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部屋の中の庶民

「就寝の際のお召し物はバスルームの方に、ご用意させて頂いております」

「はっはい。有難う御座いますっ」

「何か御用が御座いましたら遠慮なさらずにお言い付け下さい。それでは、失礼します」


きっちりと髪を結った猫耳メイドさんに部屋の説明をされたのだが、それが凄く凄く丁寧で恐縮してしまう。


「すっすいません」


カチンコチンで何故か謝るすず子を残し、メイドは部屋を音も無く出て行った。

苦行のような乗馬を終えて城に辿り着き、私にあてがわられた部屋に通され、やっと休めると思いきや――――ちっとも落ち着かない。


外観よりもずっと上品だった城の内部は良いとして、問題はこの部屋。

一言で言うならば「ゴージャス」

何畳あるか分からないほど広い部屋。お姫様五人分位の広い寝台。白を基調とした美しい調度品。

サラリーマンの父とパート勤めの母を持ち、狭いマンション暮らしにも何ら不満を持たないバリバリの庶民のすず子には不相応な部屋。

8畳の部屋をアコーディオンカーテンで仕切って妹と二人で使っている者としては広すぎて落ち着かない。


もっと小さな部屋に換えてもらおうかと考えながら毛足の長い絨毯の上を意味も無くウロウロと動き回る。


「でも、さっきのメイドさんに面倒を掛けるのは申し訳ないしな」


白い華奢な椅子をガタガタと言わせながら部屋の隅に移動させ、座ってみるも落ち着かなさは変わらない。

備え付けのトイレを開け、バスルームを開け、開けられる所全てを見て回るが何処もしっくり来ず、最後にベッドの横のクロゼットの取っ手に手を掛けた。


「わぁ・・何て丁度良い・・・・・・・・四畳半」


今夜の寝床が決定した。

ふわふわの毛布を敷き詰め、ビロード生地の大きなクッションを置くと何とも立派な寝床が出来上がった。

これで電気スタンドが有れば夜中も安心なんだけどと、部屋を見回すとベッドヘッドに何故か――カエル。


「かっ、かわいいっっ ! 」


銀色に滑る様に光るカエル。インテリアとしては、この部屋に合わない気もするがすず子はとても気に入った。

片手に乗るサイズの其れをそっと手に取り、2~3回撫でるとカエルの口が「くわぁ」と開き柔らかい明かりが灯る。


「すごい・・・これも魔法なのかな ? 」


初めて手に触れた魔道具をそっとクロゼットの中へと置く。暗かった内部に柔らかい色の明かりが広がる。小さい頃、妹と2人で造った秘密基地のようだ。もっともあっちは古びた押入れだったが。


「よし ! 完璧 !」


今夜の落ち着き先が整い、一安心すると今度は自分の身体の汚れが気になりだした。

人食い鳥と猫耳男のせいで上から下まで土埃だらけだ。白かった靴下など洗っても落ちないのではないかと思われる状態。かべかべで、しわしわ。

さっきのメイドに食欲が無いからと食事も断ってしまったし、後はお風呂に入って寝るばかり。


「ええーと、パジャマはお風呂場において置いてくれてるんだよね」


さっそくバスルームに向かおうとした矢先、突然ドアをノックする音。

急な誰かの訪問に「びくっ」となりながら答える。


「は、はい。どうぞ」

「失礼しますよ」


ガチャ――、と言う小気味良い音と共に入って来たのは猫島。


――――あれ ?


一人だけの彼の姿に小さな違和感が頭を過ぎる。

今まで仕事をしていたのだろうか、まだ身形は先程のままで手には書類らしき物を持っている。


「食事を取らないとの事ですが身体に御不調でも ? 」

「え ? ううん。全然そんな事無いよ。ただ疲れたから今日はもう休ませて貰おうかなと思って」

「そうですか。具合が悪くないのであれば良かった。・・・・あぁ、それとですね転送装置にエネルギーを溜める作業は明日からになりますのでご理解のほど御願いします」

「・・・・・・うん。わかった」


そうか、明日からか。じゃあクリスマスにも間に合わないな。

悔しいのと寂しいので二重に凹むが、何時までも文句を言っては猫島君に悪い。

第一、彼は今回の事には関係無い。

本当の諸悪の根源、実行犯は別にいる。猫柳だ。

だが、その猫柳への怒りも、もう既に沈静化している。すず子の怒りは余り長くは続かない。怒りよりも悲しみ落ち込む方が尾を引く。そういう性格なのだ。


部屋の中心へ歩みを進める猫島を見てふと思う。

そういえば猫柳君はどうしたのだろう ? さっきの違和感は彼が居なかったからだと気付く。猫柳と猫島は、たいがい2人ワンセットで動いていた。だから猫島だけの姿に違和感が湧いたのだ。単品は珍しい。


「ね、ねぇ猫柳君は ? 」


まさか何かされ・・・・・

鉄格子入りの馬車で輸送された姿が蘇る。


「御気になさらずに。ヤナギ殿下は自室にて休まれて居られます」

「そう ? それなら良かった」


ホッとして思わず安堵の言葉が一言漏れた。

無意識に微笑むすず子に猫島が胡散臭い笑顔を貼り付けたまま、恐ろしい事を言い出した。


「中原さん。貴方はヤナギ殿下のことがお好きですか ? 男と女という意味で」

「えっ ? ええっっ ? 好き ? 私が ? 」

「はい。答えてください」


いったい突然何を言い出すのっ ? !

私の事をからかっているのかと思ったが、彼の顔には何時もの微笑があるだけで揶揄する様子は見られない。

それに、好意を持っていない私に冗談なんて言わないだろうし。多分この人は嫌いな人間には関わらない様にするタイプだと思うな。

すず子は周りの人の心の機微を読むのが上手い方だ。だが、そんなすず子にも読めない猫島。しかしコレだけは分かる。確実にこの人は私の事を良く思っていない。

何故だろう・・・・・何かしただろうか。


「ただの街角アンケートだと思って、軽い気持ちでお答え下さい」


フレンドリーな笑い声とは裏腹に目は笑っていない。


「・・・・・・・・ク、クラスメイト」

「 ? 」

「クラスメイトで隣の席の人だよ。それ以上でも、それ以下でも無いよ・・・・」


彼の真意が分からなかったから答え難いけれど、取り合えず今言った事は本当だ。

私にとって猫柳君はクラスメイト。それだけ。

付け加えるのなら「迷惑な」だ。

彼ほど厄介で読めない人は居ない。いつだって私を困らせる。彼に関わると私が私でいられなくなる。


猫柳の事を思い出し眉間に皺を寄せる私を瞬きもせずに見下ろし、猫島が質問を重ねる。


「彼が貴方を好きだと言っても ? 」

「そっ、そんな事言う訳無いじゃないっ ! 私とあの人じゃ、あらゆる意味で住む世界が違うしっ」


私は教室の隅。そして彼は常に中央に。


「・・・・・・そうですか」


彼は一瞬真顔になったが、それは本当に瞬きの間の事で直ぐにまた何時もの仮面を付けてしまった。余りに一瞬だったので、垣間見れた彼の顔の内側を読むことが出来ない。


「でも、行き成り何でーーーー」

「すみません。ただの戯言です。忘れて下さい」


バッサリと切り捨てられた。

私から視線を外した彼の態度に、早々にこの話を切り上げようとしているのが分かったので、聞こうと思った質問を途中でおさめた。

私だってこんな居心地の悪い会話を続けたいとは思っていない。


気まずい空気が流れる前に猫島が身を引いて部屋から出ようとする。扉までの数歩の間に彼は完璧に何時もの顔を身に着けてしまった。

きっともう揺らぐ事は無いだろう。付き従う猫柳に何かあるまでは。


「夜分失礼しました。それではごゆっくり――――と、そうだ。明日は、えーーと、まぁ良いか」

「何 ? 」

「別に気にしないで下さい。大した用事ではないのです。適当に私の方で処理しますので」


軽く手を振りながら、どうでも良い事の様に言うが処理という言葉が気になった。


「お、教えてよ。気になるよ」

「え ? そうですか ? 本当に大した事ではないのですよ ? ただシャルトリュー殿下が貴方にお会いしたいと言っているだけの話です。あぁ、シャルトリュー殿下とはヤナギ殿下の兄君様なんですけど」

「兄・・・・君 ? 」

「ええ。フェーリスシルウエストリスの王位継承権第一位の方です」

「 ! ! 」


全然、たいした話じゃなくないじゃないのよっっ !

つまり、猫柳君のお兄さんでしょ ? !

つまり、次期王様なんでしょ ? !

つまり、偉ーーーーい人なんじゃないっ ! !


どどどどーーーしようっっ ? !


「――――、いったい何を着て行けばいいのっ ? ! 」


すず子は土埃で粉っぽくなったセーラー服のスカートを摘まんで叫んだ。


「あれ ? お会いする気・・・・・・・・・・なんですね」


予想の斜め上を行くすず子の答えに踵を返そうとしていた猫島は足を止め、一瞬自分の主を思い出した。


あれあれ ? 以外に似ていらっしゃる ?









十話を越えましたが、未だにヒロインの性格があやふやで使い辛く、反対に猫島君は動かしやすくて勝手に動いてくれ、猫柳君は・・・・どんどん変態さんの道を走って行ってしまい、もう後姿も見えません。(涙)

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