3話「日本人は自己主張が苦手です」
入学式がある講堂はとても大きく、まるでコンサートホールのようだった。
ラミア「同じクラスなんだね!よろしく!」
俺「あ、うん。よろしく…」
ラミア「もしかしてさ、緊張してる?」
俺「え?いやそんなこと…まぁうん。」
ラミア「わたしも。」
俺「え?」
ラミア「だって私以外にここにはラミアがいないんだよ。不安に決まってるじゃん。」
俺(あぁそうか。みんな一緒なんだ。独りだから強さとか高貴さとか関係なく不安なんだ。)
ラミア「ねぇ好きな種族って何?」
俺「え?…うーん、やっぱり人魚かな?同学年にはいないようだけど。」
ラミア「人魚かぁ、確か中等部にはいるらしいよ。」
俺「おお、それは是非とも会いたいな。」
ラミア「わたしは人間が好きなの。」
俺「え?」
ラミア「本でしか見たことないんだけど、凄いかっこよかったり可愛かったり色々で面白いし、何もない土地を数年で街にしたりとか本当にすごいなぁって思うの!今年来るらしいし是非とも会いたいなぁ。」
俺(もしかして、俺を人間と気づいてないのか?)
ラミア「本当人間ラブだぁ。会ったら絶対友達になって男の子なら子作りまで行きたいなぁ。なんかラミアっぽいよね…ってどうしたの?」
俺「べ、別になんでもないよ!ほら始まった!」(なるべく人間ということを隠そう)
入学式は式というより講義っぽう先生の話が続いただけだった。
それでわかったことを纏めると、この世界は学園を軸としており、言葉が母国語に勝手に変換されるようになって聞こえるらしい。
ちなみに、話をした先生の中に人間は居なかった。
放送「次は学園長からの祝辞です。」
さて、種族はなんだろ。
ラミア「わぁ綺麗!人かな?」
俺「それはないと思うよ。」
たかが人間にこんな世界が創造出来るわけがない。
学長「皆さんご入学おめでとうございます。わたしは門星学園学園長のワルキューレといいます。」
俺「ワ、ワルキュ…!」
ラミア「誰〜?」
俺「…ヴァルハラって知ってる?
戦いの英雄たちが死後集まる永遠に戦いの終わらない場所なんだけど。戦士たちをそのヴァルハラに送る神様の名前がワルキューレって言うんだよ。」
ラミア「じゃ、じゃあ戦いの神様…?」
どうしよ…人生終わったかも。
ワルキューレ「あの…なんか落ち込んでる様子ですが別に戦わせたりはしませんし、ここはヴァルハラではありませんよ?」
俺「え?」
ワルキューレ「わたしはこの学園を通じて戦いの醜さや差別を無くそうと考えています。だから、絶対に卒業させます。」
俺(なんだまともな人じゃないか。)
ワルキューレ「これでいいよね、じゃ挨拶終わり。頑張ってね。」
俺(前言撤回)
……
式終了
2F教室 高等部βクラス
ラミア「同じクラスだね!」
俺「…そうだねぇ。」
ラミア「そういえば君の種族って…」
俺「あーそうだった、まだ他の生徒に挨拶してないや。クラスメートなのにしとかないとね!」
ラミア「え?あ、ちょっと!…まぁ後ででいいや」
危ない、もう少しで食われるとこだった。いろんな意味で。
??「お前も大変なんだな。」
声をかけられたのは二人の少年。
片方は制服を着崩し短髪にアクセサリといったヤンキー系と、正反対のメガネをかけた真面目そうな人だった。
ヴァンプ「俺はヴァンパイア。長いからヴァンプでいいよ。でこいつは成績優秀者。」
オオカミ「名前で呼べ。狼男だがこっちも長いからオオカミと呼んでくれたらいい。」
俺「あぁうん、よろしく。」
ヴァンプ「お前は人間か。」
俺「え!?」
ヴァンプ「匂いで分かった。でも襲わないから安心しろ。」
オオカミ「でもどうして隠している?この学園に籍をおいている限りお前は安全のはずだが。」
俺「あーその。実は…」
俺はラミアに関するリスクを伝えた。
ヴァンプ「なるほど」
俺「頼む、黙っててくれ。」
オオカミ「黙るのはいいが、すぐ話すことになるぞ?」
俺「え?それってどういう…」
??「にゃー。席につくにゃ。」
突然猫ボイスが聞こえた。
先生だろう。言われたとおり全員席につく。
周りはやはりモンスターばかりだ。
ケンタウロスやハーピィ。鬼までいる。
先生は服を着ている子猫の姿をした妖怪だった。
先生「ご入学おめでとうございます、そして始めましてだにゃ。僕はケットシーっていうにゃ。国語担当ですにゃ。」
俺(やはりケット・シー。長靴を履いた猫か。しかし、国語…確かに心理学は強そうだけど何語になるんだろう?)
ケットシー「じゃ、順番に自己紹介にゃ。たまに名前を悪用する輩がいるから種族と出身だけでいいにゃ。」
俺(え。それだけでも致命的なんですが)
最初に自己紹介をしたのはラミアだった。
ラミア「初めまして!サウスランドから来ましたラミアです!一年間よろしくお願いします!あと人ラブです。」
俺(最後いらないだろ。)
サウスランドというのは国名ではなく世界の名前である。
一人一人違う世界から来てることもあり世界名は生徒手帳に書いてある。
ヴァンプ「ヴァンパイアだ。イーストホールから来た。よろしくな。」
オオカミ「緊張するな。」
ヴァンプ「っるせ。」
オオカミ「同じくイーストホールから来た狼男だ。よろしく。」
俺(なるほど同じ世界からだからこんなに仲が良いのか。)
次は小さな女の子だった。
羽が生えてるし天使かな?
天使「初めましてー、天使でーす。エデンから来ました。よろしくね。好きなものはこの子でーす。」
彼と呼ばれた少年「っな!」
天使「ほらほら次君だよー?」
少年「くっ…閻国から来た悪魔だ。一年間世話になる。」
天使「かわいーなぁ。」
悪魔「な、やめろ!辱める気か!」
俺(彼も大変だな。狼になれない羊と羊になるつもりのない狼か。)
次は前の席のケンタウロスの少女だった。
ケンタウロス「テイタス出身、ケンタウロスだ。以後しばらくの間世話になる。」
俺(ケンタウロスっぽいな。厳格なイメージだったし、プライドも高いだろうから気をつけないと。)
次は鬼の生徒だ。後ろ姿だからわからないが女の子のようだ。
鬼「ヤマト連邦からきました。鬼…です。よろしくお願いします。」
俺(鬼っぽくない。しかし、次のハーピーの子が挨拶を終えたら俺の番だ。)
ハーピー「ヘイコウセカイジューゴウ?から来ましたハーピーです。よくわかんないけどよろしくです。」
俺(平行世界か。じゃあ俺の世界に似てるのかも…)
ケットシー「おーい、次は君にゃ。早くするにゃー。」
俺「あぁはいすいません。えっと地球連合から来ました。種族はえっとその……です…」
……
オオカミ「濁したな。」
俺「なっ!?」
ラミア「よく聞こえなかったよー?呼び名がないとキツイしもう一回。」
俺 (しかたがない…)
俺「地球連合出身!クラス高等部β!出席番号15番!種族は人間だ!」
人魚:
マーメイドと呼ばれることもある。各地方に伝説があり代表は人魚姫である。正体はジュゴンやリュウグウノツカイといわれている。魅惑の歌声で人間を誘惑したところを海に沈めて殺すといったり人魚の肉を食べることで不老不死になるといった話もある。
ワルキューレ:
北欧神話で継がれている半神。戦いで死んだ戦士たちを終わらない戦場であるヴァルハラに送るとされている神。女神として表現されることが多い。
ヴァンパイア:
吸血鬼。世界中に伝説があり、今回話に出てくるのはヨーロッパのドラキュラである。
血を吸って生き、吸われたものも吸血鬼になるとされることが多い。
狼男:
獣人の一つ。いくつもの伝説があり、普段は普通の男性の姿だが満月や丸いものを見ることで狼に変わるとされている。多くの場合は人格を失うが今作では自我を保つことができる。
ケット・シー:
アイルランドの妖精の猫。
犬ほどの大きさの黒猫で描かれることが多く、二足歩行で言葉を話すことができる。
「長靴を履いた猫」「猫の王様」などが著名作品。
天使:
いくつもの神話に載る神の使い。
種類が多いが作品の多くでは恋を結ぶキューピッドとして書かれることが多い。
悪魔:
神に敵対するものとされ、仏道を害する悪神や人間を誘惑するもの、煩悩の具体化など表現されることがある。
ケンタウロス:
ギリシャ神話に出てくる下半身は馬の姿で、上半身は人間の姿の種族。
好色で酒好きとされることがあり、大人しいがプライドが高い。弓が得意。
鬼:
日本の妖怪。1〜3本の角をもち、牙があり肌の色が赤や青など様々である。
角をもち、虎の毛皮の服をきていることから、丑と寅の間である北東(鬼門)から来るとされている。金属の棍棒を振り回し悪いものや強いものの象徴である。
ハーピー:
ギリシャ神話に出てくる女性の顔を持った鳥である。顔から胸までが人間で翼と下半身は鳥の姿である。食欲が旺盛だが、下劣な存在として描かれることが多い。