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こたつと蜜柑を目指して

自分の何処にそんな力が ? と言うほどの馬鹿力で、子供を抱き上げ藪を掻き分け枝を振り払い、木々が密集している場所へ逃げ込んだ。


――――私って、意外とタフだったんだ・・・・

綺麗に舗装してある道しか常日頃歩いていない都会っ子のすず子は、今の自分がちょっと新鮮だった。まぁ、自分の命が掛かっていればタフにも成らざるを得ない。


「おねぇちゃん・・大丈夫 ? 血が出てるよ」

頼りないすず子の身体にしがみ付いていた子供が、恐る恐る制服のスカートから出た足に触る。

「え ? あぁ、ほんと」

多分、石か枝で切ったのだろう、白い靴下に血が滲んでいる。


必死だったから痛みを今まで感じなかった。言われて、意識してみると多少痛みを感じるが我慢できる範囲だ。


「私より君は ? どこか痛い所は無い ? 」

私よりずっと長い時間、あの怪鳥に攻撃されていたんだもの。


茶色のチュニックに付いた土を払いながら、子供の身体を見回す。

足に小さな擦り傷は多々あるが、大きな怪我は無いみたいだ。良かった、ホッと肩の力が抜ける・・・・・が、すず子の関心は今まで見てみぬ振りをしていた『もの』に移行する。


子供に怪我は無い。

怪我は無いのだが、ある『もの』がある。

頭に・・・耳。

猫耳 ! !

こげ茶色の綺麗な三角。毛並みは短く艶やか。雉虎か ?


すず子の目が据わる。

確定した ! 間違いないっ、ここは猫柳君の関係する世界だっ ! !

だから常日頃から、関わらない様にしていたのにっ。元の世界に戻って新しい学期が始まったら、席替え・・・・ううぅんっ ! 生ぬるい ! クラス替えしてもらおうっ !

たとえ、先生を闇討ちしてでも・・・・・・。段々、思考が過激化して行くのに本人は気付かない。


「あっ、おねぇちゃん見て ! ロンギケプスステルンベルギ鳥が地団駄踏んで怒っているよ ! ははっ、来れるものならここまで来てみろっ、バー―カ ! 」

一羽は森の入り口をうろつき、もう一羽は、未だゲッゲッっとえづいている。


あの鳥、ロンギケプスステルンベルギって言うんだ・・・・長いな。でも、不思議と覚えられた。何の気なしに呼べば来たし、縁が深いのだろうか。嫌だな。自分の肉を狙っている人とは友達にはなれないよ。


「ちょっと君、そんなに挑発しちゃ・・・」

「平気平気。あいつら頭でかくて足短いから藪が茂った森の中には入って来られないんだ」

「そう ? なら良いけど」

「ほらっ見てよっ、腹の中身を戻し始まったよ」

飴を食べた方の鳥が、とうとう吐いた。

「ゲッゲッゲッ・・・ゲロロロロロロローーーー」

「ぎゃーーーっっ ! ! イヤーーーっっ ! ! 」

急いで目線を外す。乗り物酔いには滅多にならないけど、それに酔って吐く人には弱い。

つい、つられて・・・・と、いうやつだ。・・・・ううぅぅう、気持ちが悪くなって来た。


後ろを向いて手で顔を覆った私に少年が、わざわざ状況を実況してくれる。

「すげーすげーっ ! ヤギ出てきた」

――あの口とあの体なら、子ヤギくらい丸呑みでしょうね。

「おおおおっ ! 馬車っ ? 馬車だっ ! 馬車出てきたっっ ! 」

――はは・・・・まさか、冗談でしょ。

「え ? あれ ? 馬車の中に、もう一羽ロンギケプスステルンベルギ鳥が乗ってるぞ ? 」

「ほっ、ほんとにっ ? 乗ってたの ? 馬車に ? っていうか、一羽増えたのっ ? ? 」



さっきまでの怯えはどこに行ったか、少年は元気に森の入り口で私達を待ち構えている怪鳥を、からかったり観察したりしている。

ピンッと、耳を立てて・・・・・・・。


――――聞いてみようかな。

その耳は生もの ? 本物 ?

親戚に、やたらと顔が良くて足が長くて、ちょっと、いや、かなり変な灰色猫耳男はいない ? 追記するなら、猫好き。鼠好き。

そして、この世界は・・・・いったい ?


「ね、あの・・・」

「おねぇちゃん凄いよ ! 一人でロンギケプスステルンベルギ鳥をやっつけた ! でも、どうやって、やっつけたの ? 」

問いかける前に、少年に先を越された。

「え ? べ、別にやっつけた訳じゃなくて。ほら、この飴を食べさせたの。そしたら急に苦しみ出して」

少年に『目覚めスッキリ、ドカンとのど飴』を一つ差し出すと、恐る恐る覗き込んできた。

耳が緊張でピルピルッとしている。ちょっと可愛いかも。


「ど、毒 ? 」

「まさか、ただののど飴だよ」

包装を切り、飴を自分の口に放り込む。商品名どうりの眠気も覚める味にさっきまでの気分の悪さも無くなった。

「かなりメントールが強いけど結構美味しいよ ? 食べてみる ? スースーするよ、ほら」

「 ! ! 」

耳を立て興味津々で居る少年の鼻に「ふーーっ」と、息を吐き掛けてやると強すぎるメントールの香りに目を剥いた。


「びっくりした ? きっとあの鳥は、このメントールが嫌いだったんだと思うよ。うん ? どうしたの ? 」

さっきまで元気だった少年が、ぐったりと私の身体に寄り掛かって来た。


「ねぇ ? 具合悪い ? どこか痛いとか」

「おね・・・ちゃ」


はぁはぁと息を荒くして、私にしがみ付いて来る顔は赤い。

まさか、見えない場所に怪我を ? 頭でも強く打っていたの ?

どうしよう ! 病院 ? どこにあるの ? ! この場合、動物病院 ? それとも人間の病院 ? どっち ? !


「お・・・ね・・」

「しっしっかりしてっ、ねえっ、保険証は持っているの ? ! かかり付けの病ーーっ、ええっわっ ! ! 」

抱き起こそうと身体に手を回すと、その手を引かれ体重を掛けて圧し掛かられた。


「ぺろり」

「う ? 」

・・・・・今、口を舐められた ?


「良い匂い・・・・食べて良い ? 」

「な、なにを」

「おねぇちゃんを」

「 ! ! ! 」


ああぁ、やっぱり頭の上に耳を乗っけている人とは相容れない !

もうっ、速く帰りたいっっ 。

こたつ ! みかん ! そんでもって、来年は犬を飼おう ! もちろんゴールデンレトリバー !

猫なんて、大嫌いっ !













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