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今さら気付いた大事なこと

 一夜明けて式典当日。

 きっと今頃、城では華やかな催しが行なわれているのだろうと思う。だけど、少し離れた此処までその気配が届く事は無くて、私の居る闘技場の地下は至って静かだ。

 その静かな部屋で私は一人朝食を取った後、白磁のティーカップで優雅に食後のお茶を楽しんで――――――――居るわけが無いぃ !

 優雅とは全く異なる状態、真っ只中なのだ ! 例えるなら、大事な試験に消しゴムを忘れて来てしまったような ! 猫柳君の猫耳を可愛いかも・・・・なんて思ってしまった時のような ! 感じのような !?


「ど、どうしよう・・・・夕方なんて直ぐだよ・・・・。緊張して、あっ、足が・・・・・あわわわ」


 今更ながら気づいたのです。この余興と言う催しは、私が最も苦手とする『人前に晒される行為』、『大勢の他人の目が集まる行為』の極みであると・・・・・・・・・・ !

 あぁ、どうせなら気付かずに本番を迎えてしまいたかった ! そうすれば、この生殺しの状態は味あわなくてすんだのに・・・・。


「ひっ人と言う字を、手の平に書いてぇー・・あああ駄目だっ、指まで震えてきた ! 」


 緊張すると顕著になるドモリ癖を連発させながら昨晩使った枕を抱え込み、体の中から湧いて出て来る震えを何とか押さえ込む。でも、どんな事をしたって私の筋金入りの上がり症は治らないんだっ !

 頭の中は、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、の文字。チカチカチカチカ警戒シグナルも点滅し始めた。


・・・・・・・・・・・・本当に、どうしようーーーー !! こんなの幼稚園のお遊戯以来だよぉぉぉ !!!


――――トンッ !


「っはうぁ ! 」


 不意の物音に、文字通り飛び上がって驚いて思わず恥ずかしい声が口から飛び出してしまった。


――――トンッ !


「すず子様 ? 今、よろしいですか ? 」


 ドアをノックする音の後、私の食事や身の回りの世話をしてくれている女性が廊下から、部屋の中で半分椅子からずり落ち掛けている私に声を掛けて来た。だけど私は余りにも驚きすぎていて返事が遅れる。口から魂が半分はみ出してしまっているのかもしれない。頭の中が真っ白だ。


「すず子様 ? いらっしゃらないんですか ? 」


 返事が無い事を不審に思ったらしい彼女の声に困惑の色が混じり、言葉に表情が現れる。珍しいそれを聞いた私は、やっと我に帰る事が出来た。


「はっ、はいっ ! 居ます ! あっ、今、開けますから ! 」


 慌ててドアを開けると、そこには昨夜から私の身の回りの世話をしてくれているメイド姿の女性。

 今回の余興は私が唯一の女性エントリーなので、不便があってはいけないと特別に私専属として付いていてくれている人だ。名前は、イエネ。それが名前なのか苗字なのかは分からない。彼女は言葉少なに、そう読んで下さいと言っただけで無駄話は一切せず引き返してしまったから。だから、彼女が何処かの城のメイドなのか、それともこの闘技場のスタッフなのかも知ることが出来なかった。


「返事が送れて、ごめんなさい。あの、何か ? 」


 廊下に立ったまま部屋の中に入ろうとしないイエネさんに問い掛けた。

 すると、クラシカルなワンピースに白いエプロンドレスを隙無く着込んだイエネさんが、何の感情も感じさせない無機質な声で受け答える。


「すず子様、お寛ぎのところ申し訳御座いませんが、今から催しの準備をするためにご足労願えますか」

「今からですか、余興は今日の夕方からですよね ? ちょっと、早くないですか ? 」

「さようです。準備とは、最中に使う武器、道具を選んで頂く事で御座いますので、それが終われば間も無くこちらにお戻り頂けます」

「武器・・・・か。はい、分かりました」


 武器と言う言葉に不穏な空気を感じながら言うと、それを聞いた彼女は頷き、私の先にたって廊下を音も無く歩き出した。

 まるで定規を入れた様に真っ直ぐな背を追い無言で進む通路。

 

 私は、無駄な話も無駄な動作もしない彼女を見ながら、この人は暑苦しい闘技場なんかより整然とした場所、例えば城みたいな所が似合っていると思った。


 


 



 

これは、一人称だ !

よね ?

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