決闘の助っ人
「おい、こら。もう少し、ゆっくり歩け。」
いつにも増して小悪魔アゲハの表紙のモデルのような
濃いメイクをしているのに、龍美は僕にしがみついてくる。
へえ~、意外と可愛いとこあるじゃないか。
確かに、午後八時前の荒れたお寺、極楽寺の境内に続く道は
これでもかとうっそうとしていて、薄暗く不気味であった。
幽霊どころか、妖怪の一匹や二匹住んでいそう。
それより、困ったことに、龍美の柔らかくしまった体の接触が、
たまりませんなあ。この前の図書館での激しいキスを思い出してしまう。
その上、この状態を肝試しみたいに楽しんでいる自分に、
僕はあきれてしまう。
実は、龍美も怖くて怖くてたまらないのだが、この状態が
嫌じゃなかった。
それが、ヤンキー道一直線、デビルドラゴンのリーダーとして
一番怖かった・・・・・。
やっと、極楽寺の境内に着くと、すでに、決闘の相手の
森 星明は来ていた。
その横にいる助っ人は・・・・、林崎 武だった。
当然と言えば、当然。これ以上、頼もしい助っ人はないだろうな。
まだ右手だが、立派な袋に入った居合刀を携えている。
「約束通り、来るなんて感心ですね。褒めて差し上げます。
それで、そちらの方が、助っ人なのね。
こちらは、紹介するまでもないわね。」
「あ~、知っているとも。居合道部の林崎 武だろう。
居合の王子様とか呼ばれて、調子こいてるよな。」
もしかして、龍美。好きな人の前では、ツンツンするタイプか。
こりゃあ、面白い。
「別に、調子こいてませんけど。それより、そちらの方は。」
急に、僕にふられたので、困ってしまった。
名前やプロフィールまで、詳しい打ち合わせをしていない。
「倶利 伽羅と、申します。宜しくお願いします。」
ブッ
咄嗟に名乗ったのだが、横で龍美が噴き出すではないか。
ばれたら、どうしてくれるのかしら。
「どうしたのかしら。何か、面白いことでも。」
不思議そうに、森 星明が小首をかしげる。
その仕草、たまらなく萌える。やっぱり、本物は違う。
声も鈴を転がすように美しく、この世の者とは思えない。
やっぱ、僕が星のビーナスと呼ぶだけのことはあるな。
「いやあ、これから高慢ちきなお前が、這いつくばって、許しを
乞う姿を想像したら、楽しくなってしまって、つい。」
「それは、こちらの台詞ですわ。」
森 星明も、負けてはいない。口撃力は、今の所、互角か。