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無言の王子様 ?

室内は決して豪奢な造りではなかった。寧ろ落ち着いていて、すず子の使っている部屋の方が派手だ。

だが、良く見れば装飾、調度品の一つ一つがとても秀逸な物だと言う事が分かるだろう。どれも王族が使う部屋を飾るに相応しい物だ。しかし残念ながら、緊張に固まっている状態のすず子には部屋の中を見回す余裕は全く無く、美術館級の室内に気付く事は出来なかった。


「お久しぶりです。シャルトリュー殿下。ご尊顔を拝謁する栄誉を浴しましたる事身に余る栄光に存じます」


猫島が礼を取り、目上の人間に対するお決まりの口上を上げ始めたが、すず子の耳には入らず頭の上を素通りして行く。今のすず子の全意識は一つの物に、いや、一人の人に向かっている。


「・・・・・・・」


室内の奥、革張りのどっしりとした椅子に気だるげに肩肘を付いて座っている男。

シャルトリュー殿下。猫柳の兄だ。


弟王子と同じ灰色猫耳は心持ち細長く、すっきりと上を向き滝の様に流れ落ちる長い髪と同じ色。伏せられた瞳は、すず子の立ち位置からは良く見えないが金に近い色だと思われる。

彼は髪の色は違えど弟王子に良く似ていた。冷たく整った形の良い目元など瓜二つ。


――――猫柳君もあと何年かしたら、こんな感じになるのかなぁ・・・・


目の前のシャルトリューの姿形に数年後の猫柳を想像するのは簡単だった。


しかしそれにしても、この男・・喋らない。それに動きもしない。

私達が入室してから一言も言葉を発していないのは気のせいでは無い筈だ。さっきから部屋に響くのは猫島の声だけ。

其処にただ座り終始無言、無表情を守り威圧感を発していて、すず子はその無言の圧力に中てられ硬直したきり身動きが出来なくなっていた。

さすが王族。

さすが次期国王様。

・・・・・・・・・・半端なく偉そうだ。いやいや、実際偉いんだった。


唯一動く頭の中のどこかの片隅で、ぼんやりと考えた。

隣の席が猫柳君で良かった ! この人だったら恐くて授業どころじゃ無かったよね・・・・。「消しゴム貸して ? 」なんて言ったら張り付けの刑にされそうだ。


一通り挨拶が終わった猫島が隣で棒立ちしているすず子を目の前の彼に紹介し始めた。


「シャルトリュー殿下、此方が件の中原すず子さんです」


まるで身体の中に針金でも入れている様なすず子に目線で促す。自己紹介しろ、という事だ。


「すっ、すず子ですっ。中原すず子ですっっ。猫柳君にはお世話になって(無いけど形式上仕方ない)ます。よ、ヨロシクお願いします」


悲しくなる程、子供のようなご挨拶。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


無言。


――――ど、どうしよう・・・・。何で ? 何で、何にも言わないの ? 怒ってるの ? 怒っちゃってるの ? こーわーいーよー ! ! 


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「~~~~~~ ~~~~~~ ~~~~~~ ! ! ! 」


袋小路に追い詰められたネズミ。もとい、すず子。

VS

無言猫耳王子殿下(兄)


「ねぇ」


どうしようか ? 謝った方が良いだろうか。でも、何を ? と、脳内で行ったり来たりしていると、突然誰かから無遠慮な声が掛けられた。面白がる色が濃い声だが私にとっては助け舟になった。


「あははははっ、気にしないでよ。この人これが普通だから ! 怒っているわけじゃないんだよ ? 」


シャルトリュー殿下の方にばかり気が行っていて気付かなかったが大きな椅子の陰に人が居た。助け船はヒラヒラと手を振っている、その人から出たものだった。


「私はキャリコ。この王子様の従者兼、幼馴染兼、飼育係りでーす ! 因みに、そこに居るシマの優しいお兄様だ。よろしくね ? 」


場違いなほど軽く明るい声が、この緊張感漂う場の居心地悪い空気を一掃した。


「よ、宜しくお願いします。すず子です。・・・・え ? お兄さん ? 」


驚き隣を見ると苦笑する表情の猫島。どうやら本当らしい。

話を聞くと何でも彼らの家は代々王族の従者を輩出している家系なのだと言う。


納得して視線を戻すと柔らかく微笑むキャリコと目が合った。

王子兄弟達と違って従者兄弟は余り似ていない。

猫島は大柄では無いが歳往相のしっかりとした体付きをしている。それに比べキャリコは頼り無いほど華奢だ。顔立ちも男を感じさせない中性的な造り。本人が兄だと自己紹介しなければ性別が分からなかっただろう。


じっと目の前のキャリコに猫島と似ている所を探していたが、有る事に気付き直ぐに視線を外した。余り不躾に見てはいけないと思ったのだ。何故なら彼には耳が、頭の上の猫耳が――――片方無かった。

事故か病気かは分からないが綺麗に一つ無い。片耳だ。


骨が浮くほど細い腕。

短く切られた斑色の髪。そして髪と同じ配色の一つ耳。

歪。不完全。

だが、その痛々しく痩せた肢体ですら何故だか美しいと感じた。


――――男の人には可笑しいかもしれないけど、・・・・綺麗な人。

すず子は静かにキャリコに魅了されていた。


ずーーーっと無言な猫王子(兄)は、もう、そう言う物だと諦め放置させて頂きキャリコ、猫島、すず子の三人で近況報告がてらの会話を和やかに進めた。

キャリコはとても気さくな人で、すず子が気後れしない様さり気無く会話を誘導してくれた。そのまま流れに乗っていれば初対面の人と話すのが苦手なすず子には楽だったのだけれども、自分にはどうしても確認して置かなければならない事があった。


恐いっ・・・・、でも聞かなくちゃっ ! その為に来たんだもんっ !


勇気を貰うためポケットの中のカエルランプを軽く撫でると、また暖かく温もってくれる。

「頑張れよ」と言われた気がしたすず子は両手を握り締め気合を入れると気だるげ爆発な

『彼』に向き合った。

再びの再戦。すず子VS無言猫耳。


「あっあの ! お聞きしたいんですけど猫柳君はどうなってしまうのですか ? 酷い罰とかされたりしないですよね ? 彼は、あの、その、別に悪い事をした訳ではなくて話の流れでそうなっちゃっただけと言うか何と言うか、とにかく(犬耳の件は)悪くないんです。だから・・・・(トイレ掃除位で)許して上げてくださいっ ! ! 」


相手の靴の爪先を見ながら一気に捲くし立てた。

言い終わった後は全力疾走した後みたいに肩が大きく上下する。

少々、上がり症の気が有り、気の小さいすず子が苦手意識を押して此処、次期国王候補などと言う貴人に会いに来た理由。

それは猫柳の事をお願いする為だった。猫島が王子の身体に傷を付ける事は無いと言ってはいたが、今一不安なのだ。捕縛された後の彼が気になって仕方が無い。


彼が気になって仕方が無い・・・・・・いや、安否が気になるだけで他意は無い。無いの。別に好きとかじゃないんだよ。けっして。ただ、何と無くだ。そう ! 何と無く !

困った人だけど嫌いにはなれないんだもの。心配するのは仕方が無いよね。あ、だからって好きな訳じゃないんだからね ? ! 決してっ、決してっ。・・・・・・・・・って、私誰に言い訳しているんだ ?


猫島から投げ掛けられた思いも寄らない質問は、一晩たった今もすず子の心に不可思議な波紋を立て、揺らし続けていた。

それはまだ小さな小さな波紋だったけれど、十分にすず子を動揺させていた。




し、新キャラ出ちゃった。収集が付かなくなるから成るべく登場人物は抑えたいのに・・・・・。でも、猫耳王子兄は、お気に入り。だって喋らないんだもん。「・・・・・」と書くのが好きなのです。

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