偽物騒動
「どうしますか。降参なされますか。」
星明の凍り付くような冷たい声の問いに答えず、龍美は
後頭部をさすりながら立ち上がり、僕の元に歩いてきた。
「選手交代だ。後は、宜しく。栗 殻さんよ。」
やっぱ、間違えている。倶利伽羅龍の倶利 伽羅だよ。
説明する暇もなく、背中を押されて、僕は星明の前に立った。
実際に目の前にすると、ゾクゾクする。
自分と同じくらいの年齢の美しい女子高生が、これほどの境地に
あるなんて、これはもう奇跡だ。
「たまらないな。」
めっちゃ怖いくせに、笑みが浮かんでしまうのが、武術家の
悲しい性だよね。
「貴女、偽物ね。」
いきなり、僕が男だと見破ったのかとドキリとした。
「何のことかしら。」
僕は、テレビでよく見る芸人のお姉言葉を使った。
「とぼけても無駄よ。そのBカップの胸、偽物ね。本当は、
Aカップ、かなりの貧乳と見ましたわ。」
それ、そこかい。僕は、呆れた。
そこを突っ込むなんて、胸のサイズが気になるのか。
モデル体型なので胸にコンプレックスを持っているのかな。
龍美も必死に腹に手を当て、笑いたいのをこらえている。
葵と紅子がいたら、腹を抱えて笑っていただろう。
「腹、痛え~。」「腹筋崩壊だ。」とか、絶対言ってる。
「失礼ね。貴女も、ツイッターのプロフィールに、
バスト83cmって載せてあるけど、本当は80cmも
ないんじゃない。」
僕も女子の気持ちになり、言い返してやった。
「そうだ、そうだ。栗 殻のことを笑うなんて、目くそ鼻くそだ。」
負けた腹いせに、龍美が責め立てる。女子って、本当怖いよね。
「まあ、何てお下品な。二人とも、土下座させてあげる。」
森 星明は、口が耳まで裂けたように笑った。