第1話
さぁ、物語のはじまりだ
ドームのなかに打球音が木霊する。
ここは中学テニスの冬の全国大会の会場だ。
「まさかキミがここまで勝ち残るとは思ってなかったよ」
「そりゃどーも」
俺はネットの向こう側に立つ中学生対峙していた。
「新設校で歴史の浅い光山を全国の上位レベルまで登りつめるとは、さすがだよ。神崎恭介」
「2年生にして全国大会2連覇中の洛成のキャプテンになったアンタにほめて貰えるとはな。うれしいよ、徳川聖士郎」
全国大会、 団体戦の準決勝。
この一戦で決勝へ進む学校が決まる。
すでに4戦して2勝2敗。負けるわけにはいかない
「いけー!神崎!!」
「徳川キャプテン!お願いします!!」
「7ゲームスマッチ、プレイボール!」
声援を受けながら、試合開始のコールが行われる。
(そうだこの一瞬だ!俺はこんな戦いを待っていたんだ)
繰り広げるラリーのなか、俺は確かに笑っていた。
楽しんでいた。自分より上の存在との戦いを。
(たとえどこにボールがくるのか"知って"いても追いつくことができないなんてな…だからテニスは楽しいのだ)
スコア的には五分五分だが、試合の主導権は間違いなく俺が握っていた。
「やはり強い。『コート上の予言者』という二つ名は伊達ではない、ということか」
「……あんまりそう呼ばれるのは嫌いなんだがな」
コート上の予言者…まるで予言でもしているかのように、相手の打つ場所を先読みし、正確に相手の苦手なところに打ち返して返していく。それが俺のプレイスタイル。
「目に映るもの全てについて知る」ことができる能力を最大限利用したものだ。昔(というか今も)、俺はこの能力を疎ましく思っていたが、その能力がチームの勝利に貢献できているとなると受けとめざるをえない。
「たとえ相手が予言者だろうとそうでなかろうと僕は全力で潰すだけだ」
「なっ?!おっと!」
徳川はボールの勢いに緩急をつけ始めた。
だが俺には徳川の体の動きから、どのボールが遅く、そしてどのボールが速いのかが徳川をみただけでわかってしまう。
(甘いボールがくる!)「もらった!!」
強打を打ち込もうとしたときだった。
『モウ動カナイヨ』
右肩に激痛が走る
「ぐっ……ぁ」
右肩を見るとなんとなくではあるが、右肩の腱を痛めていることがわかった。
俺の能力はレントゲンのような透視とは違うので細かいことはわからないが、もう動かすことができないということだけは知ることができた。
「……………。無理は言わない。棄権するんだ。神崎恭介」
「……なんだと?」
「キミはまだ2年生。来年もあるんだ。ここで無理して肩を壊してどうする?ここはしっかり休めるべきだと思うよ」
それに、キミとの試合がこんな形で終わるなんて僕は望まないからね。と徳川は付け足した。
確かにそうかもな。でも、それでも俺は、今勝ちたいんだ!
そう、言い放ったつもりだった。これがスポ魂系のマンガなら、ここから立ち上がり、奮戦するのだろう。だが現実は非情だった。
簡単にいえば、気絶した。
そして、光山中学は、負けた。
ここから俺、神崎恭介は壊れていった。
いや、不貞腐れていただけなのだ。己で壁をつくり、己で孤独の道を歩いた。
ただそれだけの話。
名前を考えるのが一番大変です