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‐式典前日‐王子と従者‐城にて。

 猫柳は本城にある自室にて半日馬車に揺られ続け疲れた体を、どっしりとした椅子の背もたれに預けると目を閉じた。


「はぁ・・・・」


 閉じた目元に差した薄い影が、彼をより大人っぽく見せていて実年齢を感じさせない。照明の加減もあるかもしれないが顔色自体も若干悪く、溜まった疲れを如実に現していた。

 しかし、彼には休むつもりは無いらしく強張った眉間を自身の長い指で軽く揉み、執務机の上にうず高く積み上げられ彼の視界を占領している書類の山に手を伸ばす。

 

「ふん。よくもまぁ、これだけ集めたものだ。まるで、あちらの世界の通販カタログだな」


 彼はうんざりとした顔を隠さず手に持っていた分厚い書類の束を少々乱暴に机の上に投げ出し、ため息を一つ吐き出す。それはとても深い溜め息で、けして体の疲れから来るものだけではないと伺えた。

 書類には年頃の少女の写真が貼り付けられ、家柄、その家の資産状況、本人の病歴、素行、等々、ありとあらゆる個人情報が事細かに記してあった。

 つまりは身上書、釣書である。

 いったい何十人分、何百人分有るのか猫柳自身、把握できないほどの許婚の山、山、山。

 第二といえど、王子は王子。妃候補は山の様に、星の数程いるのだ。その中の一人であるコレットを彼が知らなかったとしてもしようの無い事である。


 投げ出した身上書に再び目を戻すと其処には昨夜、相まみえた豪奢な金髪の少女の姿。名はコレット‐アルフェラツ。貴族の中でも強い発言権を持つアルフェラツ公爵の娘であった。

 猫柳の頭の中に、酸いも甘いも噛み分けるアルフェラツ公爵の自尊心の高い顔と、王子の前であろうと一度も頭を垂れなかったコレットの顔が重なった。


「・・・・まったく、やっかいな事だ」


 猫柳の呟きに―― バンッッ ! という音が重なった。


「そうです ! まったくやっかいです―― 貴方の脳内がっ!」


 足音も荒々しく重い扉もなんのその。肩を怒らせた従者の猫島が入って来た。闘技場にすず子を送り届け帰還したのである。それにしても荒々しい登場。マナーに五月蝿い彼にしては珍しい行動だった。


「何だシマ。ノックぐらいしないか。無作法な・・・・。仮にもお前はフェーリスの第二王子の従者なのだぞ~~(以下略。主に日頃、自分が言われている事)」


 重厚な扉が大きな音をたて閉まるのを聞きながら、猫柳が自分の従者のマナー違反をここぞとばかりにあげつらう。

 何時もとは逆の立場になった猫柳は日頃遣り込められている鬱憤を晴らさんばかりに攻撃する言葉を投げ続け、偉そうに鼻の先が上向きになっている。しかし、当の従者、猫島は束の間の優越感を味わう主を見事に無視し、その偉そうな鼻面に以外に太い人差し指を付き付けた。


「なんなんですか、あの手紙はっ ! あれではまるで・・・・まるでっ・・・・サイコな人の電波な怪文書ではないですかっっ !! 」


 ビシッと決まった指先の前の、形の良い目が見張られる。だが、それは一瞬で直ぐにキリキリと怒りで釣り上がった。


「なっ ! 何が怪文書だ !! お前っ、まさかあの手紙を読んだのか ?! あれはネズ子に渡せと言っただろう ! プライバシーの侵害だ ! 背反行為だ ! 」

「はんっ。深夜、役所に忍び込んで他人の個人情報を盗み見る様な人に言われたくありませんよ。だいたい見たくて見たわけではありません。彼女がフェーリスの文字を読めないというから代わりに読んで差し上げただけです」


 猫柳の(日頃の怨み辛みを捻じ込んだ )攻撃を余裕の顔で打ち返した猫島に指摘され、初めて気が付いた。どうも書きなれたこちらの文字を使用してしまったようだ。


「失敗したっ。私とした事がうっかりしていた。あの時は気が急いていたし、ネズ子に出す初めての手紙だから緊張していたのだ・・・・。だが、お前が内容を伝えてくれたのなら、まぁ、良かったか・・・・」


 悩みながら書いた力作が全く無駄にならなかっただけ良しとしようかと渋々ながら自分を納得させる猫柳。だが、従者は納得しなかった。


「よくありませんよっ。そんな事より、何であんなに真っ黒になるまで字を詰め込むのです ?! ――でもまぁ、それは熱意の表れと言う事で一旦、置いておきましょう。・・・・問題は手紙の内容です・・・・何が『お前は新型電気自動車のように音も無く近寄ってきて、気が付いたら私は何時の間にか轢かれていた』ですか ! 惹かれていたではなくて『轢かれていた』 !? 貴方はいつの間に自損事故の被害者になっていたのです ?! その他にも理解不能な表現ばかりでしたっ。ラブレターを書く前にまず、正しい言葉と情緒的感覚を養ってください !! 」


 咎める言葉を一気に言い切った猫島だが、苦言を吐いてはいても中原すず子と知り合ってから、どんどん危なく変わって行く主であり幼馴染でもある彼を、心から心配していた。


 (この際、多少、変な態なのはいい。誰にでも趣味趣向の色々は有るだろう。しょうがない。だが、一般的な人間の感覚は失って欲しくなかった。だいたい何故、好きな女を自動車に例える ? 普通そこは花や、宝石、もしくはマタタビに例えるべきだろう。何故EV ?何故HVではない ? 

・・・・・分からない、彼の美的感覚が分からない・・・・。)


「だ、だが、あの世界の電気自動車は本当に素晴らしいと思ってだな、私なりに考えて――」

「もういいです。貴方には後で私の特別授業を受けていただきますから。それより――――はい、どうぞ」

「 ? 」


 灰色の猫耳をヘタらせ、へこみ始めた猫柳に飴と鞭の飴を渡した。付き合いの長い猫島は猫柳の操縦の仕方を良く知っている。


「中原さんからの御返事です」

「 !! 」


 曇っていた顔をパァァーっと輝かせ、いそいそと封筒を受け取り、中のメモ用紙を取り出し開く。

 彼はキラキラとした目で文字を追っていたが直ぐに眉間に皺を寄せ首を傾げた。


「どうしました。まさかあちらの言葉を忘れてしまいましたか ? 」


 失礼、と言いながら執務机を回り込み横から手紙を覗き見た。そこにはすず子の言葉通り簡単で短い文章が綴られていた。




『 猫柳君へ

 わざわざお手紙有難う。でも、私の家は単身赴任中のお父さん以外、皆、自動車免許を持っていないので、今のところ自家用車の購入は考えていません。将来私が免許を取る事があったら、その時は貰ったこの手紙を参考にさせてもらうね。

それではまた。                 中原すず子     

 PS・手紙の行間は開けた方が見やすいと思うよ。                

                                        』



 眉根を寄せた半眼で猫柳が猫島を睨む。


「お前・・・・・・・・ネズ子に何と訳したのだ・・・・」

「私のせいではありません(怒)」


 





 





これは三人称なのでしょうか ? 

一人称との違いを説明されて頭では分かっていても、いざ書こうとすると・・・・・・なのですよ。私の脳は触った物しか認識してくれないのです。まいった。

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