6話 「グリフォンは神の乗り物です」
門星学園 27階階段前
27階にあるものは、第三音楽室に中等部教室。特に寄るところはない。
なぜこんな中途半端なところに止まっているかと言うと…ただのこむら返りである。
コカトリスの攻撃を受けてもピンピンしていたのに、たかが足を釣っただけで動けなくなるのもなんだと思うが…
ただ一歩も動けない。
理由は簡単なのに、治すのが難しいのがこの状態異常だろう。
しばらく壁にもたれていると、横から渋い声が聞こえてきた。
??「おい、どうした?」
見ると、巨大な鷲の頭があった。
しかし、体はライオンのような姿をしてある。
なるほど、グリフォンは授業用かと思っていたが生徒だったか。
俺「足釣っちゃって。」
グリフォン「そうか、確か30階に保健室があるはずだが。動けないようだな。」
俺「あの…肩か背中貸してくれませんか?」
グリフォン「そうしたいのは山々なんだが申し訳ない。我が種属の決まりで神以外は乗せられないのだ。」
正直知っていた。
ただ決まりだったのは知らなかった。
俺「ううん、いいよ。保健室の場所教えてくれてありがとう。」
グリフォン「構わない、では頑張れ」
そう言ってノソノソとどっかへ行ってしまった。
さて、また動けない。
どうしよう。
通りがかりの人に助けを求めようとも廊下に誰も見えない。
かなりピンチだと思っていると、
コツコツと窓から音が聞こえてきた。
なんとか這いながら窓の鍵を開けると、鳥が入ってきた。
ハーピィ「やあ確か…僕くん?」
なんだ、その夏休みのゲームのキャラみたいな名前は。
俺「多分俺くんだ。」
ハーピィ「そうそう、でどうしたの?同じクラス兼地球系列なんだし話してみ。」
なんか頼りなさそうだが、頼ってみるか、
俺「足釣った。」
ハーピィ「なにそれ!すごい!」
なにがだよ。
俺「とにかく30階まで行けたらいいんだが。」
ハーピィ「任せて僕くん!あたしが飛んで連れてってあげる!」
そんな小さな体で人間一人持ち上げられるわけがない。
それから、俺くんを忘れるな。
やはり鳥頭か。
ハーピィ「足に捕まった?」
俺「ああ、ってかわかるだろ。」
ハーピィ「じゃあ行くよ!」
バサバサ
バサバサ
バサバサバサバサ
同じところで羽ばたきを続けるハーピィ。
ハーピィ「ハァハァ…ねえ、体重何キロ?あたしは15kg」
俺「女子なんだから体重言うの躊躇うだろ。軽いな。56kgだ。」
ハーピィ「ごじゅっっ…!?」
メチィッ!
…なんかすごい音なったぞ?
ハーピィ「……」
俺「どうした?なんで倒れこむんだ?」
ハーピィ「足…釣った。」
被害者が出てしまった。
なんてことだ。
俺が加害者になってしまったではないか。
ハーピィ「50kgって重すぎぃ。デブ。」
俺「何言ってんだよ。これでも男子高校生では軽い方だ。」
ハーピィ「ヴァンプは50kg切ってたよ〜」
俺「あいつはもっと太るべきだ。」
ハーピィ「もうやだー。動けないー!」
俺「飛べないのか?」
ハーピィ「足が痛くてそれどころじゃないーっ!」
隣で鳥の金切り声を聞くと、さすがに耳が痛い。
すると、今度は大きな狼が話しかけてきた。
??「なんだ?どうしたんだ?」
ハーピィ「ひいぃぃぃっ!食べないでェ!」
確かに大きさ的には俺もハーピィもすぐに食べてしまいそうな大きさである。
しかも、三つ頭だ。
三頭猟戌…
ケルベロスか。
俺「すいません。こいつ鳥頭なんで。足釣っただけなんで。」
ハーピィ「なんであんたは冷静なの!?」
ケルベロス「いや、それはいいんだ。それになにか手伝えることはないか?」
俺「じゃあ、あの保健室連れてってくれませんか?」
ケルベロス「成る程、少々手荒になるがいいか?」
ハーピィ「ふぇ?」
ケルベロス「おい、お前ら起きろ!」『え?なんすか?』「手伝え。」『…わかりましたよ』
それぞれ三つの頭が喋る。
すると、
ケルベロス「少し我慢してくれ。」
俺「え?」
ケルベロス『すいません、一瞬ですから』
ハーピィ「なに?」
二つの頭は同時に2人を咥えた。
傷がいかないように甘噛みである。
少し気持ちいい。
しかし
ハーピィ「うわあああああ!うわあああ!」
鳥は泣いていた。
そして、その刹那、凄い勢いで階段を駆け上がる。
正直、かなり気持ち悪い。
そしてそのまま保健室に到着した。
ケルベロス「先生、患者だ。」
??「はーい、なになに?」
目の前にいたのは、保険医定番のサキュバス…ではなく…
俺「コロ…ボックル…」
それだけを言い残し
脳のミックスジュース状態の俺は、力尽きたかのように倒れた。
………
…
コロボックル「びっくりしたよー。だって突然唾液まみれで飛び込んでくるんだもん。」
飛び込んできたのはケルベロスだが、もう何も言うまい
コロボックル「はい、これシップ。」
俺「…すいません。」
俺は学校医さんが布団のように持ってきたシップを太腿に貼った。
俺「…ありがとうございます。」
コロボックル「いいって、それにしても日本人かぁ。日本懐かしいなぁ。」
そうか、コロボックルは北海道の妖精だっけ?
ちなみにハーピィはベッドでふかふかしている。
明日には羽毛布団ならぬ、羽毛まみれ布団だろう。
迷惑極まりない。
俺「じゃもう行きます。」
コロボックル「そう。魔法ないと大変だね。僕も手伝いたいけど魔法が小さいから。」
俺「いえ、それでは。」
ちなみに後日知ったことだが、ハーピィは足の筋肉どころか関節ごと外れていたらしい。
……
…
さて、ついに40階。
最上階だ。
最上階までは螺旋階段になっており、広さもあまりない。
あの学園長のことだからもっと広いと思っていた。
階段を登るとそこにはちょっとしたスペースと扉が一つあるだけ。
俺が最上階に足を踏み入れると、となりから中性的な…それでもって無表情の人が出てきた。
??「…私は門星学園長執務を担当しております、ホムンクルスです。」
ホムンクルスか。人造人間もいるとはな。
俺「学園長に会いたいのですが。」
ホムンクルス「申し訳ありませんが、予約がない方の面談はお断りさせていただいております。どうかお引き取りを願います。」
俺「そ、そんなぁっ!」
こ、ここまで来たのに…
もう帰る気力もないよ…
俺「…休憩してもいいかな」
ホムンクルス「どうぞ」
階段に座り込む。
足がズキズキして痺れているようだ。
こめかみを揉もうとすると汗が溢れてきた。
緊張のしすぎで汗腺も閉まっていたのだろうか…
??「あれ?君は…新入生の人間かな?」
俺「…学園長ですか?」
やばい、幻が見えるまで来てしまったか。
学園長「えっ!?凄い熱!と、とりあえず中入って!」
こうして意識が朦朧としている間に、学園長室への入室が許可(というより推奨?)された。
グリフォン:
鷲の翼と上半身、ライオンの胴体を持つ伝説の生物。
ギリシャ神話よりも前からおり、伝説としてはかなり古い部類に当たる。神の乗り物や黄金を守るなどと称される。
ケルベロス:
ギリシャ神話に出てくる冥界の番犬。
三つの頭をもつ犬の姿をしている。ちなみに、主人公たちが浴びた唾液からは猛毒植物であるトリカブトが生えたという伝説もある。
コロボックル:
アイヌの伝承でいわれる小人。
いろんな話があるが、昔、アイヌとコロボックルが商談をしていたという話もある。
ホムンクルス:
ヨーロッパの錬金術師が生んだ人造人間。
一説によるとフラスコの中でしか生きられない、生まれながらあらゆる知識を得ているなどという話がある。