ゴリラガール(佑樹)
七月に入り、例年通りならそろそろ梅雨明けも近い。そして、梅雨が明ければすぐに夏休みだ。
厚い雲が雷光で一瞬光り、数秒遅れで雷鳴が轟く。梅雨に雷が鳴ったら、それはいよいよ梅雨明けが間近い証拠だ。
今年の夏はどこに行こうか?
自転車しかなかった去年までとは違い、今年の僕には[しるばー]という頼もしい相棒がいる。
この前燃費を計ったら1㍑平均65㌔走っていた。モンキーは5㍑タンクだから単純計算で一回の給油で325㌔走れることになる。伊勢から東京までで約400㌔であることを考えるとかなり遠くまで行ける。
つっても、まず僕の体がもたんからそこまで無茶せんけどな。
僕がゴーグルを左手でちょっと調整した直後、それまで小降りだった雨が再びドシャ降りの豪雨になった。道路がまるで川のようになり、視界もかなり悪い。
こんな日はちょっとスピードを出すだけで、タイヤと路面の間に水の膜ができて操縦不能になるハイドロプレーニング現象が起きる。操縦不能になったバイクは転倒るしかない。
モンキーのタイヤは排水能力の高いブロックタイヤだけど、僕はそれでもアクセルを緩めて努めて慎重に運転した。
香奈ちゃんが免許取ったら、雨の日の運転も教えたらないかんな。と頭の中にメモっておく。
香奈は努力家だ。あれから毎日、学校では筆記試験に備えて交通法規を勉強していて、放課後は僕の家に来て、モンキーの整備に打ち込んでいる。
あの集中力が彼女を日本一のスプリンターにしたんやな、と納得した。
姉貴によって[メッキー]と命名されたあのゴールドメッキ・モンキーの整備は思った以上に難航している。なにしろ30年以上前のバイクだ。エンジンやフレームといった頑丈な部分はともかく、消耗部品や電装系は経年劣化が著しい。
まず一旦全部バラバラにしてそれぞれの部品を検査し、使える部品は磨き上げ、心許ない部品は新品に替え、錆びている箇所は丁寧に錆を落として再塗装した。
あちこちで断線していた配線束も新品に替え、チューブ式のタイヤを自転車と同じ要領でパンク修理を行い、タイヤ内蔵のドラムブレーキの摩擦材も新品に換えた。
エンジンからはドロドロになった古いオイルを抜いて内部を洗浄して新しいオイルを入れ直し、磨耗していたピストンリングも新しい物に換えた。
エンジンに空気中のホコリや塵を吸い込まないようにする為のエアーフィルターは、元々装着されている純正品の能力が低いので、あえて社外品のパワーフィルターに換装した。ノーマルの50ccでも吸排気系に余裕を持たせるだけでかなりポテンシャルが上がる。
難しい作業は基本的に僕がやってやっているが、香奈も毎日手をオイルで真っ黒にして頑張っている。
あとはシートの革を張り替えて、スロットルやブレーキやクラッチのワイヤーを交換して、気化器を分解整備して、組み上げれば一通りの修理は終わる。
筆記試験の日は明日なので、明日うまく免許が取れればタイミング的にはちょうどいいはずだ。香奈自身もそのつもりで勉強を頑張っている。
今度こそ、うまくいきますように。と僕は願わずにはいれなかった。あんなに頑張っとるんやで、その努力は報われるべきや。まぁなんにせよ、学校に着いたら試験に備えて勉強やな。
そんなことを考えながら峠道を上っていく僕の横を、僕と同じ射和高校指定の合羽を着た生徒の白いバイクが追い越していく。特徴的なそのシルエットに思わず目を奪われた。
モンキーから派生した兄弟車、HONDA Z50J GORILLA
見た感じモンキーとほぼ同サイズで形もよく似ているが、モンキーの5㍑タンクよりかなり大きな9㍑タンク。モンキーは後ろにだけ荷台があるのに対し、ゴリラには前後それぞれにキャリアがあるので積載能力も高い。車に積んで目的地まで持って行けるよう、モンキーはハンドルやステップが折り畳み式になっているのに対し、ゴリラは固定されているのでその分安定性が高く、長距離を走るのにも向いている。
レジャー用バイクのモンキーを街乗り用に特化させたのがゴリラだ。
しばらく前から学校のバイク置き場にあるのには気づいていたが、実際に走っているところに遭遇するのは初めてだ。
のんきに見送る僕の目の前で、そいつの乗るゴリラがカーブで不自然に傾く。
げ、前輪滑っとる!? やばい、こける!? あああああっ!
――ザッシャーンッ!
派手に水しぶきを上げながらスリップしたゴリラがすっ転び、ライダーが投げ出されて僕の走行ルート上にゴロゴロと転がる。
相手が転ぶのが分かっていたから即座に車輪がロックしない程度の急制動をかけて停車することができたが、それでも間一髪だった。
あ、危っぶね――――。
へたにスピードを出していたら僕まで転倒に巻き込まれて人身事故の大惨事になる所だった。ほっと胸を撫で下ろした僕が顔を上げると、2、3㍍先で仰向けに転がったまま、そいつはぴくりとも動いていなかった。
すうっと背筋が寒くなる。
……もしかして、やばいんじゃね?
慌てて路肩に[しるばー]を停めてそいつに駆け寄り、軽く肩を揺する。フルフェイスのヘルメットのせいで顔も分からない。
「おいっ大丈夫か!? 意識あるか?」
ちょっと強めに肩を揺すって声をかけても反応がない。
うわっどうしよう。これやばいよな。落ち着け俺。えっと、こういう時はどうするんやったっけ?
自動車学校の応急救護の授業で習った内容を頭の中で復習する。
……まずは、心肺が停止しとらんか確認して、もし停まっとったら人工呼吸と心臓マッサージで蘇生やったな。
手首で脈を取ろうとしたが、僕の手が震えてどうにもならない。
ええいこうなりゃ、直接胸から脈を取った方が早い。僕はそいつの心臓の辺りに手のひらを押し付けた。
――むにっ
「え?」
まったく予想していなかった弾力に手のひらを押し返されて一瞬頭が真っ白になる。だぶだぶの合羽のせいで気付かなかったが、よく見れば双丘が胸の辺りの布を下から押し上げていて、ヘルメットの下からは明らかに男のそれとは違う細く長い髪が覗いていて……。
お、女の子?
「……う、う」
呻きながら意識を取り戻したらしい彼女とシールド越しに目が合ったのが分かった。
『………………』
数秒間の気まずい沈黙の間に、今のこの状態が非常~にまずい状態であることに気付く。仰向けに倒れたままの彼女。彼女の左胸に触れたまま固まっている僕。自分の胸に触れている僕の手に視線を移す彼女。そろそろと手を引っ込める僕。大きく息を吸い込む彼女。
「いっやあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
絶叫と共に思い切り頬をひっぱたかれた。衝撃で目の前にチカチカと火花が散る。
「なっ、なんだよあんた!? 私に何したっ!?」
両手で胸をガードして後ずさりながら叫ぶ彼女に、痛む頬を押さえながら言い返す。
「……っ痛ぅ。何もしてへんわ!」
「嘘っ! 私の胸を揉んでたじゃないかっ! この痴漢!!」
「あんたがバイクでこけて意識が無かったからっ! あくまで救命としてちゃんと心臓が動いとるかどうか確かめようとしただけやっ! 悪気があったわけっちゃうっ! そもそも触れるまで女やって気づかんかったし!!」
一文ずつ区切りながら叫び返す。
僕の声にハッとしたように彼女は周囲を見回した。倒れたままの愛車のゴリラ。道路脇に停車している僕の[しるばー]。自分と同じ合羽で身を包んだ僕。ところどころ破れた自分の合羽。
「…………あぁ、そっか。そうだった」
合点がいったようにうなずき、彼女はのろのろと立ち上がってヘルメットを外した。
「!?」
露わになった素顔に思わず目を奪われる。
そこにいたのは、色白でまるでビスクドールのように整った綺麗な顔立ちの、十人中十人が文句なしに認めるであろう美少女だった。彼女が素顔をさらしただけで辺りが明るくなったと錯覚してしまうほどだ。
彼女は汗と雨で頬に張り付いた髪をかき上げ、僕とまっすぐに向き合った。
「……助けようとしてくれてたのに、いきなり殴ってゴメン。お詫びと言っちゃあれだけど、かわりに私を殴ってくれ!」
そう言って、歯を食いしばって目を閉じ、僕の方に頬を突き出す彼女。
……な、なんというかいさぎよいな。
「誤解が解けたんならもうええよ。それに、女の子の顔を殴るとかマジありえんし。それより、体は大丈夫なんか? 頭とか打っとったら病院行かないかんで?」
僕がそう尋ねると、彼女はおずおずと目を開いた。
「……頭は、打ってないかな。転がった時にちょっとばかりシェイクしたから意識飛んじゃったけど、たぶん大丈夫。とにかく、ゴメン! ほんとに悪かった」
「ええさ。まぁお互い雨の日は気をつけような。なんにせよ、大したことなくてよかったわ」
「そうだね。私もこの先は慎重に運転するよ」
ヘルメットをかぶりなおし、横倒しのゴリラを起こす彼女。
「にしても珍しいな。女子でゴリラに乗っとるなんて。しかもその特徴的なパールホワイトは88年式のホワイトスペシャルやな?」
「うん。うちの親父さんが若い頃に使ってたのを貰ったのさ。良いバイクだよ。それまではスクーターに乗ってたけど、今はこれにぞっこんさ」
そう言いながら彼女はキックペダルを踏み込む。
――スコンスコン……スコンスコン……
「あれ? おかしいな」
――スコンスコン……スコンスコン……
「えー。なんでぇ?」
――スコンスコン……スコンスコン……
何度キックしてもエンジンがかかる素振りが無い。
「困ったな。壊れちゃったかも……」
ヘルメットを脱ぎ、泣きそうな顔で、でも口調だけは軽い調子でそんなことを言う。
きっと彼女なりの精一杯の強がりなんだろう。
この町境の峠には当然民家なんかないし、学校まではまだけっこう距離があるし、平気を装ってはいるがバイクでこけた以上、打撲や擦り傷は少なからず負っているだろうし、雨が弱まる気配もないとなれば、彼女にとってはもう踏んだり蹴ったりだ。
それでも彼女は、泣き言を言わずにゴリラを押して坂道を上り始めた。
「私はぼちぼち行くからさ、君はかまわないで先に行って。遅刻するよ」
彼女は気丈にも一人でなんとかするつもりらしい。
「ほんとうに大丈夫?」
「ノープロブレムさー。さ、行った行った」
しっしっと追い払うような仕草で手を振る。こっちを見ようともしないのはきっと今必死に涙を堪えているからで……。
僕は[しるばー]で一旦、坂の上のトンネルまで駆け上がり、トンネルの中に[しるばー]を停めてから、ゴリラを押す彼女の所まで駆け戻った。
ブラインドカーブを曲がった所で鉢合わせた彼女は案の定、泣きながらゴリラを押していて、戻ってきた僕の姿を見るなり決まり悪そうにゴシゴシと袖で顔を拭った。
「なんだよぉ。私のことはほっといて先に行けっつったじゃん。あーもう、おせっかいな奴だな、君は!」
「まぁおせっかいは否定せんけどな。でも、この状態の女子を放置して行くんはさすがに後味悪すぎるわ」
そう言いながら彼女の反対側からゴリラを支え、押していく。とりあえずトンネルに入れば雨は凌げるし、照明も点いているから原因を調べることもできるはずだ。
二人で汗だくになってゴリラを押しながら坂を上っている途中で、彼女が急に言った。
「……わ、私、轟 響子。君は?」
「は、速水、祐樹。い、一年C組。轟さんは?」
「に、二年H組。……あと、轟って呼ぶの禁止。響子って名前の方で呼んで! 轟って名字、強そうで嫌なんだ。お、女の子の名字じゃないよね」
「了解。響子さん」
響子さんが照れくさそうに笑う。
「さっきは、ごめんよ」
「なにが?」
「おせっかいなんて、言って。ほんとうは、戻ってきてくれて、嬉しかったんだ! ありがとう、祐樹」
「どいたまー」
……っていきなり名前呼び捨て? と、突っ込むタイミングを逸してしまった。
今更指摘するのはちょっと気まずい。まあ、彼女は先輩やし、僕も彼女を名前で呼んどるんやで別にええかと納得する。
「そういえば、速水って名字、もしかして、お姉さんとか」
「おー。沙羅姉は、俺の姉貴やけど」
「そっかぁ、佑樹は、沙羅先輩の、弟かぁ。ふふ」
「何が、可笑しいん?」
「なんでもないさ」
押しながら話すと息切れするのでその後はお互いにしゃべらずに黙々と押し続け、やっと坂を上りきって、トンネルに響子さんのゴリラを運び込んだ。まだ新しいトンネルの中はそれなりに広く、車道より一段高くなった歩道も車が通れるぐらいの幅がある。ここまでくればとりあえず安全だ。
響子さんがトンネルの壁に背中を預けて何度か深呼吸をする。
「くはぁ、けっこうきつかったね。助かったよ。……あーあ、学校に着く前に汗だくになっちゃった」
「とりあえず、合羽だけでも脱いどきなよ。ちょっと汗が引くまで」
「そだね。合羽着たまんまじゃ蒸れるもんね」
合羽を脱いだ響子さんはポロシャツの上に白のカーディガンを羽織り、下は夏服の水色のチェックスカートだった。
「うおっ……」
ショルダーバッグをたすき掛けにしているので、その肩紐がちょうど胸の双丘の間を通っているいわゆるπ/(パイスラッシュ)状態になっている。
てゆーか誰が思いついたんや、π/とか。的確すぎるやろ。
伸縮性の高いポロシャツでそれをしているのだから彼女のかなりのボリュームを誇る形の良いソレがかなり強調されてしまっていて、僕はさっき意図せずして触れてしまったその感触をつい思い出して一人で赤面してしまった。
「あれ? どうしたんだい?」
響子さんは僕のそんな様子にはお構いなしでショルダーバッグからキャップを取り出してさっとかぶり、へへっと笑ってみせた。
「この髪がね、悩みの種なわけさ。家を出る前にどんなに丁寧にセットしてきても、ヘルメットで蒸れ蒸れになってこうべタッとしちゃうわけだ」
「それで帽子」
「うん。Gジャンの似合う、帽子美人目指してます」
「……キョウコサンハ、ボウシビジンデスネ」
「うむっ。心がこもってないのがちょーっと気になるけどよしとしよう」
ニコニコと笑う響子さんに思わずドキッとする。きっとクラスでも人気者なんやろな。気さくやし、すごい美人やし、スタイルも抜群やし。
あかんあかん。こんなところに二人きりでおったら、何か妙な感情が芽生えてしまう。
僕は邪念を追い払うように頭を振って、リュックからいつも持ち歩いている携帯用の工具セットを取り出して響子さんのゴリラの横にしゃがんだ。
「え? ちょっと祐樹、なにするの?」
「動かない原因をちょっと調べてみるわ」
「そんな、いいよ。そこまで迷惑かけられないよ! ここからは下りだからエンジンがかからなくても惰性で転がっていけるし、国道まで出ればバイク屋もあるからそこまで押していけば見てもらえるし。もう行かないと祐樹まで遅刻しちゃう」
「俺だけ先に行っても響子さんのことが気になって授業になんか集中できんって。言うやろ? 毒食わば皿まで。1マイルの奉仕に徴用されたら喜んで2マイル行くべし。右の頬を打たれたら他の頬も差し出せ……ってこれは違うか」
「……最後のは厭味だね」
適当な格言を羅列しながら順番にゴリラを調べていく。88年式のゴリラは、最近毎日弄っている香奈の84年式モンキーと基本構造は全く同じだからチェックポイントは頭に入っている。
燃料の残量は問題なし。燃料コックは開いてる。チョークはかかっていない。さっきまで普通に動いていたことを考えると混合気のバランスは問題ない。……となると。
混合気に点火して爆発させる為の点火プラグに目をやる。
「なんや。外れとるだけやん」
「え? なにが?」
「これ。点火プラグのコードが転倒た衝撃で外れたんやな」
エンジンのシリンダーヘッドのプラグにつながってるコードが外れかかっている。家庭用電化製品に例えればコンセントが抜けかけている状態に近い。
カシャッとプラグコードを奥までぐっと差し込み、キックペダルを踏み込む。
――ドルンッ! ドッドッドッドッド……
あっさりエンジンが再始動し、アイドリングを始める。
「はい。問題なし」
「うっわぁ! 祐樹すごい! こんなに簡単に直しちゃうなんて」
「こんなん直すなんてレベルっちゃうに。普段からいじってれば自然に覚える程度やし」
「祐樹にとって大したことじゃなくても、私にしてみればすごいことだよ! 私だけじゃ途方に暮れて、バイク屋まで押していかなくちゃいけなかっただろうからね。よかった。ほんとうに助かったよ! もう一時はどうしようかと思ったよ~」
響子さんの目が潤んでいる。
「どいたまー。これでなんとか一限目には遅刻せんですむかな。たぶんホームルームはアウトやけど」
僕は結局使わなかった工具セットをリュックにしまって背負いなおし、その上から合羽を羽織った。
半ヘルとゴーグルをかけなおし、[しるばー]にまたがってエンジンをかける。振り向けば、響子さんもわたわたと脱いだばかりの合羽を着なおしている。
「わっわっ。ちょ、ちょっと待って! すぐ着替えるから先行かないでっ」
その様子に思わず笑ってしまう。なんやこの可愛い生き物は。
「あれ? さっきは先に行けって言うてへんかったっけ?」
「さっきはあれだったからっ! ほらっ旅は道連れって言うじゃない? ……せっかくだから一緒に行こうよ~」
「おっけ、おっけ。待っとくからゆっくり着替えて」
響子さんが照れたように笑う。
「へへへ。なんか転んだことは最低なんだけど、おかげで祐樹と知り合えたんだから、そう考えるとまあそうまんざらでもないかな?」
「まあ確かになー。学年も学科も違うし、普通やったらまず知り合うことはなかったやろな」
「よしっ。じゃあ私は今日のこの出会いを記念してこれから7月6日を[ゴリラ記念日]と呼ぶことにしよう」
「わけわからんわ!」
「え? 知らないのかい? 有名な短歌なのに。このバイクがいいねと君が言ったから 7月6日はゴリラ記念日」
「俵万智先生に謝れ!! ネタが完全に滑っとるわ!!」
「ゴリラで滑って転んだだけに、滑ったネタがまた……」
「……俺、先行くわ」
「わぁっ! ゴメン! はしゃぎすぎただけなんだよ。置いてかないでぇ!」
「……」
そんな馬鹿馬鹿しいやり取りがあった後、ようやく合羽を着終わった響子さんと僕は一緒に走り出した。トンネルの向こうは相変わらず雨が降り続けてたけど、その雨はもうそんなに不快ではなかった。