぽど、

恐れられているんだな。わかるわ~。

「そうか、残念じゃ。」

「それでは、ほどほどにあまり遅くならないように、

 お願いします。では、本官は、これにて失礼します。」

 その警察官が駆け足で去って行くのを、みんなで見送る。

 極楽寺の境内に、静寂が訪れた。

 一番先に、口火を切ったのは、信じられないことに

龍美だった。

「おい、森。この決闘、うちの負けにしといてやるから、

 お開きにしようぜ。」

「何ですって。その、恩着せがましい口のきき方は。」

「だってよう、孫のケンカにジジババが出しゃばるなんて、

超ダサいじゃん。そんでもって、怪我人が出れば、

笑いものではすまねえ。警察にバレてるんだからな。

 高校にも、知られるぜ。いいいのかい、そちらの

次期生徒会長の武さんよ。全国大会の予選も近いよな。」

 こんな時の龍美は、悪魔ぶりをこれでもと発揮する。

 人の心の迷い、弱みに巧妙に付けこむ。

 僕が負ける前提で話をするのは、腹が立つけど

見事なものだ。絶対に、尻尾が生えてるな。

「どうする、星明。取り合えず、今日はお開きにしては。」

 先ほどの勢いと打って変わった武の様子に、星明は

大きくため息を付いた。

「仕方ありませんわ。今日は引き分けってことにしてあげる。

 とりあえずね。では、ご機嫌よう。」

 森 星明は、武を連れて、逃げるように、去って行った。

 ジジババじゃなかった、僕の祖父とは星明の御祖母様は

折角の玩具を奪われたように、ガッカリした様子だった。

『老い先短い年寄りの楽しみを奪わんでくれえ~。』

 こんな時だけ、都合の良いオーラを出す。

 まったく酷い話だが、文句を一言でも言ったもんなら、

瞬殺される。この二人の強さは化け物どころではなく、

もはや神の領域ってことは、わかりきっている。

「さてっと、近藤君。遅くなった。家まで送ってくれ。

 そちらのお二人は、これから大人の夜を楽しむのかい。

 シッポリと。」

 怖い者知らずの龍美に、僕の心臓は凍り付きそう。

「ふん、誰がこんなババアと。」

「それは、こちらの台詞ですわ。このクソジジイ。

 では、私も、これにて。ご機嫌よう。」

  星明の御祖母様は、口ではそう言いながらも、何故か

 名残惜しそうに去って行った。 

  祖父もまた何か言いたそうな複雑な表情をして、

 その後ろ姿が闇に完全に消えるまでジッと見つめていた。

  こんな顔、初めてみたな。祖父も、人間だったんだな。

  僕の視線に我に返った祖父は、僕に檄を飛ばす。

「何をしておる。早く、その女子おなごを家まで送らんか。

 今時珍しくはらが座っておる策士じゃ。丁重に扱えよ。」

「御意。」

  僕は、素直に従うしかない。龍美を連れて、その場を去った。

  一人、極楽寺に残された祖父が、何を考えていたのか・・・・、

  僕たちは知る由もなかった。

  


 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ