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訴え

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・っ」


すず子VS無言王子(兄)の静かな睨み合いは今だ続行中。と言っても、其れはすず子だけの認識であってシャルトリューの方はただ気だるげに頬杖を付いているだけ。


――――ひ、引けないっ ! 此処で引いて諦めたら猫柳君の事が分からずじまいだもん。もし何かあった場合、寝覚めが悪いじゃないっ ! で・・・でも・・恐いよっ !


猫柳は悪くない。猫柳を自由にしてあげて。

すず子は自分の中にある小さな勇気を掻き集め、シャルトリュー殿下に向かって彼の弟である猫柳の身の潔白を訴えた。

近寄り難い高貴な殿下に緊張からか、何時も以上に言葉が出ない。だが捕縛された時の猫柳の後姿を思い浮べると訴えを止める事は出来なかった。途中、途切れながらも一言一言、言葉を繋ぐ。


しかし、対するシャルトリューは相変わらず頬杖を突いて目を伏せたまま微動だにしない。すず子の話を聞いているのか居ないのか目を上げる気配すらなく、ひたすら瞑想( ? )している。


――――これは寝ているの ? もしくは良く出来た人形だとか・・・・・ははっ、まさかね。

長い沈黙に段々と不安になって来たすず子はシャルトリューの冷たく整い彫像めいた顔を下から覗き見ようと恐る恐る数歩近づいた。

すると行き成り、その美しい置物が動く。


「わわっ ! 」


頬杖を突いていた腕を右から左へ変えただけの動作に驚いたすず子は後ろに多々良を踏んでバランスを崩し、引っ繰り返りそうになった所を隣に居た猫島に助けられた。


「ごっ、ごめん」

「いいえ」


余りの恥ずかしさに顔が、かぁっと熱くなった。

私はこんな所で、しかも初めて会った人達の前で一体何を遣っているのか。こんな事で驚いて小心者にも程がある。大体何時もそうだ。いつもビクビクしていて情けない醜態ばかりをさらしている。

もしこの場に居たのが妹の陽子ならば、もっと上手く立ち回れた事だろう。彼女は私と違って要領良く頭が切れ、肝も据わっている。周りに流されずに自分の意思を貫く気概もある。

・・・・・私とは余りにも違う。同じ血を分けた姉妹なのに。


猫島の腕から離れながら自分と妹の違いを思い、下唇を強く噛んだ。


「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」


一人で勝手に撃沈。

相変わらずひたすら無言の殿下と同じく、すず子も結局黙り込んでしまった。広い室内は耳が痛い程の無音となり、何とも微妙な空気が立ち込めた。


「ぶふっふ ! 」


突如静寂が破られた。御通夜状態の室内で誰かが行き成り噴出したのだ。いかにも「もう堪らないっ ! 」と言った具合に。


「ぶっははははははっはははっ ! 」


呆気に取られ口をポカンと開けているすず子を見ながらキャリコが腹を抱えて笑っている。今にも床に崩れ落ちそうだ。


「分かりやすっ ! あははっ、君、本当に分かり易いよねっ ! 」

「うぅ・・・・すみません」

「いいよ。いいよ。それだけ素直って事だ。嫌いじゃないよ、そういうのっ」


それから一頻り笑った後「この王子様が分かり辛いのがいけないんだよ。だから気にしないで」と、フォローが入る。彼の砕けた態度はシャルトリューの威圧感からすず子を開放してくれ幾分場も和む。


「で、何だっけ ? ヤナギ殿下の事だっけ ? 」

「はいっ、そうです。猫柳君・・・・あ、いえ、ヤナギ殿下はこれから如何なってしまうんですか ? 」


キャリコが目じりの涙を人差し指で拭いながら、急に話を戻した。しかし残念ながらその内容は芳しくないものだった。


「ヤナギ殿下は『去勢』の罰を受ける事になっている。これは王命だから現国王本人でなければ取り下げる事は出来ないよ。たとえこのシャルトリュー殿下であってもね」

「ヤナギ殿下は悪気が有った訳じゃないんです(たぶん)。ただ、ちょっとふざけただけなんです(たぶん)。だから、その・・・・(頭と身体が離れる系の)酷い罰とかはして欲しくなくて・・・・」


段々と尻窄みになって行く語尾。

何時の間にかポケットから取り出したカエルランプを両手で握りしめ、再度猫柳を援護するすず子。

その健気にすら見える姿を見つめるキャリコの目に浮かぶのは労わりか、それとも憐憫か、何とも言えない色が浮かんでいる。

直ぐ前に居るすず子を見ている筈なのに何故か遠くを見ている様な気配。


「大丈夫だよ。具体的な内容は言えないが身体に傷を付ける様な罰じゃない。この人も受けた事が有るけれど、チャンと生きてるでしょ ? 」


頬杖を突いた王子(兄)を指差し爆弾発言が飛び出す。当の本人は少し身じろいだだけで何も言わない。

幼馴染だとしても次期国王陛下にしてよい行為とは言えない気安い感じだがシャルトリューはキャリコが何をしても許しそうな気がする。

この二人には猫柳と猫島との間に流れるのとは少し違う不思議な空気があった。

しかし今はそんな事を考えている時ではない。

すず子は脱線しそうになった思考を戻しキャリコに何度も確認する。


「本当の本当の本当ですね ? 」


信じますよ ? 嘘を付いたら駄目ですよ ?


「本当だってば。五回も『去勢』を受けている人が目の前に居るんだから信じてよ」

「えぇ ! ご、五回っ ? ! 」

「そう。飽きもせず五回。馬鹿だよねーーーっ ! 」


朗らかに笑いながらシャルトリューの広い背中をバンバン叩くキャリコ。そして無表情絶賛続行中の兄王子。


――――五回・・・・・もしかして、その度重なる罰のせいでシャルトリュー殿下は・・・・こんな・・・仏像のような・・・


「あ。違うよ ? この人は罰のせいでマネキン化してるわけじゃないよ ? 元からだからね ? 地だからね」

「えっ ! ? 私、口に出していた ? ! 」

「あはははっ ! 本当に分かりやすいね ! 全部顔にでていたよ ! 」


吃驚した。頭の中を読まれたのかと思った。自分では今まで気付かなかったが私は心情が顔に出るたちらしい。

思わず頬を両手で覆った。


「兄さん。私達はそろそろお暇させて頂きますよ ? そちらも朝議の時間ではないのですか ? お忙しいと聞いていますよ」

「うん。まあね」


それまで黙っていた猫島が段々と遊ばれつつあるすず子に珍しく助け舟を出した。

実の兄の暴走を危惧しただけかもしれないがすず子にとっては渡りに船。


「行きますよ」

「う、うん」


猫島に促され、場を後にする。その際、最後に念を押すように猫柳の事を頼むとお辞儀をして猫島の後に続き重厚なドアから外に出ようと一歩踏み出す。

するとすず子の小さな背中に向かってキャリコが声を掛けた。その声は先程までと違って抑揚が無い小声だったが秘めた何かを内包していた。


「ねぇ、すず子ちゃん ? 君は君のしたい通りにしたら良い。決して流されてはいけないよ ? 君が後悔しない事。其れが一番大事だ」

「 ? 」

「君の周りにいる人間は皆、自分の幸せの為に動いている。引きずられては駄目だ。嫌な事は、ちゃんと拒絶して ? たとえ相手を殺す事になっても」

「えっ ? 」


キャリコの口から、少々物騒な言葉が飛び出す。

行き成りで何を言われているのか分からず、ぼへっとしていると、「その位の強い気持ちで頑張ってねってことだよっ ! じゃぁね」と言って送り出された。

すず子に向かって手を振るその時には、今までのキャリコに戻っていたので特に深く考えずに部屋を出た。



すず子達が部屋から出て完全に二人だけになるとシャルトリューが頬杖を解き目線を傍らのキャリコに流す。暗闇でも変わらず光る瞳は混じり気の無い金の色。


「ん ? 何 ? あぁ、さっきの ? 」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


言葉にされなくとも目の色だけで理解する。長い間一緒にいるキャリコだから出来る芸当だろう。


「すず子ちゃん大変だなーーっと思ってさ。だって、ヤナギ殿下も一度走り始めたら周りも見ずに全力疾走でしょう ? ・・・・・巻き込まれた方は堪ったものじゃないよ」

「・・・・・・・・・」

「さすが兄弟だよね ? 貴方達似ているよ」

「・・・・・・・・・」

「まぁ何だ。ヤナギ殿下が貴方程お馬鹿じゃない事を祈るばかりだね」

「・・・・・・・・・」


じっと、自分を見詰めるシャルトリューの目に困ったねと溜め息を一つ吐き「さぁ、仕事だよ。キリキリ働いてよね」と腕を上げ伸びをする。折れそうな程華奢な背筋が大きく反り、それを見詰める金の瞳が眩しげに細められた。



すず子の知らない所で誰かが誰かを想っている。

その誰かの中の誰かに自分が想われて居る事など奥手な彼女は想像すらしていない。

――――気付くのは、もう少し先になる。

その想いを受け入れるのか、跳ね除けるのかは今はまだ神様にも分からない。








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