式典前日‐ネズ子と猫島君闘技場にて――。
生まれて間もない仔猫の目は色素が沈着していない場合が多く、青目に見える。この青を自国の国色とし、仔猫の青、つまり始まりを意味する言葉を城の名として冠した『キトゥン‐ブルー』。
城砦アルゴルとは一線を画した優美さ華やかさで国の中央に堂々たる貫禄で築かれている―――――― らしい。
* * * *
「わぁーー、お祭りって感じ・・・・」
馬車に揺られ王都に近づけば近付くほど建物の密集度は増し、道を歩く人影も増えていった。
真新しさが残る舗装されたばかりの道路。その脇に植えられた花々。一定の間隔で設置されたアンティークなデザインの街路灯には青い紋章入りのタペストリーがたなびく。
馬車の小窓から見える世界は美しく華やかで、その力の入れ様から国を挙げて今回の建国記念を祝おうとしているのが伺えた。
「お疲れになったでしょう ? もう少しの辛抱ですから」
朝から俊足の馬車に揺られ続けた私達は、その日の夕刻前には王都に辿り着く事が出来たのだが式典の後の余興に出場予定の私は城へ向かう一行の列から離れ、少し手前にある丘の上の大型闘技場へ直接入る事になった。
美しいと聞いた本城を直接見ることが出来ないのは残念だが、猫柳君のアジト、大量の猫の巣窟だと思えば簡単に諦めがついた。
それから暫らくの後、猫島君の言葉通り大きな石造りの建物の横に馬車が止まり、馬を落ち着けた御者がキャビンのドアを開けてくれ、視界がぱっと開けた。
約半日、狭い馬車の中に閉じ込められていた私の目の前に、堂々と聳え立つ建物が姿を現した。緑に囲まれた円形の巨大建造物。明日、余興が行なわれる闘技場だ。
「貴方の世界にある闘技場――・・コロセウム。アレに似ているでしょう ? 」
「うん。写真でしか見たこと無いけど、正面から見た外観は似てると思う。・・・・やっぱり、こう言うのは円形がお約束なんだねぇ」
「ええ。一度に大勢の人に見せる事を考えると自然とそうなりますね」
上を向いた間抜け面をさらしながら猫島君の手を借りて馬車から降り、背を押され誘導されるがまま付いて行くと大きな入り口。しかしそれは上へ行くのかと思いきや下に続く階段だった。地下には良い感情が無いだけに少し躊躇しながら固いコンクリートに似た階段を下りる。これは火山灰を材料に使った建築資材で、私が知っているコロセウムとほぼ同じ製法だと言う。似ているのは見た目だけじゃないのだと足を止めずに猫島君が説明をしてくれるのを聞きながら階段を降り切ると、其処にロビーのような受付は無く狭い通路が伸びているだけだった。その脇には等間隔で木製のドア。込み入り方からビジネスホテルを思い出す。
ここは剣闘士専用宿泊施設。闘う物達が泊り込むことが可能になっているのだと言う。ちなみに私も今晩はそこにお世話になることになっていた。
興味が先に立ち、キョロキョロと見回すと本番の前日だと言う事もあり会場の設置を急ぐ施設関係者が廊下や共同スペースを忙しなく行き来していて少々騒々しい。その中、ちらほらと混じる筋骨隆々の男達。たぶん、明日の余興に出る者達なのだろう。明らかに一般人とは違う体格。腕の太さなど私の太もも位はありそうだ。きっと片手で林檎を潰せる・・・・。実に逞しく、この闘技場にマッチしている。
――――それに引き換え私は・・・・・・・・。
自分の貧相な手足を眺め降ろし、あまりの違いにだんだん不安になってきた。当たり前かもしれないが、此処に私はかなり場違い。はっきり言って浮いている。あっちが大根なら、私はその大根からにょろりと生えた根っこだ。それほど違っている。
「さぁ、ここです。少々、窮屈かもしれませんが御了承下さいね」
以外にもレディーファーストの呪いを受けているらしい猫島君が開けてくれたドアから中に入ると、そこは簡素な六畳ほどの部屋。昨日まで使わせてもらっていた部屋に比べたら随分と小さいが、四畳半が最も落ち着く自分には文句無い広さ。設備もベッド、机、チェストと十分な物が完備されていて別段文句は無い。だが、余りにも整然としている様に味気なさは否めない。
そうだ、あのカエルランプがあれば結構和むかも――――と、ひらめくがアレは猫柳君にあげてしまったのだと思い出す。
じゃあ、何か変わりになる物があればと質素な部屋を見渡すが必要最低限の物しか置いていない室内にがっかりと肩を落とす。
「どうしました ? 中原さん。何か足りない物がありましたか ? 言って置きますがテレビは置いておりませんよ」
「うぅん、十分だよ。今晩だけだもの、ベッドさえあれば大丈夫」
気に入っていたカエルを思い出し、しょんぼりしていた私に猫島君が気を使ったのか声を掛けてくれた。この世界に来た当初と比べると幾分、私に対する態度に親しみを感じる。でも、それに比例して嫌味を言う口もパワーアップ・・・・。良いのか、悪いのか悩む所だ。
「私はこれから城の方へ行かなくてはなりません。明日も余興が始まるまで此処には来られないと思いますので、何か御用が御座いましたら係りの者に御言いつけ下さい。女性でしたら、何かと入り用な物が御座いますでしょうし」
職業病か、折り目正しい従者然とした態度で私に向き直り説明をしてくれる猫島君。従者さんなのに何だかホテルマンみたいだなぁーーと考えていた私の思考を読んだのか猫島君が、じとーーーっとした目付きで私を睨んで来た。
私は、その目に誤魔化すように曖昧に笑い「分かったよ」と頷いてみせる。が、彼は半眼のまま部屋の中に歩みを進め来てた。
また小言が来るのかっ !?思わず怯え一歩引く。
「それでは中原さん。先ほど説明した通り段取りはこちらで整えますので、ご心配無く。ですから貴方は安心してその流れに乗って下さるだけで良いのです。まるで川の流れに乗る様に、身を任せ右へ左へ、逆らわないで下さい。貴方は鯉でも鮭でもないのですから」
腰に手を当てた彼は、ひるみ仰け反る私にきつく釘を刺してきた。
昨夜の無茶な発言を暗に臭わせ、当てこすった嫌味だ。昨日から同じ内容の小言の嵐が飽きもせづ続く。余程私の暴挙を腹に据えかねているのだろう。
ならば私の参加を取り消せばいいと言う話なのだが、この国では自身より身分の高い人物の前でした宣言は簡単には取り消せないのだと言う。
あの時、あそこに居た身分の高い人物は貴族の令嬢と王子様二人。うち一人は王位継承権第一位。つまり、この国の№2。
そんな人物の前で発した宣言は国王でもない限り取り下げるのは不可能。
「ふぅ、まったく手の掛かる・・・・」
猫島君は自国のルールで身動きの取れない今の状態、それと彼の考えていた計画を私が狂わせた事、その二つに腹を立てているのである。
「で、でも私だって良かれと思って――」
「はい ? 何か仰いましたか ? 」
モジモジとした小声に、暗雲を背負った猫島君が目を三角にして割って入り、私の言い訳を最後まで続けさせない。
「何でもない・・・・です」
「そうでしょうとも」
言い訳を諦めた私は、これから続くであろう嫌味の嵐に身構え自然に歪む顔を咄嗟に引き締めた。嫌そうな顔をしているのを見られたら、また嫌味が増えてしまうかも知れない。それはなるべく避けたい。
ビクビクと肩を竦め彼の次の行動を待つ。
だが、私に向けられたのは嫌味ではなくて、一通の手紙だった。
最近、私の小説の文字数が増えている。ちなみに前はスカスカだった。・・・・・何かあったのだろうか ?




