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二人目の獲物

「ふぎゃーーーっっ ! 」

興奮した猫の様な子供の声で目が覚めた。


「う・・・・・うっ、え ? 子供 ? 」


今、自分がおかれた状況を確認するより先に、目の前にショッキングな映像が飛び込んで来て、身体の節々の痛みも忘れ慌てた。

すず子の目の前、数メートルの所でプテ鳥の一羽に、まだ10歳位の子供が襲われていたのだ。


「何してるのっ ! 逃げてっ、逃げてっ 」

すず子が叫ぶが、子供は立つ事もままならず巨大な凶器を、かろうじてかわすのが精一杯。


―― どすっ、どすっ、!


プテ鳥は鋭い口ばしを硬い地面に突き刺しながら、子供を岩壁へと追い込んでいく。


「あぁ、もうっ ! 待っててっ 今行くからっ ! 」

あの位の子供なら、私でも抱えて走れるかもっ !

立ち上がろうと腕に力を入れるが動けない。その時初めて自分が、もう一羽のプテ鳥の大きな爪によって、地面に縫い付けられている事に気づいた。擦り付けた頬や額がヒリヒリと痛む。


「ぬっ、抜けないぃぃ」


体を、グッと捻ねると、何とか仰向けになる事に成功した。そして、気絶している間も、しっかり握っていた布団叩きでプテ鳥を最初は緩く、効いてないと分かると力の限り思いっきり叩いた。

ばしっばしっばじっはじっばしっ ! 埃が顔に落ちてくる。


「このバカ鳥っ ! はっ、放してよっ ややっ焼き鳥にされたいのっ ! 」

「ゲコ゛」(バカじゃん)


意味は分からなかったが、物凄く頭にきた。カチンときた。この世界に来てから私は怒ってばかりだ。とてもじゃないが、家族や友達には見せられない。慌てず怒らず、平坦で平穏な日々が何より好きなのに。なのに・・・なのに・・・こんな事になっちゃって、それもこれも、全てはアイツのせい。


――――猫柳~~っ、覚えていろ~~っ !


もはや呼び捨てだ。

すず子は自分にも意外なほど粗暴な所がある事を知ってしまった。

猫柳の次元をこえた傍迷惑な恋心は、控え目女子高生の秘められた性質をも抉り出してしまった。


「ブギャギャギャッーー ! ! 」

「ああっ ! 誰かっ ! お巡りさん ! 自衛隊さん ! 日本野鳥の会の皆さん ! 助けてっ ! ! 」


子供がとうとう壁に追い詰められ、プテ鳥の短い足で転がされている。運び易いように弱らせてから巣に持ち帰るつもりなのだろう。幸か不幸か、すず子は早々に気絶してしまったので、過度に攻撃されなかった様だ。プテ鳥は本能で動いているのだろうが、何て残酷なのだろう。


「何とかあのプテ鳥の意識を、こっちに向けなくちゃ」


ごそごそ身体を動かしているとポケットに何か固い感触―― 飴だ。そうだ、眠気覚ましのメントールのど飴を入れていた。

軋む腕を曲げ、ポケットから飴の包みを取り出す。固定されているのは腰の辺りなので腕は比較的自由に動かせるのだ。


「ほらっ ! 怪獣さんっ 飴あげる ! ほらほらほらっ、こっち向いてっ ! 」


包みを開け、腕を一杯に伸ばして上にいるプテ鳥に掲げる。


「フガフガ・・・・」

「ほら、ね ? 美味しいんだよ ? 食べた事無いでしょ ? 」


飴の匂いに誘われたプテ鳥が口を開ける。図々しくも催促しているのだ。

飴を食べている間なら気が散って足を離すかもしれない、そう思いすず子は開いたコーラルピンクの口の中へ「目覚めスッキリ ! ドカンとのど飴」を3っつ放り込んでやった。


「ぱくん」


初めて食べる珍しい物に満足そうにしていた鳥だったが、数十秒後またもやのた打ち回る事になった。


「ゲゲゲゲゲゲゲっーーー」(何だコレッ、チョーカレー)

「え ? どうしたの ? 美味しくないの ? それともまた変な所に入ったの ? 」

「ゲッコ、ゲッコ」


頭を大きく振り地団駄を踏み始めたプテ鳥の足が、とうとうすず子を解放した。圧迫されていた肺に、暫らくぶりに沢山の空気が入ってくる。

大きく呼吸を一つすると、すず子は足の筋肉に力を入れ立ち上がり、子供の方へと駆けた。

顔や手に付いた土も、足の裏の痛みも、そんなものを考えている暇は無い。


子供を襲っていたプテ鳥が、悲鳴を上げ苦しんでいるもう一羽に気付き「あんた ! また家の亭主に何食べさせたのさっ」と、前回と同じ様にすず子に狙いを定め翼を広げた。


「君っ ! 立って ! 」


鳥が次の行動を、おこす前に蹲る少年に何とか辿り着き抱き起こす。


「お、おねぇちゃん ? 」

「早く立ってっ。走ってっ」

「う・・・・うん」


足に力が入らない子供を抱える様にして、がむしゃらに走った。


――――食べられてたまるもんかっ !

こんな訳分かんない所で、訳分かんない生物に「今日の御飯ちょっと、硬いねーー」とか、言われながら食べられるなんて有り得ない !

あいつらは、ミミズでも食べていれば良いんだっ !


運良く直ぐ近くに、前回すず子が逃げ込もうとしていた場所に良く似た森が。

深く暗い森。

鬱蒼とした木々、鋭く飛び出て込み合った枝、丈の長い下草。「不気味だ」「恐い」と思っていたこれらは、きっとあの凶暴な生き物から自分達を守ってくれるだろう。


速くっ ! もっと速く動いてっ 足っっっっ !

――――死にたくない ! 生きて帰って宿題やって、こたつで「ゆく年くる年」見るんだから ! !











恋愛物とか言いつつ、猫耳と鳥しか出て来ない・・・・おかしいなぁ。

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