手紙
「手紙 ? 私に ? 」
「他人宛の手紙を貴方に渡してもしょうがないでしょう ? それは貴方にと預かった手紙です。――――ヤナギ殿下から」
目の前に突きつけられたシンプルな白い封筒を戸惑いながら受け取り差出人を確認すると、濃紺のインクで何か書かれてはいるが日本語ではないので読めない。この国フェーリスの言葉なのだろう、柔らかな形の文字が並んでいた。
「猫柳君が私に手紙なんて、なんだろう・・・・」
美猫写真集やDVDを貰った事はあるが手紙は初めてだ。普通の封筒に綺麗な文字が正直、以外に感じる。
日頃のあの人の動向を考えると矢文でもしそうだと、失礼ながらチラリと思いつつ封を開け二つ折りの便箋を広げ見ると――――――――、
「なっ何これっっ ?! 」
「何です ? おかしな事でも書いてありましたか。少々、粘着質な文章は大目に見てあげてくださいよ。あの人の性格なんで」
「で、でもぉ」
「 ? 」
私の戸惑いを不審に思い、首を傾げた猫島に向けて手紙を広げて見せる。
腰を折り覗き込んだ彼がザッと一歩後退。
「これは・・・・少々どころでは無く、気持ち悪いですね」
そう。一言で言うのならば「気持ち悪い」
何故ならば、その罫線の無い無地の便箋には端から端まで、上から下まで、ぴっちりと隙間無く文字が詰め込まれていたから。まるで蟻の集団行動の様に真っ黒。遠目で見ると、この手紙は食卓のお供である板海苔のようにも見える。
「陰湿な呪いの手紙のようだ・・・・・・・・」
並々ならぬ粘着性、執拗性を感じるその見た目に、流石にドン引きの猫島君が、私が思った事と同じ事を口に出す。
「これ何て書いてあるの ? この文字はこちらの物でしょう ? 私読めないから、読んでくれないかな・・・・(ちょっと恐いけど)・・」
嫌そうな彼に恐いもの見たさで手紙を渡す。
彼は渋々と、まるで汚物を摘まむような手つきで便箋の端を持ち、蟻の行列に目を通す。 何故だか読み進めれば進むほど彼の眉間の皺は深くなっていく。それから酷く沈痛な面持ちで内容を要約してくれた。
「ああ・・これは・・なんと言ったらいいか、えぇと、貴方は燃費が良く小回りがきくから大変素晴らしい、と。えぇぇぇと、はぁ?何ですって ? あ、すみません。・・・・・騒音も少なくて静かな環境にも適した存在だと。つまりこれからは電気自動車なのだと・・・・・・書いてあります」
「はぁ ? 」
妙にしどろもどろな猫島君の説明に、自分は自動車購入を勧められているのだと気付いた。
今、この場で何故 ? とも思うが、それはあの猫柳君がする事。凡人の私には計り知れない何かがあるのだろう。
とりあえず深く考えずに、そのままの意味で受け止めた。
心の病だとか、変態だとか、不穏なことをブツブツ言っている猫島君に背を向け、私は机の上に置いてあったメモ用紙に備え付けのペンで簡単な返事をしたためた後、それを封筒へ入れ猫島君に渡した。
「これ猫柳君に渡して欲しい」
「返事 ?! この手紙に返事を書いたのですか ?! 書きようが無いでしょうこれはっ ! 」
「うん、だから大した事は書いてないよ ? でも、一方通行よりは良いかなと思って」
内容の薄い手紙でも不義理にするよりはいいだろうと言う私に何故か不憫そうな眼差しの猫島君。
「・・・・では、御わずかりします。・・・・・・・・貴方も苦労性ですね」
しみじみと言い、私が渡した封筒を胸のポケットへしまった。




