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初めての共同作業 ? 

「ネズ、子 ? 」

「冗談は時と場合を考えて言って ! っつ ! うごか、ないで、よっっ !! 」


 腕に掛かる重みに堪え、荒げる台詞の最初は上に居る猫柳君へ。終わりは更にその上に居るメガスコリデスに。


「グッジュュ ! 」


 水っぽい音の鳴き声を上げメガスコリデスが身体を引くと、両手に握った剣の柄にズズッと嫌な感触が伝わって来た。

 口に刺さった剣の先が抜けそうなのだ。私は慌てて一層強く抜け掛けた剣を口の中へと押し込む。途端、柔らかな肉の間に分け入る感触。

 よし。奥へ突き刺さる手応えを得た。そう、感じた瞬間。ボタボタとおびただしい量のオレンジ色の液体が下に居る私達に降りかかった。メガスコリデスの体液だ。

 粘度の高い体液が刺さった剣にも伝わって私の手元にまで届き、その滑りで手が柄から離れそうになる。何度も躍起になって掴み直すけれど、後から後から流れてくる体液を前にしては無駄な足掻きだった。


「くっ。すべ、るっ !――っあ ! 」


 私達の生命線である剣がとうとう完全に手から離れた。今現在、運良く良い位置に刺さっている剣。だけど多分、弱点である脳には達していない。その証拠に、左右に頭を振るその激しい動きに衰えが見えないから。


「わわっ、ぶっぶつかる ! ここに居ると危ないかも。ちょっと後ろへ下がろう。 私に掴まって ? さぁ」

「ああ。すまない」


 刺さった剣を口から外そうと、激しく頭を振り出したメガスコリデスから間合いを取るために猫柳君に肩を貸し後方へと移動する。その際、ふら付きはするものの彼は何とか自分の足で歩いた。そして十分離れた場所まで来ると、私の顔を覗き込み改まって言う。その目はキラキラしくて、何だか嫌な予感がした。


「――ネズ子、お前には時々とても驚かされる。私の凡庸な想像では追い付けん。お陰で一瞬も目が離せんぞ。だが、そんな変わった所も好ましいと思っているのだ」

 

 またか ! 私の予感が的中した。


「は。はぁっ !? どの口がそれを言うの ! 驚かされるって、それはこっちの台詞だよっっ ! と言うか、そう言う冗談は止めてって言ってるでしょ !? 」

「冗談 ? 違うぞ。真実だ」

「あぁ、もう ! 今はそんな事言っている場合じゃなくて、アレを何とかするのが先でしょう !! 死にたいのっっ ? 」


 どうも今の状況が分かっていないらしい猫柳君に、口に剣を差したまま荒ぶるメガスコリデスを指差す。


「じゃぁ、アレを何とかした後なら良いのか」

「はいはいっ、何でもどうぞ ! ・・・・あっ ! どうしよう、 剣が抜けそう ! 」


 私達が言い合いをしている間に口に刺さった剣の柄が若干動いた。もう何度か頭を振れば簡単に抜けてしまうだろう。


「よし分かった。では、アレを早々に排除してしまおう。話はそれからだ」


 私が右往左往しいてると、立っているのもやっとの筈の猫柳君が支える私の腕から抜け出してメガスコリデスに近付いて行く。よろける足取りは、彼の傷ついた体が全く癒えていないのを如実に表わしていた。そんな身体でいったい何をしようとしているのか。


「ちょっ、ちょっと。排除って、いったいどうするつもり ? 」

「私に良い考えがある。これがベストだ」


 振り返った顔は自信に満ち溢れていて、思わずホッと安堵しそうになってしまった。

 危ない。危ない。私は今回の事で何度も経験済みなのだ。こういう場合の彼は、決して信用してはならないと言うことを―――――・・・。



 ◇


「猫柳君―――――っっっ !! それって本当にベストかなぁ ?! 」

「ああ ! これが最善だ ! Simple is bestと言うではないか ! 」


 彼のベストな考え。それは、暴れるメガスコリデスを、力任せに身体で押さえつけ剣を再度押し込み止めを刺す。と、言うものだった。なんて原始的。


「よし ! ネズ子、今だ行けっ ! 」

 

 メガスコリデスの太く、ざらついた首辺りにしがみ付いた猫柳君が私に向って叫ぶ。

 

 「えぇぇぇ ?! そう言われましてもっ 」


 何時の間にか剣を押し込む役を仰せつかった私はタイミングを計り彼らに近付くけれど、切り残した触手や猫柳君が抑えても直、激しく振られる頭が邪魔をして中々剣の柄を手に掴む事が出来ない。


「どわっ ! 」

「あっ、猫柳君 ! 」


 押さえ付けられたメガスコリデスが拘束を解く為、身体を激しくくねらせる。その激しい動きに吹き飛ばされた彼が、固い地面に強かに身体を打ち付けた。けれど、それでも諦める事無く立ち上がり、再度メガスコリデスにしがみ付く。


「この愚物め ! 死して私達の幸福の礎となれっ ! 」


 彼の白い顔は血と土とオレンジ色の体液でぐちゃぐちゃ。肩の出血も著しくて、ふら付く足も、たぶん限界。

 もう、見ていられない。もう、今しかない。これ以上彼に無理をさせられない。

 私は、腕の一本くらいならっ、と、覚悟を決めて前線に飛び出す。そして彼が命がけで作り出した好機を無我夢中で手に掴むと、ヌル付く柄にしがみ付くようにして、前へと、奥へと、押し込んだ。

 目の前には腐臭を放つ巨大な口。その隙間から覗く無数の尖った牙。これでは私なんか一噛みで完全にあの世行きだ。

 でも逃げない。後ろに下がるなんて選択肢はない。

――――私が怯んだら、猫柳君が危ないんだから !


「ネズ子っ ! いけぇぇ ! 」


 顔どころか体中、血で染めた彼が懇親の力でしがみ付き叫ぶ。その叫びに背を押され私は体重を掛けて、まるで抱きつくように剣を最奥へと押し込んだ。


「グッジュ、ルルル――――・・・・」


 剣先が一気に奥へとめり込み、何か柔らかな物を通過したのが分かった。手元に感じる感触が明らかに違う。もしかして、これが弱点だと言う脳 ?

 その感触を感じたとたん全ての動きを止め、ピクリともしなくなったメガスコリデスは、重々しい地鳴りを轟かせ地面に崩れ落ちる。

 そして少しの間、細かく痙攣していたかと思うと、だらりと身体を完全に弛緩させた。


「あ・・・・? 」


 動きを止め死臭漂うメガスコリデス。私は、それを前にしても剣の柄から手を離せない。まだ神経が高ぶりきっていて、頭が正常に働かないのだ。目の前の物を目に映してはいても、見てはいない。

 唖然として地面に座り込んでいると猫柳君が四つん這いで近付いて来て、私の手から剣を外した。固く握り過ぎた指を傷つけないように優しく一本一本解いていく。


「良くやったな、ネズ子。素晴らしい特攻だった。思わず見惚れていて3m程、吹っ飛ばされてしまったぞ」

「お、終わったの ? 」


 いいの ? これで良いの ? 私、ちゃんとやれたの ? 


「ああ。ほら見ろ、体が崩れていくだろう。こいつらは死ぬと直ぐに体が弛緩して平たくなる。残るのは皮くらいでな。それを乾燥させ粉にして再形成した物が食用にーーっむぐっ ? 」


 思い出したく無い記憶を掘り返そうとした猫柳君の口を急いで手で塞いだ。それにしても、いまいち実感が持てない。でも目の前に居る巨体が、空気を抜かれた風船の如くグズグズになっているのは事実。


「お・・・・終わったっ・・・・・・・・」

――――オオォォォォッッ !!!


 終わった。良かった。そう口にしようとした瞬間、地割れでも起きたかのような振動を伴う大音量の歓声。

 それまで固唾を呑んで見ていた観客達の興奮した声だ。


――――オオォォォォッッ !!!

 健闘を湛える歓声。喜びに手を叩く音。それらと一緒に客席から降り注ぐ花々。赤い花。青い花。色とりどりに私達を埋め尽くす。花びらすらも祝福にひらと舞う。

 いっせいに投げ込まれるそれらで、闘技場内は一気に華々しいフィナーレへと押し上げられた。

 人々の余りの大歓声に耳が痛い。でも、その音に「全て終わったのだ」と、実感が湧いて来て肩の力が、どっと抜けた。


――――生き残れた。私も、猫柳君も・・・・・・・・・・。

 良かったけど、あぁ・・・・何だか気を失いそう。ふわふわする。


 張り詰めていた神経が一気に緩んだ。


 



 


 

 




 




この後、ミミズさんはスタッフが美味しく頂きました。たぶん。

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