妖怪より怖い邪魔者
「安心しろ。ソイツは、男じゃ」
突然、闇の中から雷が落ちるような声が飛んだ。
『おい、おい、邪魔すんじゃないよ。ぶん殴るよ。』
心の中で思っていたら、闇の中から姿を見せた邪魔者の顔を
見た僕は、全身から血の気が引いた。冷汗が、全身からドッと
吹き出す。マジで寒気までしてきた。
本物の妖怪の方が、良かった・・・・・。
何も知らない龍美は、「引っ込んでろ、このクソジジイ。」と
僕が止める暇もなく、顔面に殴りかかっていた。容赦ない。
邪魔者は、微塵も動かず、躱そうともしなかった。
右手で龍美の右拳を包み込むように、差し出した。
バ~ン
大きな音がして、龍美は弾かれたように、真後ろに
跳ね返され、ぶっ飛んだ。受け身もままならず、地面に
したたかに背中を打ちつけた。
龍美は、どうにも信じられない、こいつは妖怪か、
怯えた表情のまま立つことができない。
全身の細胞が、このクソジジイに逆らってはいけない、
殺されると、集団直訴する。
そう、それが正解。その邪魔者の正体は、僕の祖父だった。
この合わせ技は、合気柔術や合気道の修行者でもできる者が
少ない神技の一つであるが、祖父にとっては児戯に等しい。
「御祖父さん。どうして・・・・」
「話は後じゃ。それより、折角の良い機会じゃ。
夢想神伝流居合道の達人に、稽古をつけてもらえ。
良いな。」
嫌と言ったら、速攻で殺される。首を縦に振るしかない。
突然の展開に眼を丸くしている森 星明と林崎 武の方に
振り返ると、祖父は丁寧に頭を下げた。
「突然邪魔して、すまぬ。この者は、ワシの孫じゃ。
ワシの育て方が悪かったのか、こんな姿をしているが、
正真正銘、男じゃ。だから、遠慮は要らぬ。
立ち会ってやってくれ。」
そう言われても、二人はどうしたら良いのか、わからない。
「お前もそう思うだろう。お前からも、頼んでくれ。」
祖父は、反対側の闇に向かって、声をかけた。




