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どっぺる!?  作者: 氷純


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21/32

仲良くするんだぞ。

遅くなりました。

 放課後、佐也香を連れて帰宅した俺は手早く私服に着替えてリビングへ顔を出した。

 ソファに腰掛けている佐也香はすでに私服姿だ。膝の上に開いているのは料理本だろうか。今日の弁当を思い出し、俺は調理学を佐也香に教える決意をした。

 まぁ、俺も詳しいとは言えないので教科書を買ってきてからになるだろうが……。

 ソファの後ろに立って佐也香の肩越しに料理本を覗き見る。開かれたページはサバの味噌煮のレシピ。


「熱心だな」


 俺がいきなり声をかけたからか、佐也香の肩がぴくりと跳ねた。

 振り返った佐也香の顔は少し不機嫌だった。


「夕食のメニューは秘密です」


 盗み見たのがまずかったか。

 若干の後悔はあったが、同時に思う。『秘密』とは、随分と人間らしいではないか。良い傾向だ。

 嬉しくなって佐也香の頭を撫でる。

 彼女はしばらくされるがままだったが、やがて料理本を閉じて立ち上がった。


「夏律さんの所に行くんですね?」

「その件だが、佐也香は留守番だ」


 夏律の家に『浮気相手』の佐也香を連れて行くほど俺は鈍感ではない。

 事情を知るはずの佐也香は何故か不満顔をした。表情が豊かになったものだ。

 佐也香は事件解決に向けて張り切っていたから、調査結果を一緒に夏律へ報告したかったのかもしれない。


「兎里が菓子折りもって訪ねてくるんだ。俺達が揃って出掛ける訳にもいかないだろ」

「それはそうですが……。」


 不満顔の佐也香に苦笑しつつ宥める。

 兎里が謝る相手は佐也香だ。

 それにせっかく同じクラスの女子なのだから、佐也香の友達になってもらえれば嬉しい。

 性格には非常に問題があるが、佐奈といい夏律といい、俺の周りの女子は似たり寄ったりなのを考えれば及第点だろう。

 そんな思惑もあって、佐也香を連れていく気はない。


「留守番中の注意事項だが、まず二階には立ち入らせるな」

「発明品を見せないためですね」

「それもあるが、壊れやすい機材もあるのでな」


 数百万円の機材もある。

 不注意で壊されても弁償しろとは言わない。買い直しても大して懐は痛まないので当然だが。問題は届くまで時間がかかる事だ。

 生き甲斐である実験ができないのはつらい。


「それから、兎里に誘われて出掛けるなら戸締まりを忘れないようにな。あとガスの元栓とか」


 思い返してみれば、佐也香にとって初めてのお留守番か。

 なんか無性に心配になってきた……。


「うぅむ。大丈夫かな」

「ご心配なく?」


 首を傾げつつ言われても説得力ないぞ。

 心配ばかりしていても埒が明かない。なんだかんだで佐也香は天才である俺のクローン。留守番くらいこなせるだろ。

 無理やり納得して俺は玄関に向かう。


「そうそう、兎里に訊かれても俺の行き先は言うな」


 追いかけられたら面倒だ。

 佐也香に留守番を任せて俺は玄関の扉を開ける。


「あら?」


 玄関先でインターホンを鳴らそうとしていた兎里と眼があった。彼女は少し驚いていたが、すぐにたおやかな笑みを浮かべた。その笑顔を桜に見立てて花見ができそうだ。中身が真っ黒なのを知っていても見惚れそうになる。

 佐也香に悪い影響を及ぼさないと良いな。

 男を手玉に取る佐也香の未来が垣間見えたが、頭を振って幻覚を追い出した。うちの子に限ってそんな悪女にはなるまい。


「お出かけですか?」


 花びらが乗っていそうな暖かい声で兎里が訊いてくる。


「俺だけな。佐也香は留守番だから安心しろ」


 兎里を招き入れ、入れ替わりに外へ出る。

 ついでに家のポストに入っていたチラシの束を佐也香に渡す。


「いってらっしゃい」

「おう。行ってくる。仲良くするんだぞ」


 佐也香と兎里に見送られ、俺は夏律の家に向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 いつも通りうらぶれた庭園を横目に夏律の家に上がり込む。


「夏律、いるか?」

「僕が家以外のどこにいると思うんだい」


 あらかじめ、メールで訪問を伝えておいたからか、夏律はすぐに廊下から姿を現した。

 長い髪を後ろで一括りにし、眼鏡をかけている。珍しくパジャマ姿ではなく、青地に水風船が描かれた和服を着ていた。


「ふむ。今日は一人なのか。道中、さぞ心細かったろうね」


 いきなり飛び出した皮肉に苦笑する。昨日の宣言通り、存分に腹いせをするつもりらしい。

 詫びに買ってきた羊羹を差し出すと、夏律はにこやかに受け取る。


「プレゼントで懐柔しようとは姑息な真似が出来るようになったものだね。ただ、センスは評価するよ」


 この羊羹はネットでは扱っていない。

 いくら彼女が金持ちでも引きこもりである以上、買えないのだ。


「夏律が和菓子好きなのは知ってるからな」

「僕は宗也と食べる和菓子が好きなのさ。二人っきりなら言うことないね」

「そう虐めないでくれよ」


 両手をあげて降参すると夏律はくすくす笑った。

 彼女はその場でくるりと反転すると、俺を手招いた。


「さぁ、あがりたまえ。色々とおもしろい話があるよ」


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