保護指定してます。
味には問題のない佐也香特製の弁当を食べながら、形蔵に生徒会長達の事を聞く。
「時々、居場所がなくなるくらいに仲が良い二人ですよ」
食後のコーヒーを淹れながら形蔵が曖昧な笑みを浮かべる。
「なんというか、お気の毒だな」
「仕事はできる人達なんですけど、学校以外では逢えない反動が出てるんですよ」
私がいなければ二人きりですし、と頬を掻きながら形蔵は付け加える。
ここに来るときはノックを忘れないようにしよう。
「学校以外で逢えないってのは何故だ?」
「……知らないんですね」
形蔵はキョトンとした後、「あなたも知りませんか?」と佐也香を見る。佐也香は首を横に振って答えた。
「そっか、二人は入試組でしたね」
形蔵は両手を軽く合わせ勝手に納得する。
中等部からのエスカレーター組には知れ渡っている話のようだ。
形蔵は話してもいいか一瞬悩んだようだが、エスカレーター組の中で有名なら出所は分からないと判断し、口を開いた。誰から聞いたか言うなときっちり口止めされた。
「糸澄会長の家が厳格らしいんです」
聞くところによると、生徒会長である糸澄先輩は大学卒業まで一切の男女交際を禁じられているらしい。
それで学校内での密会か。
「まさか、二人が生徒会に入ったのって」
「本人から聞いてはいませんけど」
はにかんだように笑う形蔵。
二人の事を話す際の態度から察するに、彼女は二人を好意的に見ているようだ。
「私だけじゃなくて、学内の人はほとんど味方ですよ。糸澄会長は小動物チックですから、学年を問わず保護指定してます」
先輩を評する言葉とは思えない台詞を口にして、形蔵はコーヒーをすする。
佐也香ファンクラブの件といい、この学校の関係者は無駄に連帯感が強いな。
「そんな事情があるので、会長達を虐めると色々と事故が起こりますよ?」
牽制された。
まぁ、弱みを握るためというのは単なる方便で、会長達に何かしようとは思わない。
一言だけ言わせてもらえば、
「リア充はぜろ」
くらいか。
「リア充……?」
佐也香が聞き慣れない言葉を反芻しメモを取るのを横目に見つつ、俺は情報を少し整理した。
生徒会長達は学内である程度の有名人であるようだ。
入学式当日の目撃証言は見間違いの可能性が低くなった。同時に、生徒会長と副会長が二人で登校していた可能性が高まる。それが不思議だ。
二人で登校するのは必然的に学校関係者以外の通行人もその姿を目にする。家にバレるとは考えなかったのか。
「生徒会長達は普段から一緒に登校したりするのか?」
「しないと思いますよ。本人達は隠してるつもりですから」
空になったコーヒーカップを片付けながら形蔵が答えた。机に置かれたプリントの山にうんざりした様子で形蔵は期待するように俺を見た。
「おっと、メールだ」
声に出して知らせると形蔵は舌打ちした。
携帯電話の液晶画面には夏律の名前があった。メールを開くと至って簡潔に『そいつらだよ』と書いてあった。
その億劫さを隠そうともしない短い文面に確信する。あいつ、寝起きだ。登校日だってのに。
何はともあれ、警察から被害者の写真を見せられた夏律のお墨付きがでた。誘拐されたのは生徒会長と副会長の二人で決定だ。
さて、生徒会室での用事は済んだのだが、帰りにくい雰囲気だ。
「形蔵、何故入り口を塞ぐ」
扉に背中を預けてプリントを読んでいる形蔵に真意を問う。
まぁ、予想は出来る。
「せっかく情報提供したんですよ? 手伝ってくれても良いじゃないですか。部費の配分とか大会の申請書とか他校との交流会の日程決めとか、今修羅場なんですよ。貴重な時間を割いてまで協力したのに見返り求めちゃいけないんですか!?」
やっぱりそういう魂胆か。ずいぶんと素直に協力すると思った。
俺がきっぱり断ろうとする前に佐也香が動き出した。
何をする気かとその行動を注視していると彼女は乱雑に置かれたプリントを一枚一枚拾い上げ、整頓を始めた。
「えっと、佐也香、何してんだ?」
「困っている人に助けを求められたら手を貸せと佐奈さんに教わりました」
「馬鹿なっ! 佐奈がそんな優しい台詞を吐くわけが!!」
佐奈の良いお姉ちゃん振りに驚く俺を横目に机の上を手早く片付ける佐也香。
形蔵が頭を下げて感謝し、佐也香から手渡されたプリントを仕分ける。
既成事実が積み上がり、俺は仕方なく二人を手伝い始めた。




