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和解(佑樹)

僕が席につくと、前の席の乃木(のぎ)がニヤニヤしながらいつも通りの癖の強い名古屋弁で、こそこそっと訊いてきた。


「よぉよぉ、今日はどにゃあしたんね? 浅野ちゃんと喧嘩でもしたんきゃ? えりゃあ男前になりゃあしてよぉ」


「男前?」


「その頬。ビンタくらった痕やね?」


「……」

 

僕の沈黙を肯定と受け取った乃木が調子付く。


「あれやね? こうムラムラッときて浅野ちゃんに張っ倒されるようなことをしやぁしたんやろ?」


「お前っちゃうんやでそんなことせんわ」


「うん~? その割にゃあ、えりゃあ露骨にハブられとぉやんか」

 

気のせいかと思ったけど、乃木にまで気付かれているってことはやっぱり避けられたのか。でも、香奈を怒らせるようなことをした覚えがないんだよな。


「さあ? なんでやろな」

 

僕は乃木にはあいまいに笑って肩を竦めてみせた。


リュックから取り出したタオルで濡れた髪を拭きながらそっと香奈の様子を窺えば、彼女は机に突っ伏している。僕の視線を追った乃木がおかしそうにくっくっと笑いながら言う。


「えらい分かりやすく凹んでんなぁもー。おいおいどうするんね、彼氏ィ?」


「彼氏やと!?」

 

聞き捨てならない単語に反応して瞬時に乃木に向き直る。


「照れんでええて。そんなことよか、あの激ツンの一匹狼、浅野ちゃんをデレさせるなんてどにゃあやったんね? いきなり一緒に弁当食べる仲になったと思やぁ、今やいつでも一緒。ったく羨めやましい! ……なんか腹立ってきたがや。勝手に喧嘩でもなんでもしとれやっ、この裏切りもん!」

 

勝手に勘違いして盛り上がって、挙句の果てには怒り出してフンッと前を向いてしまった。

 

あーでも、僕と香奈の関係って傍から見れば付き合ってるように見えるんか。あ、もしかして、そのことで誰かから冷やかされたりして、彼女は嫌な思いでもしたんかな? それやったら、さっきの態度にも納得がいく。


僕と彼女はあくまで友達で、付き合っているわけじゃないんだからそんな風に勘違いされたら彼女も迷惑だろう。


そう自分に心の中で言い聞かせた瞬間、なんか、胸がこう、締め付けられるような感じがした。


「…………」

 

一瞬感じた違和感を誤魔化すようにやや乱暴に髪を拭いて、そのタオルをそのまま頭に巻いて後ろで結ぶ。

 

ズボンまで濡れてしまったからポケットのケータイが心配になって取り出してみると、いつの間にか着信があったようで着信を示すLEDが点滅していた。バイクを運転中に電話がかかってくると、バイクの振動とエンジン音のせいでまず気付かない。


「……」

 

机の下で開いて確認してみれば香奈からだった。


留守電メッセージも残してくれているようなので、ケータイ用イヤホンをつないでメッセージを再生してみる。


『……ゆ、佑樹君。あたし、香奈やけど。……その、なかなか()おへんから心配なんやけど、事故……とかっちゃうよね? 1限目までに来んかったら沙羅さんに電話するよ?』


あ、そっか。心配してくれとったんやな。だからちょっと気恥ずかしかったんか。そりゃそうやんな。別に彼女を怒らせる心当たりなんかないし。まったく、乃木のアホが変なこと言うから焦ったわ。


なんだかすごくほっとして、そのままSNSを送る。。


――メッセージ、今聞いた。心配させてごめんな。それと心配してくれてサンキュ!!


 

こんなとこかな。ピッと送信完了。

 

数秒後、香奈がのろのろと上体を起こす。スカートのポケットからケータイを取り出して画面を開く。僕からと知ってハッとしたような表情がその横顔に浮かぶ。

 

そのまま、数秒間画面を注視していた彼女は、僕の方を振り向いて、何故か一瞬泣きそうな顔をして、そのあとばつが悪そうに笑みを浮かべてくれた。

 

ほっと胸を撫で下ろす。よかった。機嫌を直してくれたようだ。

 

乃木が「もう和解しやぁしたんかよぉ。ちぇっ、つまらん」などとぶつくさ言っていたが当然無視した。



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