招かれざる乱入者
イチゴのタルト、クリームたっぷりのリモーネパイ、タイルの様に並ぶピスタチオのチョコレート、色とりどりのフルーツケーキ。日の光を集めて弾ける水色のソーダ水と薫り高い紅茶。
白いお洒落なガーデンテーブルの上には、所狭しと乙女の夢が広がっていた。
――――天国 !
食事をした後なので、お腹は空いていない筈なのにフォークを動かす手が止まらない。
口にする物、全てが美味しい !特に今飲んでいるタピオカの(ような物が)入った冷たいミルクティーが気に入った。上等な紅茶とミルクで淹れられたミルクティーは勿論美味しいのだが中に入っている物の食感が癖になるのだ。モチモチでプニプニ。この食感、朝食のスープに入っていたアウストラリ何とかに似ている。どのような生物かは知らないが色々な物に加工できる優れものらしい。
グラスの底に溜まったプニッとした物をパフェ用の長いスプーンですくって口へ運ぶ。
余りに心地良い噛み応えに一心不乱で食べ続けていて、周りのメイド達が自分を興味深く観察しているのに気が付かなかった。
――――はみはみはみはみはみ・・・・あぁ、やめられない、止まらない。
小さな口へスプーンを運ぶ度、すず子の頬が丸く膨らんで黒目がちでつぶらな瞳は至福に煌めく。
その様子を横でジッと観察していたメイドが耳をピンと立てつつ頬を染め小さく呟いた。つい、思わずと言った感じで。
「ハムスター・・・・」
「ネズミ・・・・ ? 」
「ハムスター・・だわ」
「え ? ハム ? 何が ? 」
聞き返す私に両の手を振り慌てるメイド。
「いっ、いえっ ! 何でもありませんっっ ! 」
どうしたのだろうか ? メイドさん達が妙にわたわたしている。ナプキンを落としたり、紅茶の蒸らし時間を計る砂時計を何度も何度も引っ繰り返したりと少々落ち着かない。
「あ、あの、皆さんも一緒にどうですか ? 私一人じゃなんだし・・・・」
疲れているのかもしれないと思い、ちょっと座って一休みしませんかとメイド達を誘う。
「滅相も無いですっ ! 私達がすず子様と席を御一緒するなんてっ。恐れ多いことです」
メイドの一人が私が驚いて身を反らせる位に大袈裟に謙遜すると、その他のメイド達も口々に「恐れ多い」と首を振る。
私はただの庶民ですから気を使わないで下さいと言っても駄目だった。この人達は私の事を身分のある人物と勘違いしているのだろうか。しきりに「恐れ多い」と言う言葉を繰り返している。
「それよりも、すず子様。こちらも如何ですか ? メイド長から、すず子様がお好きだろうから是非お出しするようにと言われているのです」
「え ? このパンは・・・・」
メイドが勧める籐の籠の中に入っていたパンは、何処からどう見てもすず子が三日に一度は食べていた馴染みのパン。
「ヒマワリベーカリーのフィシュバーガー・・・・」
「あら、見ただけでお分かりになるなんて本当にお好きなんですね。御出しした甲斐がありましたわ ! 」
嬉しそうにメイドが微笑む。しかし、すず子の視線は目の前のパンに釘付けになっていた。
店名といい、バンズの形といい、間に挟んだ内容といい、見れば見るほどあちらの世界の馴染みのパン屋「ヒマワリベーカリー」のパンと類似点が多い。
まさか本当にパン屋の小父さんは、この猫耳だらけの世界に異世界トリップ ?
「さぁ、どうぞ。遠慮なさらずに」
「あ、はい。有難う御座います・・・・」
小父さんの安否を考え込んでいるのを遠慮していると勘違いしたメイドに籠の中身をまた勧められる。ボリュームのあるパンを食べられるほどお腹に余裕は無かったのだが、味を確認するためだと思い綺麗に並べられたパンが入った籠に手を伸ばした。
「じゃ、一つ頂きます」
――――ドキドキする。あっちの世界のヒマワリベーカリーのパンと同じ味だったらどうしよう・・・・。それに私がこのパンを好きな事を誰が知っていたの ? 猫柳君にも猫島君にも話した覚えは無いから知らないだろうし、ましてや会った事の無いメイド長とやらが知っている訳は無い筈なんだけど。
疑問に思いながらキツネ色のフライを挟んだパンの柔らかさを指先に感じた時、視界に白い何かが映った。素早い動きで残像だけが目に残る。
―― ヒュッッ ! ガッ ! ガッシャッ―ンッ !!
「ひゃぁっ ! 」
風を切る音と共にバサッ ! という羽音。
またその直ぐ後に耳を劈く破壊音。
すず子の前に広がっていた夢の様な楽園は一瞬にして、ぐちゃぐちゃに破壊されてしまった。
今、目の前にいる乱入者によって。




