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第十三話





姉妹の乱入は真人にとってよほど想定外のことであったらしい。


おそらく、17年の人生のなかで初めて真人はパニックに陥っていた。




…………おかしい。男と女は別れてお風呂にはいるものではなかったか?




少なくとも中御神家ではそうであったし、男が女の素肌を見るのは慎みのない行為だと教えられていた。


胸が膨らみ始めた真砂の着替えを偶然見てしまって泣かれてしまったのを今も覚えている。


現に二人とも林檎のように顔を朱に染めているのに…………何故だ?




「…………それでは………ご主人さま………どうぞこちらへ………」




シェラがタオルに石鹸を泡立てながら真人を洗い場へと促した。




「ご主人さま早く〜!」




プリムもタオルを片手に手をわきわきさせていた。どうも羞恥心より楽しさが勝っているようだ。






「いや、ちょっと………その………なんで?」






もはや何を言っているのかわからない真人であった。




「………少しでもご主人さまのお役に立ちたいんです………いけませんか?」




シェラに悩ましそうに上目づかいに見つめられては真人に拒否できるはずもない。




「……え〜と、その……お世話になります………///」










…………目のやり場がない




真人の左手にシェラ、右手にプリムが陣取って嬉々として身体を洗っている。


背中を流すだけじゃなかったのか………?


流石に腰まわりは死守したが頭のてっぺんから足の指のつめ先まで洗われてしまっている。


ふと左を向けば薄いながらも、くっきりと自己主張するシェラの胸の谷間


さりとて右を向けば幼いゆえの無頓着さで大きく割れたタオルの裾から覗くプリムの太股


水を吸いタオルが肌にじっとりと張り付いていることとあいまって艶かしいことおびただしい。


見てはならないとわかっているのに吸い寄せられるように目が追ってしまうのは真人自身も自覚していない男の哀しい性だった。






……………お兄様を不潔です!




真砂が血相を変えて怒っている姿が目に浮かぶ。




………ごめんよ真砂……オレにも何がどうなってるんだか………




ご主人さまの髪って……しなやかで枝毛もないし……本当銀細工みたいだわ………


ご主人さまって脱いだらたくましいんだ〜えへへ〜////




哀しい性に振り回されていたのは真人だけではなかったかもしれない。










夕食はシェラとプリムがごちそうを作ろうと奮闘している。


特にシェラは喜びの余りその透きとおった声で唄を唄いはじめプリムと真人を苦笑させていた。




「お姉ちゃんは料理が大好きなんです」




そういうプリムも笑み崩れている。


手際よく姉を手伝う様子からいってプリムの料理好きも相当なものだろう。


内心参加したい真人であったが、これは姉妹によって頑として拒否されていた。




「厨房は女の戦場です。殿方がお入りになるものではございません」




止む無く真人はリビングで一人ぽつんと夕食の到着を待つはめとなった。




………………寂しい




違和感が真人を包む。ちょっと待て、オレが寂しいだって?




誰かといたい……誰かに触れたい……そんなことは考えたこともなかった………真砂以外は…


中御神家は一族全てが渡り神を殺すための道具でなければならなかったから………




ああ、そうか




真人は自分でも知らなかった己の望みを、深い歓喜とともに受け入れた。




オレは………本当は寂しかった……ただ、真砂以外は無理だと諦めていただけだったんだ………




「ご主人様、夕食をお持ちしました!」


「頑張りました〜!」




「……………ありがとう………」


こんなオレと一緒にいてくれて……………




シェラがすっかり元気になって好きな料理にうちこんでいる様子がうれしい


プリムが大好きな姉の周りをせかせかとまとわりついて無邪気な笑顔を浮かべているのがうれしい


二人が自分の傍で働くことを心底喜んでいることがうれしい


何よりこれらをうれしいと感じることのできる自分の心の変化が…………






真人の歓喜を重ねた透徹な微笑の直撃を受けた姉妹は、せっかくできあがった料理を取り落とすところであったという………










夕食はかつてないほど楽しいものとなった。


濃厚で味わいの深い姉妹の故郷のものだというシチュ−には真人も素直に感嘆した。


こんな風に食卓を囲むというのは真人にとって生まれて初めての経験である。


座敷牢で与えられる精進料理か、修業先の御山で自炊するサバイバルな食生活が真人の食のすべてなのだから……




「美味しいね………すごいや…………」




真人の満ち足りた笑顔に姉妹は顔を見合せてお互いの健闘を称えあっていた。




一方姉妹たちにとってもこの夕食は特別なものである。


なんといっても初めて父親以外の男性のために作る食事だった。


真人のいかにもご満悦な反応を見ると、やはり女性特有の満足感が湧き上がる。


そして………切実な理由として、奴隷商人に与えられた食事はあまりにお粗末すぎた。


これほど腕をふるい贅を尽くした食事は奴隷として捕えられたこの1年見たことすらない。




「んぐんぐ……ご主人様!このスナギモっていうのすごく美味しい!」




頬をプックリ膨らませるほど料理をかきこむ妹をはしたないと思いつつも、自分もフォークとナイフの手が止まらなかった。


それにしても、ご主人様のリクエストで作ったこのスナギモノサシミというのは絶品だ。


シェラとしては内臓を生で食すというのはいささか抵抗があったのだが、一度口に入れてしまえば病みつきになりそうな味わいだった。




最初は作りすぎたかと思われた料理はこうして無事三人の胃袋へ綺麗に収まってしまっていた。








食後の紅茶でのどを潤した後、真人はリビングのテーブルにシェラとプリムを座らせると意を決したように切り出した。




「二人に聞いてほしい話があるんだ…………」







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