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私と彼のポジション

短い謁見が終わり部屋へ帰るため、来た道を引き返す。

緊張を解き、ぐったりとした様子で後を付いてくるすず子に猫島が歩みを止めずに話しかけて来た。


「驚いたでしょう ? 」

「う、うん。ちょっとね。凄く無口なんだね、シャルトリュー殿下って。何も話さないから怒っているのかと思った」

「ええ。初めてお会いした方は大概そう思うでしょうね。えぇと、そうではなくて私が言いたいのは兄の事です。片耳だなんて驚きませんでした ? 」


猫島が苦笑しながら「みっともないでしょう」と続けた。私が、とんでもないと頭を激しく振って否定すると彼は明るい色の瞳を軽く見開く。今までの彼らの言動から見ると猫耳というのは猫耳族の象徴であり、とても大事なものらしい。それが片方無いというのは恥ずべき事の様だ。だが、元々猫耳を持っていない私には共感出来ない感覚なので耳の無いキャリコを不快に思うことは無かった。それどころか終始魅了されていた。

私は人見知りするたちなのに彼とは比較的まともに口が利けた。彼の内面から出る、優しく柔らかい雰囲気が尻込みしそうになる私を助けてくれたのかもしれない。


「全然、見っとも無いなんて思わなかったよ ! 中性的で凄く綺麗だと思ったもの」


一つしかない耳がキャリコの外見の美しさを損なうなんて事は全く無い、それに性格も明るくて、あんなお兄さんがいるなんて羨ましいと力説する。姉妹の上としては、兄と言う存在に憧れがあり、かなり語気が強くなった(兄といってもシャルトリュー殿下の様だと困るが)。

羨ましがるすず子に猫島が一瞬面映い顔をする。卑下するような事を言った割に兄を褒められて嬉しかったらしい。思ったよりもずっと兄弟仲は良いようだ。

ならば、猫柳君達はどうなのだろうか ? 兄であるシャルトリュー殿下は弟のために何かしら動いてくれるのだろうか ?

もう一組の兄弟に想いを馳せている間に隣を歩く猫島は照れ臭そうな、きまりが悪そうな顔を引っ込め何時もの微笑の仮面に戻ってしまっていた。

そして肩をちょと竦ませ溜め息混じりに吐き出す。


「昔はもっと美しかったのです。長く伸ばした髪は鮮やかな色でしたし、体だってあんなにみすぼらしい程痩せていませんでした。勿論、耳も揃っていましたしね。誰もが振り返る容姿だったんです。ふふっ。色々逸話が有りましてね、他国の使者が逆上せ上って国に連れて帰りたいなんて言い出した事も有ったんですよ。あぁ、あの時に着いて行っていれば今頃結構な身分になっていたかも知れませんね・・・・惜しい事をしました・・」


何時もの微笑の仮面を付け話す彼は一見穏やかだが、その実どこか苛立っている様だった。昔の美しかった兄を懐かしみ、今の歪な姿に憤っている。なら、どうしてキャリコはそんな姿になったのだろう。

重い病気か、それとも――――・・・


「えぇと、病気だったの ? ・・・・あっ、ごっごめんっ。無神経な事聞いたっ」

「ふふっ、別にかまいません」


身内の彼に聞くにしては無神経な質問をした私に軽く手を振って話しを続ける。


「兄は今まで大きな怪我も病気もした事は有りません。彼の容貌が変わってしまったのは彼の意思です。彼、自らが望んでそうしたのです」

「え・・・・自分で ? 」


と、言う事は自分で耳を切った ? 考え難いが自傷癖でもあるのだろうか・・・・・


激しく疑問に思うも立ち入るには余りにも重い内容。詳しく聞いて良いのか、悪いのか判断に困る。猫島君と私の関係は険悪では無いにしろ、決して良好とは言えない。暫らく行動を共にしていても間に流れる余所余所しさは依然変わらない。

彼は必要最低限の接触を望んでいて私も進んで関わろうとは思わないから二人の距離は縮まる事は無いだろう。

でもそれが普通。共通点が有る訳ではないし元々、友達でもない。私に近づいて良いことなど何も無い。何時もの癖で考えが卑屈な傾向を帯びて来た。

その時、何と無く猫柳君の顔が頭に浮かぶ。

特に面白みも無く教室の隅っこが定位置な私に進んで関わって来た彼。人付き合いが苦手な私が作った壁を難なく突き破ったと思ったら、今度は異世界に連れて来て、その先でまで振り回す彼。


――――猫柳君・・・・。君って・・・・いったい何を考えていたんだろうね。今考えてみても全く理解不能だよ・・・・。


猫柳の行動も不思議だが自分の思考の流れも不可思議だ。最近、何かを考えていても最後は猫柳が出てくる。そして理解不能だと結果が出て終わるのだ。

今回もキャリコの事を考えていた筈なのに、また猫柳の事へと何時の間にか考えが脱線してしまっていた。

彼は私をどうしたいのか ? 其れは本人しか分からない。じゃぁ、私は ? 私はあの人をどう思っているの ? 前に言ったようにただのクラスメイト ? なら、どうして彼の事ばかり考えている ?

頭の中で昨日別れるまでの彼の顔や声、仕草を探る様に思い浮べる。ついでに彼に今までされて来た迷惑ごとも蘇る。


使用中の女子更衣室について来られた事・・・・あった。

猫好きを強要された日々・・・・が、あった。

右も左も分からない場所に行き成り降ろされたあの時・・・・も、あった。


――――あぁ、イライラしてきた。猫柳君、君はやっぱりクラスメイトだよ。でも、ただのじゃない。物凄く傍迷惑なクラスメイトだっ。


「ねぇ、中原さん」


滅多に感じる事の無い他人への苛立ちが止まらないすず子に、前を歩いていた猫島が立ち止まり抑揚の無い声で言う。血の繋がった兄弟だからか、似た言葉の運び方からか、別れ際のキャリコを思い出させた。


「そうするのか、しないのか。止めるのか続けるのか。そこに至るまでにどんな経緯があったとしても最後は結局自分自身の判断です・・・・。さっき兄の言った事を忘れないで下さい」


そう言うと話しは終わったとばかりに、さっさと歩いて行ってしまう。

その背中には今の話の質問は受け付けないと書いてあり素っ気無い。


「・・・・・・・・・」


キャリコも猫島も私に何かを伝えたいらしい。でも、いったい何を言いたいのだろうか。王子付き従者の立場からの言葉か。それとも、もっと他の事 ?


二人の忠告は決して抽象的な表現では無かったが、今、自分が置かれている立ち居ちさえ分かっていないすず子には、それは理解不能の言葉だった。体に溶けないのなら有り難い薬でもただの異物。自身の中を巡るだけ。それどころか、免疫の無い幼い内を傷つけ惑わす恐れも有る。すず子自らが欲っし、手を伸ばし受け取ったものでなければ血肉にはならない。


自室へ帰るという猫島と別れ自分に宛がわれた部屋に辿り着くまで考え続けたが、結局答えは見つからなく、悲しいけれど二人の忠告はすず子の身には付かなかった。




シャルトリュー殿下との約束が済んでしまえば私の今日の予定は終わり。

後は何も無く、ただひたすら元の世界に戻る為の転送機に魔力とやらが溜まるのを待つだけだ。

そんな、暇を持て余しクロゼットの中で昼寝でもしようかと篭もろうとするすず子を見かねたメイドが、庭でお茶にしましょうと誘ってくれる。

勿論、返事は「喜んで」だ。


庭は芝が綺麗に刈り込まれ整備されていて、辺り一面花が咲き乱れている。一見、バラに見える花が多いが私の鼻が反応しないから、きっと違う品種なのだろう。

花弁が多く香り高い芳香に黒い蝶が飛び交い麗らかな日差しに嬉しそうに遊ぶ。


すず子は滅多に無いシチュエーションを堪能しつつ、目の前の高そうなティーカップに口をつけた。


「あ。おいしいっ」


鼻に抜ける茶葉の香りの立ち方が、いつも飲んでいる物と明らかに違う。芳醇で深く仄かに果物のフレーバーが漂う。


――――特売品298円とは、比べちゃ駄目だよね~~。


すず子は緊張に疲れた体と心を休める為、つかの間のティータイムを楽しむ事にした。











猫島×すず子のフラグが立つ度に猫柳でへし折ります。もういっそ、流れのままに行きたい衝動に囚われます。其れもコレも猫柳の出番が少ないのがいけないんですよね。分かってはいるのですが、もう暫らく出番は来ません。きっと今頃檻の中で楽しい妄想をしているのでしょう。良かったね。

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