プロローグ
俺は、この世界が嫌いだった。俺の大切なものをすべて奪っていったから。
あの頃の俺には何もない。何もやりたくない。何もできない。なんでも「知る」ことができたって、失くしたものを取り戻す術なんてないことを知らされるだけだった。
そう、あいつに出会うまでは
「「やれやれ…」」
家をでてから麓へ続く下り坂、なぜあんなところに建てたのか、そんなことを思いながら長い坂を下りきったときにつぶやいた言葉が誰かと重なる。
「やぁ、おはよう。いい朝だね」
見知らぬ女生徒。どうやら俺に話しかけているようだ。
「見知らぬとは心外だよ、恭介」
訂正。よく見知った女生徒。こいつとは中学からの仲だ。
「相変わらず早いな、秋葉」
「キミは律儀な男だからな。僕が待っているとわかればなんだかんだ言いながらキチンときてくれる。嬉しい限りさ」
こいつは変わりものだ。女のくせに自分のことを僕というし、口調は男っぽい。しかも人前では伊達眼鏡を掛けている。
外で眼鏡を外すのは俺と話すときだけなのだ。理解できん。
「そりゃどーも」
だが俺はこいつに救われた。こいつのおかげで俺は取り戻せた。命の恩人といってもいいかもしれない。
そして俺は同時に彼女を救った。
「ふふっ、さぁいこうか」
「……めんどくさ」
この話は大事なものを失くして、「知る」ことしかできなかった俺-神崎恭介-と、人間不信な彼女-鍵坂秋葉-が出会い、
互いに心の穴を埋めあうまでの哀れで憐れな物語。
いかがだったでしょうか?少しでも興味をもっていただければ幸福です。
亀足更新になると思いますが、何卒よろしくお願いします