1話「人間は感情が豊かです」
主人公宅
俺「うわぁ! ちょ誰か来て!」
俺の悲鳴を聞き、部屋の扉が開かれた。
妹「お兄ちゃんどうしたの? ってうわぁ! は、鳩!?」
部屋に入ってきた鳩は妹に驚いて部屋から逃げて行った。どことなく申し訳ない気持ちになった。
俺「あ……ありがとう……」
妹「なんか嫌な気分」
でも、鳩が人間から逃げるのは普通だと思う。……俺は例外だけど。
妹「また、窓開けたの?」
俺「換気だよ。鳩が来るとは思わなかったけど」
俺は汗をぬぐいながら答えた。
妹「ホントお兄ちゃん動物に好かれるよね。人相手にはそれほどなのに」
俺「お前、学年上がって毒舌になるつもりか?」
妹「まだピュアな小学生なのだ」
俺にはお前がただの小2には見えない。
妹「そんなことよりさ、手紙だよー」
妹は分厚い封筒を適当に床に置いた。
俺「なんだ? 封筒?進○ゼミ?」
妹「それはないと思うよ、封筒透明なやつじゃないし」
手紙は古典洋画に出てくるような蝋で固められた封筒だった。
豪華すぎて疑いたくなる。
俺「ホントに俺宛?」
妹「うん、ここにお兄ちゃんの名前書いてある」
妹の言うとおり、手紙には『美月 泰介と俺の名前が書いてある。
とりあえず、蝋を剥がして封筒を開ける。
珍しい封筒だから開けられるか不安だったが、思ったより簡単に開いた。
妹「おお、付録は?」
俺「進○ゼミじゃない言ったじゃねぇか。……えーっとこれは……」
妹「そんなめんどくさいことしないで、一気に出しちゃえー」
俺「だ……だめ! 出ちゃう〜っ!」
俺が一枚一枚確認しようとしていたのに、妹は一気に散らかした。
妹「お兄ちゃんヘンタイ」
俺「そもそもお前なんでそんなテンプレ知ってんだよ。ほらグチャグチャだよ……」
妹「あれお兄ちゃん見てこれ!」
俺「え? なんだこれ、見たことのない字なのに読める……なんでだ?」
謎のゼノグラシアを体験しながらも読み進める。
妹「これは『にゅうがくあんない』?」
俺「?……見せてくれ」
そこには考えられないことが書いてあった。
『我が門星学園は其方の入学を許する』
俺「……」
妹「……おめでとう」
妹から祝福の声が聞こえて、俺はやっと我に返った。
俺「ちょっと待て! なんだよ門星学園って! 聞いたことないし、受験も受けてねぇのになんで合格通知が来てるんだよ!?」
妹「裏にも何かあるよ?」
俺「ん?」
妹に言われたとおり、裏にも言葉が並んであった。
『今、貴方は「ちょっと待て! なんだよ門星学園って! 聞いたことないし、受験も受けてねぇのになんで合格通知が来てるんだよ!?」と叫ばれたことでしょう』
妹「読まれてるね」
….…いや、ここまで一文一句間違えてないとか、どこかで見ているんじゃないか?
『我が校は完全抽選にて生徒を選出いたします。ですので、身に覚えがないことを前提としております』
俺「……」
妹「……おめでとう」
もはや俺には無茶苦茶な方針に突っ込む気力などなくなっていた。
俺「校風は?」
妹「校風紹介……こんなのがあったよ」
妹から差し出された紙をみる。
そこには、妙にハイテンションな書き方でこう綴られていた。
『私立門星学園は魅力がいっぱい!
其の一、完全無料!
入学金も授業料、教材費、部費、また学寮の食事も三食無料です!』
おお、これは魅力だ。怪し過ぎる。
私立なのにどうやって運営してるんだ。
『其の二、授業の保証。
この学校を受けた生徒はいずれも人生に成功しています! 例|(スーパーモデル、国王、魔王)』
……これはもはや突っ込めたとしてもツッコミが追いつかない。
妹「私は魔王より漆黒の堕天使とかになりたいな」
妹の言葉には無視して読み続ける。
『其の三、保険保証。この学校なら絶対死にません!』
なんだよこれ! ダンガ○ロンパフラグ!?
妹「核シェルターでもあるのかな? ……あ、ここなんか書いてる」
『こちらの字は、ルメヨ文字よ呼ばれており、正式にはルメヨールイルストダム文字といいます。
魔法の力により誰にでも読めるようにされております。』
もはや俺にはどうでもいい情報だった。
俺「……ふぅん」
妹「魔法だって! すごい! お兄ちゃんもできるようになるんじゃない!?」
一方妹は興味津々だそうで食いついてきた。
俺「魔法か……んまぁ、読めるもんな。知らない字なのに」
妹「んー。もしかして信じてない?」
そりゃ信じた方が夢はあるが……
やはりゲームや漫画みたいなことはあり得ないと思う。
俺「まぁ……んー。微妙なところ」
妹「ふーん、まあ普通そうだよね」
まあ、どちらにしろもっと情報が必要だと思う。
俺「パンフレットとかは無いのかな……9あった」
妹「これだけ日本語だね」
今度はまた一つ変わって凛々しい文字で綴られていた。
『私立門星学園は創立1560年の学園であり、名誉な将来が約束されています。卒業者の中には、モデル、国王、魔王などが代表されます。』
妹「お兄ちゃん魔王なって」
俺「続き読むぞ」
悪いな妹よ。
スルーしないと身が持たないんだ。
空気を読んだらしい妹は、まともな質問をしてきた。
妹「授業ってどんなことするの?」
俺「授業は英国数理社その他に一つ追加されていた」
妹は急かすように首を傾げた。
俺「魔法だとよ。しかも、学寮は強制らしい、しかも休日にしか帰れない」
妹「ええ!?」
妹がショックなのも無理はない。
なにより二人暮らしなのだから。
俺「ただ衝撃なのは、一人につき一部屋が割り当てられていて、一つの街がまるまる学校の配下にあるらしい」
そこまで話すと妹からもっともな質問がきた。
妹「でもお兄ちゃんみたいなのが魔法使えるのかな?」
俺「まあ、あれだ。某小説でもなんとかなってたし大丈夫じゃないか?」
俺は映画しか見たことがないが、確かヒロインの子が魔法の使えない家庭の普通の子だったはず。
妹も納得したようにこくりと返事した。
俺「あとさ……一番衝撃なのが、生徒や先生なんだけど……」
妹「なに?」
このパンフレットの書き方だと多分ここからが本題になるのだろう。
これは俺にとって……いや普通の人から考えてもあり得ないこと。
俺「人間が一人もいないんだ」
少しの間が開き妹が呆然として聞く。
妹「? ……なにそれ、動物王国かなにか?」
俺「そんな可愛らしいものじゃない。ここ見て」
ここは、説明が難しい。実際に見てもらう方が早そうだ。
『我が校は種族を毎年一種につき一名を入学させています。また教師も種族が被らないようにしております。』
妹「おー。だから誰も死なせないか、確かに死ぬもんね弱いやつなら」
もっともなことだが、俺が言いたいのはそういうことじゃない。
俺「ここ見て」
『今年度新しく入る種族はハッシャク、ダークエルフ、人間の三種族です。』
ーー今年度新しく入るーー
これはつまり過去に人間の生徒の例がなかったということになる。
妹「……お兄ちゃん」
妹も心配したのか俺に声をかけてくる。
俺「ああ」
妹「ハッシャクってなに?」
俺「そこかよ!? ……多分八尺様っていう日本の都市伝説のことだと思う。身長が230cmくらいでショタコン」
俺はツッコミながらも頭に「?」マークを浮かべている妹に大まかな知識を教えた。
妹「ふうん、よく知ってるね」
俺「神話や都市伝説とかファンタジー関係は強いから」
それを聞くと妹はトーンを落として尋ねた。
妹「じゃあこの学校にも興味ある?」
俺「……まあ、ないことはない」
正直な気持ち行きたい。
しかし、妹を放っておくわけには……
妹「じゃそこにすれば? 家は吉井さんにも手伝ってもらうし」
吉井さんというのはこのアパートの大家さんのことだ。
……元気な顔をしているが妹の配慮だろう。
妹の性格上、ここで気を使うと逆に凹まれる。
せっかくなので従うことにした。
俺「……そう……だな。お金いらないしな。公立も滑ったしここでいいや」
妹「……理由不憫だね」
妹と俺は互いに苦笑いした。
******
ついに入学の日が来た。
妹のことだから落ち着かなくなると思ったがそんなことはなかった。
妹「カバンちゃんと用意した? 着替え入ってる?」
……出来た妹だ。お母さんみたい。
俺は最後にその小さなオカンに別れを告げた。
俺「じゃまた帰るから」
妹「いってらー!」
妹は最後まで悲しい顔を見せることはなかった。
******
路地裏
転移の儀式はなるべく人のいないところでする。
これくらいは流石に俺でもわかる。
俺「ここら辺でいいよな……?」
俺はぼそりと独り言をつぶやき手紙に目を落とした。
『通学方法:魔法陣(下図参照)を書く。そこに契約として体の一部を中心に一つ飾る。』
こんなんでいけるのか不安だが……。とりあえず髪の毛を抜いて魔法陣に落とした。
「……ニンショウカンリョウ」
俺「わっ喋ったしこれ。……で? 入ればいいのかな?」
音のような声を出した魔法陣は鈍い光を出していた。
間違いなければこの中に入ることで転移ができるはず。
俺は思い切って、足を進めた。
………
…………………
門星学園 校門前
俺「ここが……門星学園」
こうして今に繋がる。
人間のいない学園……まさしく門星学園といったところか……
さて、これからどうなるのだろう。
……それにしても気持ち悪い、転移酔いというものか。
説明
ダークエルフ:
北欧神話に出てくる種族のこと
容姿はエルフと同じ美形だが褐色で豊満。
多くの場合、悪や混沌をモチーフとしている
八尺様:
現代の都市伝説の一つ
身長が八尺(約2.5m)もある白い服の女性で、幼い少年を好む
八尺様に魅入られると数日のうちに殺されるとか…
以前はとある村で封印されていたが、地蔵が壊されたため全国に出た模様。