あれしかない
僕は覚悟を決めた。
大東流合気柔術の技は、知りつくされている。
あれしかない。
星明が右拳で水月を突いてきたので、半身でかわしながら、
右足で星明の左足の太ももあたりに蹴りを入れようとした。
予想通り、星明は右手で僕の顎を突き上げながら、
入り身投げに来た。龍美の時と同じパターンであったが、
えげつないことに左手で僕の背中に抱え込むように
当身を入れようとする。
その瞬間、僕は左足で反動を付けずに空中に飛び、
右足をコンパクトに振り上げ、龍美の後頭部を蹴った。
これでも、ワールドカップのテレビ中継は見ている。
ゴールじゃなくて、僕の計算通りのオーバーヘッドキックが、
星明の後頭部に見事に決まった。
僕は、背中から地面に落ちたが、素早く受け身をとった。
星明は、そのまま眠るように、顔から地面に前のめりに
倒れ込もうとしていた。
『危ない』
僕は咄嗟に、背中を地面につけたまま、星明が倒れ込む場所に、
先に入った。
何も考えず、純粋に星明の美しい顔が血だらけになるのを防ぐため、
自分の身をクッション代わりにしようとしたのだが、僕の両手が星明の
両胸を下から支える形になってしまった。
それだけでは、すまなかった。
星明の唇が、偶然にもゆっくりと僕の唇と重なってしまったのである。
この惨劇に、龍美と武は唖然となってしまった。




