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猫耳囚われる

「私に触れるな」


猫柳の怒気を孕んだ目が、自分を包囲する兵達を睥睨する。色素が薄く茶色より金色に見える冷たい瞳。学校では見た事の無い顔だった。

彼が周囲を警戒しつつ、帯刀していた細身の剣をしゃらりと抜き放つと、夕日がその刃に反射して周りを囲む兵の武具を赤く照らした。


「何をしているのです。さっさと仕事をして下さい ? 貴方達、給料泥棒になりたいのですか ? 殿下も我が儘を言わずに大人しく従って下さいよ」


拘束 ? 捕まえる ? 罪 ?

どうしてそこまでするの ? 猫柳君はこの国の偉い人なんでしょう。


「ね、猫島君 ! ど、どうして猫柳君を捕まえなきゃいけないの ? 」


勇気を出して群衆の外に居る彼に兵を掻き分け近づいて行くと、彼は近寄って来たすず子に何時も通りの笑顔で、もう一度罪の理由を述べた。


「ヤナギ殿下は耳猫族の誇りである耳を軽んじ、有ろう事か犬の耳などと言う卑しくも馬鹿馬鹿しい物をその頭に頂いた。その蛮行は我が耳猫族に対する侮辱。つまりは我が王に対する反逆罪」


長々しく続く罪状を聞いていた猫柳が密かに身じろぐ。たぶん自分でも予測していなかった事態なのだろう。少なからず動揺をしている筈だ。その隙間を突いて兵が彼を捕らえようと近づくが、手にした剣を一振りして蹴散らす。


「猫柳君は私が猫が嫌いだって言ったから犬耳を着けたんだよ。それだけだよ ? 反逆罪だ何て事無いよ ? 」


普通ならこの位、笑い事で済む筈だと思う。罪だなんて大それた事じゃない。悪ふざけの範疇でしょう ? !

周りの反応で彼の遣った事の不味さは分かるが、すず子自信には、その行動から生じる罪の重さが良く理解出来ない。


「ええ、そうでしょうね。殿下は我が国を心から愛していらっしゃいます。それは分かっているのですよ」


猫島君は相変わらずの胡散臭い笑顔で私を通り越し兵の、その奥に居る猫柳に向かって後半を続けた。


「しかし殿下、最近の貴方は変わられてしまわれた。いや、変わったと言うと語弊がありますか。際も優先する物の順位が変わっただけですね。・・・・ですが、その順位を我らが王は大変お気にされているのです」


フェーリス・シルウェストリスの為に、その他のモノに我を忘れるほど心を奪われてはいけなかった。猫柳は王子という立場を忘れてはいけなかったのだ。全てを掌握しなければ気がすまない王。自分の父親の存在を。


「ヤナギ殿下。貴方は時期を見て『去勢』の刑に処されます」

「なっ、何だとっ ! ! そんな事受け入れられる訳が無いだろうっ ! 」


猫島の『去勢』と言う言葉に大きく反応した猫柳は、手にしていた剣を振るい兵を退かせ猫島までの道を作ろうとする。兵達は手出し出来ず遠巻きに周りを囲むしかなかったが決して、その囲みを崩す事は無かった。親しみと敬愛を猫柳自身に持っていても彼らは王の命令に縛られている。


「去勢ってどういう意味 ? まさか手術・・・・身体を傷つけたりするの ? 」


去勢 ? どんな罰なんだろう。大体、私のせいで罰を受けるなんて気分が悪いよ。

私の頭の中には、犬や猫に行なう去勢手術が浮かんでいた。


「まさか。身体に傷を付けたりはいたしませんよ。殿下は貴い身分の方なのですから」

「痛い事は無いのね ? 」

「はい。痛くはありません。ただ、殿下にとって何が一番優先するべきものか理解して頂くだけです。王の父親としての親心だと思ってください」


――――つまり、お父さんにお説教されると言う事 ?

その位されて当然だよね。散々、迷惑を掛けられて来た私としては、ちょっといい気味。ドンドンされるべき !


「うわぁっ ! でっ、殿下っ収まりくださいっ ! 」

「五月蝿いっ ! あの方は兄上だけではなく私の事も管理するつもりかっ」

「わっ、猫柳君 ? ! 」


鉄と鉄とが打ち合わされる甲高い音が耳をさす。

どよめく兵士達の只中で猫柳が剣を振るい、周りの兵を蹴散らしていた。その正確な太刀筋と貴人を捕らえるという恐れ多い事態に尻込みした兵達は、なかなか対象を拘束するに至らない。


「去勢 ? ふざけるな ! 断じて認めんっ ! ネズ子っこっちに来い ! 私と一緒に ! 」


彼は余程罰を受けるのが嫌らしい。

後がないと言わんばかりの必死の形相で、すず子に向かって剣を持っていない方の手を伸ばす。


――――猫柳君・・・・ ?


余りの必死さに、手を取らないと不味いのではないか ? という思いが湧き一瞬迷うが、すず子がその手を取る事は無かった。

後ろから猫島が、すず子の肩を掴んで引き寄せたからだ。


「はいはい駄目ですよ。甘やかさないで下さい。罪は罪。罰は受けなければ成りません。あぁ、そうだ。中原さんに協力してもらおうかな」


「猫島君 ? 」


引き寄せた私の真後ろに立つと、後ろから手を伸ばして顎を掴む。強い力ではないのに体が・・・・動かない ?

瞬時に緊張した私の耳元で、『動かないで下さい』と聞こえない位の音量で囁く。


「シマッ ! そいつに触るなっ ! 」


鋭い威嚇が飛ぶ。


「貴方次第ですよ。大人しく捕縛されて下さい ? でなければ中原さんを――――・・」

「な、何だ」


「ミルキングします」


「 ! ! 」

「私にそんな事させないで下さい。恥ずかしいんで」

「馬鹿がっ、ありえんっ ! ! 私だってした事無いのにっ」

顎を掴んでいた手が、するりと降り胸の下に。さっきより拘束力が増す。


「ちょっと・・・・・・・ ・・・」


ミル何とかも気になるが、この体勢の方が問題だ。

くっ付き過ぎじゃない ? 猫柳君程じゃないけど、この人も背が高いから圧迫感が半端ではない。それに第一・・・・恥ずかしい ! 落ち着かない ! ちょっと離れてーー !


「シマ・・・・こいつにそんな事してみろ。絶対に許さんぞっ」


地を這うような低音に、それまでモゾモゾさせていた体が固まる。

兵達が剣を構える輪の中心に居る彼が猫島に向かって穏やかでない眼光で忠告する。しかし凄まれた当の本人は一見、気にした風もないが、直ぐ傍で触れ合っているすず子には彼の身体が密かに硬く緊張したのが伝わった。

もしかして、もしかしてだけど彼も好きでこんな事をしている訳じゃないのかも・・・・


「さぁ、彼女に嫌な想いをさせたくないので有れば私に従って下さい」


彼の密かな緊張から本気を感じ取った猫柳は口を強く引き結び、手に持っていた抜き身の剣を足元に放った。


「約束しろ。ネズ子に手は出さないと」

「勿論、約束しますよ。私は貴方の為にならない事はいたしません」

「・・・・・・」


腕を垂らし大人しくなった猫柳に兵士達が、わっと群がり手を掛ける。

こうして彼は罪人として縛についた。










おかしい・・・・猫柳君の設定は美形王子様。の筈だったのに、どんどんへタレ君に・・・・。そしてすず子はツンデレ化して行くのであった。

おかしい、いったいどんなイリュージョンが ?

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