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55話 「ヘカトンケイルは多肢です」

中学部の発表も見終え、今日のプログラムがすべて終了した後、俺は一旦自室に戻ることにした。


俺「中学部のも良かったなぁ。《人魚姫》で来るとは思わなかったけど」


ラミア「あと人魚役に人魚が出るとは思わなかったけど」


確かにあの人も一応中学部なんだよなぁ。あれほどの適任者は他にいないような気もする。


他のクラスも、《シンドバッド》やら《オズの魔法使い》など平行世界で有名な作品をしていた。

皆、よく調べたものだと思う。


ラミア「それにしても全部俺くんの世界の物語なんだよね? どれもこれも面白かったよ!」


俺「そっか。……やっぱ異世界の話って興味深かったりするの?」


ラミア「私は……そう思ったけど〜。俺くんはそう思わない?」


俺「うーん、経験ないから分からないや」


でも多少たりとも興味はある。


やはり異世界の物語となると、文字通り『違う世界』を見せてくれそうだ。


俺「っていうかラミアさん、なんでついてきてるの?」


ラミア「え? なんでって?」


俺「……。なんで当たり前のことみたいな顔してるんだよ」


大げさに目を丸くするラミアに少々呆れながらも、俺は撒こうと歩みを早める。


しかし、もちろん早歩き程度では体躯の差もあり苦もなく合わせられてしまう。


この調子だと、きっと走っても合わせられてしまいそうだ……笑顔で。


そして遂に部屋の前に……


王女「あの……俺さん」


ラミア「えっ!? 陛下!?」


俺「っていうか、さっきまで上で楽観してませんでしたか?」


王女「ええ。終わったのでそそくさと逃げてまいりました」


自由な王女ですな。


俺「それで、用事とはなんですか?」


王女「はい! 実は私、本当はこれから学園祭のお手伝いに教室へ行かなければならないのですが、急に国家予算の会議が行われることになりまして……私、城へ戻らないとならないのです。急遽今すぐに」


俺「ええ!? こんなところで立ち話してる場合じゃないのではっ!?」


王女「いえ! それでも学園祭の方も大事な用事です! ……ですが、そのことをタウロ様に申し上げたところ『国のためならば城へ向かったほうが良い』と言われまして」


まあ普通そうなるよな。

というか国の会議と学園祭を天秤に掛けられても困る……。


王女「そこでお願いです! 私の代役として教室の手伝いをしてはいただけないでしょうか?」


俺「そんな王女陛下から頼まれると流石に断りづらいです……」


王女「え……あっいえ! そんなつもりは! ……でも、私も昨日一昨日と頑張りました。 城に帰っても練習してましたから」


……アレを城で練習してたのか、王女陛下。


……城の人どう思ったんだろ。


王女「とにかく! 俺さんお願いします!」


ラミア「分かった!」


王女「ありがとうございます! では行ってまいります!」


……

………


俺「……ラミアサン」


ラミア「……ごめん。で、でも俺くんだって受け入れるつもりだったでしょ!?」


……反論できない。


俺「……まああんな目で見られたらなぁ」


ラミア「……私もあんな感じで見つめたら効果あるのかな」


俺「……効果はあるな。蛇睨みだし、動けなくはなるだろう」


ラミア「私はメドゥーサじゃないよ!」


*****


門星学園 高等部βクラス


王女陛下を送るとのことでラミアとも別れ、教室に入るとタウロさんがバンダナにTシャツ、ズボンという佇まいでいた。……馬用のズボンってあったんだな。


タウロ「む? 俺くん、今日は休むのではなかったのか?」


俺「いやぁ、王女陛下に頼まれてしまって」


タウロ「ふむ……そうか。じゃあ料理の方をしてくれないか? 俺くんがいれば料理に不安はない。代わりに誰かをフロアに出すことになるが、まあ嫌がらないだろう」


俺「……タウロさん、本当にチーフみたいだな」


そう言うとタウロさんは、暖簾をかけてからふふんと大きな胸を張った。


タウロ「指揮官と呼んでくれても構わないぞ」


俺「考えときますよ」


俺はTシャツに着替え、頭に白いタオルとズボンになると厨房に入った。


悪魔「ん? 俺くんどうした?」


俺「王女陛下の代理。フロアじゃなくて料理してくれって」


悪魔「なるほどな。んー、ヘカントケイル」


すると、悪魔に名前を呼ばれた多手の生徒は忌々しげに悪魔を見た。


ヘカトンケイル「ヘカトンケイル」


悪魔「そ、そうか済まない。それでフロアの方に行ってくれないか?」


ヘカトンケイル「私が料理下手っていうなら……」


悪魔「違う違う! こっちは人手足りてるし、俺くんが来てくれるならヘカトンケイルがフロアに居てくれた方が回転も良くなるんだよ。ほら、お前手多いだろ」


そう言われた彼女は、俺を一瞥すると6本のうちの一本の手で後頭部を掻いた。


ヘカトンケイル「……そういうことなら……」


悪魔「悪いな」


俺「(悪魔の仕業じゃないな、ほんと)」


すると、衝立を隔てた向こう側からタウロさんの声が聞こえてきた。


タウロ「じゃあそろそろ開店する……」


ラミア「間に合ったー!! そういや私も教室だったー!」


タウロ「遅いっ!! ……とにかくさっさと着替えろ。フロアだろ」


ラミア「ふぇいふぇーい」


タウロ「では改めて、開店するぞ」


*****


教室の店はモノの数分で大繁盛となった。


悪魔「ところでどうして『居酒屋喫茶』なんて考えたんだ? 流石に酒屋ぐらいはどこの世界も知ってるだろ?」


俺「俺の世界を知るためには、まずは居酒屋を知ることだからな。例えば料理の種類が豊富だったり、接客の仕方が独特だったり」


まあ流石に学生だから酒は用意できないけど。


悪魔「……よく分からないな」


俺「まあ普通は分からないだろうな」


衝立の向こうから、フロア担当のクラスメートたちが「らっしゃーせー!!」という威勢の良い声を脇に聞きながら、俺はテーブルに上がったタコの唐揚げを置いた。


続けざまにタウロさんの「4番テーブル唐揚げ3! サラダ1!」という声が上がり、俺たちも応えるように「はい喜んでー!!」と叫ぶ。


?「あ、あの俺くん、運んでいい……かな?」


鶏肉に下味をつけた衣をつけている途中、突如後ろから声をかけられた。

そこには、クラスメートである大人しめの女子が立っていた。見た目はほぼ人間と変わらないが、全体的に地味目である。


俺「いいよ、席番号分かる?」


?「う、うん! 大丈夫……」


俺「じゃあそこのチャーハンセット4番席にお願い」


?「わ、分かった!」


何やら緊張している様子。とはいえ、フロア担当である分頑張ってくれるのはありがたい。


……それにしても地味な見た目の割に近くにいるだけでドキドキする。


俺「……ふぅ、落ち着け落ち着け」


ふと、脇を見ると箸とフライパンが勝手に出し巻き卵を作っている。


クラスメートであるポルターガイストは姿が見えない上に声が出せないため、普段は会話する用に生徒手帳(チャット)を使っている。まあ今回は余裕がないためシンクの隅に置かれている。


……ちなみに入学から一ヶ月、彼がクラスメートだと気付けなかったのは秘密だ。

ヘカトンケイル:

本来であれば頭50胴体3手100という訳分からん巨人なのだが、今作においてはただ手がやや多いだけの人と思っていただければ。

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