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平和ボケと危ない得物

「こちらです」


 誘導され辿り着いた入り口の前で彼女が言う。

 案内された武器庫は地下の外れにあり中に入るとムッとする鉄の匂いと、それに混じる汗の匂いで思わず息が詰まった。何とか咳き込むのを抑えながら見渡す庫内は結構大きな作りで、至る所にありとあらゆる種類の武器が陳列されている。


「だからよーっ、俺様が思うにさぁ―――― 」

「なになに ! それは聞き捨てならねぇぞっ ! 」

「わはははははははっっ !! 」


 室内の隅には先客の男達が自分の武器理論だったり、戦術ウンチクだったりをワイワイ賑やかに垂れているのだが、私の目は彼らに釘付けになった。皆、己の筋肉に自身あり ! と言う体付きで剥き出しの腕が丸太のようなのだ。思わず凝視してしまった。何を食べたらああなるのだろう。やはり、肉なのだろうか・・・・。それともプロテイン ?   

 盛り上がる上腕二頭筋、切れまくっている腹筋。でも、視線を上げるとファンシー猫耳。何と言うギャップ、何と言う視覚の暴力。これなら、猫柳君の猫耳の方がずっとしっくり来る。

 そういえば、私の世界のマッチョの人は、かなりの高確率でサイズの小さな服を着ているけど、こちらの世界もそれは変わらないようだ。今、目の前に居る人たちの服のサイズも小だから。

 それは子供用ですか ? と、突っ込みを入れたくなる服から伸びた腕を見て「アレは実用向きだよね」と思い一旦は押し込めた不安がまた、にじり寄って来た。


――――私が参加する余興って型通りの形式的な物・・・・なんじゃないの ? 違うの ? もしかして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ガチ、なの ?!



「あ、あのイエネさんっ ? 私で大丈夫ですよねっ ? 私が参加しても良いんですっ、よねっ ?! 」

「落ち着いて下さい。舌をかみます」


 彼女の皺無くプレスされたメイド服にしがみ付かんばかりの勢いで身を乗り出し、爆発しそうな位膨らんだ不安をぶつける。

 錯乱気味で言いたい事の半分も言えなかったけど、冷静な彼女は理解してくれたのか私の言葉足らずの問いに答えてくれた。


「ご安心して下さい。すず子様が余興に参加する事は決定事項です。陛下が昨日の晩餐会で、すず子様の正式なエントリーと、勝利した場合の栄誉ある褒賞をお認めになられたのですから」

「えっ、そうなんですか ? あぁ・・・・良かった。きっとコレット姫が国王様に言ってくれたんだ・・・・」


 状況が少しでも良い方向へ動いた事に幾分肩の力が抜けた。国王様が褒賞の内容を認めたと言う事は、私がアウストラリスに勝てば猫柳君は自由だって事だもの。


――――し、しっかりしなきゃっ ! 猫柳君の記憶が掛かっているんだもんっ ! 人の目がぁ~、とか言ってらんないよっ !

 私は足音も荒く、並んだ凶器に手を伸ばし、手じかにあった細身の剣を持ち上げた。


「おっ、重っ!」


 思ったよりずっと重くて、思わず落としそうになって、慌てて鞘に収まったそれを抱え込んだ。


「それでは、これならどうでしょう。そちらの剣よりは軽いはずです」


 渡されたのはフェンシングのレイピアと同じ形をした剣。試しに持ってみると、彼女の言う通りさっきの片刃のものよりだいぶ軽い。

 だけど、この剣もそれなりには重くて、片手で振り回すのは無理そう。

 どうしようかと思っていると、私のプルプルしている二の腕を不憫に思ったのか、イエネさんが軽そうなものを見つけて薦めてくれた。

 オーソドックな形の剣はもちろん、槍、弓、中には鉄で出来た扇なんて言う変わった物もあった。鉄扇という名前だそうだ。(使い方は切ったり、叩いたり、投げたり色々だそうだ。だが、あまりアウストラリス向きではないと言われたので除外だろうか)

 その中から私でも持ち上げられそうなものを何種類かチョイスする。

 イエネさんの説明では、私が選んだ武器は書類に書きとめられ報告しなければならないと言う。

 ちなみに選んだ武器は会場にこのまま搬入してくれるらしい。正直助かった。もし、自分で持って行けと言われたらどうしようかと思っていたのだ。一つでもやっとこなのに、二つも三つもなんて台車でもないと明らかに骨が折れる。


「ご苦労様でした。それではお部屋へ戻りましょう」

「はい。お手数お掛けしました」


 促され出口に向かおうかとすると、それまで皆で談笑していたマッチョさんA(仮名)が私に話しかけて来た。


「なあ、今回の余興、最後のエントリーって、もしかしてあんたって事は無いよな?」

「あ、あの、はい。多分そうだと思います……けど、何か?」

 

 私が出るのは一番最後。其れまでに9組の人達が戦うのだと聞いている。それがどうかしたのだろうかと私がキョトンとしていると、見上げる程背の高い小山の様な男が、日に焼けた顔に戸惑いと困惑を浮かべた後、鼻息も荒く捲くし立てた。


「ほっ本当かよっ ! 嘘だろ ?! あんたみたいな小っさい 娘が ?! 何かの間違いだって ! 最終組はアウストラリスと戦う事になっているんだぞ ? 悪い事は言わねぇ、今から運営側に―― 」

「何の問題もありません。すず子様の参加は、きちんとした手続きを経た決定事項です。――――さぁ、すず子様、行きましょう」


 マッチョAさん(仮名)の言葉尻をイエネさんが攫い、相変わらずの冷たい目で切って棄てると私の背を押す。


「えっ ? えっ ? あの ? 」

「さぁ」


 私と男の人の間に身体を割り込ませ、少し強引に感じる強さで私を武器庫の外へ連れ出そうとする。今までになかった押しの強さに面食らった。

  どうしたんだろう ? 人が喋っている時に遮るなんて事、する人じゃない筈だけど・・・・。

 接した時間は少ないけれど、それを鑑みても冷静な彼女にしては可笑しいと感じた。それに、あの男の人の話も気になる。まるでアウストラリスが化物みたいな言い方をしていたから。

――――そんな事無いよね ? だってスープの材料でしょう ? 食料に出来る生き物でしょ ?


 後ろを振り返ると締まりそうになっているドアの隙間から、さっきの男の人が逞しい肩を竦ませ首を横に振るのが垣間見えた。きっと、仲間に向けてしているのだろう。ちょっと芝居がかった仕草。『あーーーあ、どうすんのかな』みたいな感じ。

 イエネさんのこれまでに無かった不自然な態度と、マッチョなAさんの意味深な言葉と仕草にまたぞろ不安が煽られて、私は横を行くイエネさんをチラリと盗み見た。

 相変わらず表情の無い顔。その顔を見たら、一人で浮き足立っているのが恥ずかしくなって来た。


 ――――落ち着こう。大丈夫、大丈夫だよ。きっとさっきの人は余興とは言え一国の催しに私みたいな小娘が出る事を不快に思ったんだよ。危険って言う意味じゃなくて不釣合いって意味で言いたかったんだ。きっとそう。うん。

 だって、コレット姫、言っていたもん。 この余興は私にだって出来る事だって。覚悟があれば出来るって。


 私は不安に揺れる心を奮い立たせ、取り合えず自分にあてがわられた部屋へ戻るために長い廊下を無言で歩いた。




 後から思うと、本当はもっとそれまで自分が見て来たものを考えるべきだったんだ。この世界に来てから自分がどんな目にあったのか、どんな生き物が居たのか。

 ここは私の知っている常識の通用しない世界。頭に猫耳を通常装備した人が闊歩している国。ちょっと目を上に向ければ、何時だってそれが存在を主張していたのに。分かっていた筈だったのに・・・・。

 この時の私は完全に平和ボケしていた。私は、いや・・・・私だけは大丈夫だって頭のどこかで考えていたのかもしれない。思い込みって、恐い。




 

私の中ではイケメン=プレOター。きっと、危機感無しに近寄って行くことでしょう。バッサリ瞬殺でも第一印象から決めてました、ので本望だ。

あの長髪が堪らない。(同志募集中)

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