コンカツが邪魔をする
「頼む。近藤君、君の腕を見込んで、私に力を貸してくれ。この通りだ。」
泣く子も黙る大惨龍のリーダーが、僕に頭を下げるではないか。
それだけではない。慌てて、葵と紅子も頭を下げる。
盆と正月が一緒に来て、太陽が西から昇るみたいな衝撃だ。
最初は、僕をからかっているのではないかと思ったが、彼女らの真剣な眼差しが
僕の心に突き刺さる。
「詳しく話を聞かせてくれますか。」
僕も男だ。話だけは、聞こうと決めた。
「そうかい、ありがとうよ。」
龍美が微笑んだ。意外と可愛い。
ところがだ。
やっと、冷静に話ができると思ったところに、思わぬ邪魔が入った。
誰かが気を効かせて、僕の危機を知らせてくれたらしい。
やって来たのは、柔道部顧問で生徒指導部の主任、僕のクラスの担任の
近藤 克治だ。
生徒から、コンカツと呼ばれている。
本人は否定しているが、結婚相談所にこまめに足を運んで婚活に励むアラフォーだ。
ルックスも柔道家にしてはマシで、性格も良いんだけど、ずれているというか、
暑苦しいというか、女心を全く理解できない朴念仁、女性にはマジでモテないタイプだ。
そして、この大惨龍との関係は犬猿の仲などと生易しいものではない。
「俺の可愛い生徒に、何の用だ。」
そこら辺のヤクザもビビる迫力だ。
「用があるから呼んだんだよ。」
「コンカツはひっこんでろ。」
ヤクザ映画に出てくる姉さん並みに、葵と紅子も負けてはいない。
いきなり、近藤先生と激しい火花を散らす。
龍美もスウ~と戦闘態勢に入る。このままでは、すこぶる危険だ。
「先生、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。
人前では恥ずかしいので、こんな場所で勉強を教えてくれって頼まれていたところです。」
僕は、これ以上のもめ事は嫌なので、一芝居打った。
「えっ~、おまえらが勉強ってか。そうか、やっとその気になってくれたか。
先生は、嬉しいぞ。」
「はい、留年だけはしたくないもので。」
しおらしく、龍美が答える。なかなか、頭の回転が速い。
「それじゃあ、今から早速、図書室に行こうか。」
僕の申し出に三人は黙って従うしかない。
「そうか、そうしてくれるか。すまんな。流石、学年二の秀才、コンドウムじゃなくて、近藤奏夢。」
僕の無言の抗議に、先生は慌てて訂正した。学年二は余計だよね。
ちなみに、僕のクラスに近藤 拓也なる生徒がいる。
僕の親友だが、みんなから、コンタックと呼ばれている。
風邪薬みたいで本人は嫌がっているが、僕のコンドウムよりましだと僕は常々思っている。
親が付けてくれた名前に文句を言うのは筋違いだ。
高校に入学して、先生にも生徒にも近藤が多いので、区別するのにコンドウムと最初に呼んだ奴が
悪い。それにのっかかるみんなも、悪い。
これでも、中学までは、コンチャンだったんだぞ。
「近藤君、何してんだよ。早く行こうぜ。」
龍美の声に我に返った僕は、大惨龍と図書館に向かった。
「頑張れよ。先生は、応援しているからな。」
近藤先生が、僕たちが見えなくなるまで、大きく手を振ってくれていた。