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どっぺる!?  作者: 氷純
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原因は?

 妙に柔らかで温い枕の感触が頭を包んでいる。佐奈に蹴られて意識が飛んだから寝かされているのか。


「気がツキまシたか?」


 瞼を開けるとクローンの声が降ってきた。ささやかな胸の膨らみを越えた真上から……。


「クローンに膝枕されたのは俺が初だろうな」


 いやはや、なかなかどうして、感慨深いものがある。

 クローンを見上げながら俺は思った。

 俺のシャツを着ているのは高ポイントだ。少し大きめのシャツ、その長い袖を持て余し指だけ出ているのが良い。非常に良い。

 惜しむらくは顔が俺とそっくりな所。見慣れているからか、異性と認識しにくい。

 若干の感動に胸を熱くしていると何処からか殺気が漂ってきた。出所を探すと拳を握っている佐奈がいた。


「起きたなら言い訳しろ。このど変態」


 閻魔が腰を抜かしそうなほど素敵な笑顔で命令された。

 言い訳なんか聞く気も無いくせに。


「寝た振りすんな!」


 諦めて自らの冥福を祈ろうとした俺の襟首を掴んだ佐奈がガクガク揺さぶってくる。

 って言うかやばい。三半規管がピンチ。吐き気がしてきた。


「第一、何で私を出迎えるのが宗也じゃないの? 何でそっくりさんが出てくんの? 何でそっくりさんは裸なの? あんたら一体何してたの!?」


 俗に言う質問責めであ……うぷ。


「顔が青くなってイます。吐かなイように食道を押さえた方がイイです」


 ちょっ……。クローン何言ってんの?


「こう?」


 気道も絞まってますって! 息が苦しい。吐き気と併せて二重苦だよ!


「もっとこう。キュッと」


 クローンさん何ジェスチャー加えてんの! その擬態語すごく怖いよ!?

 俺が必死に暴れて首が絞まっているとアピールした甲斐があって佐奈はようやく俺を放してくれた。


「大丈夫ですか?」


 クローンが俺の背中を撫でて労ってくれる。半分くらいお前のせいだけどな!


「で、説明は?」


 佐奈が睨んでくる。


「こいつはさっき生まれたクローン」


 さっき、でいいんだよな? 気絶してたから意識と一緒に時間が飛んでるんだが。


「何で裸か聞きたいのよ」


 身元確認が先だろ普通は。

 だが、佐奈に理屈が通じない事くらい知っている。


「生まれたばかりだから服を着ていなかったんだ」


 そういえば、最低限の社会常識がクローンの頭には入っていたはずだ。なぜ裸で来客対応なんかしたんだ?

 不思議に思って本人に尋ねると意外な答えが返ってきた。


「来客には服を着て対応シなくてはイけなイとは知りませんでシた」

「あぁ。当たり前過ぎてインプットし忘れてーーぐはっ」

「お前のせいかぁあぁぁ!」


 俺の脳天を揺らす佐奈の右フックに意識が飛びかける。

 この最高の頭脳を内包する素敵に格好良い入れ物をいささかの躊躇もなく殴りつけるとはモノの価値が分からぬ女だ。


「かなりムカつくこと考えてるみたいだけどまぁいいわ。それで、この子は宗也のクローンなのに何で女の子な訳?」

「問題はそこだ」


 俺のクローンであるからには男である筈なのにこいつは間違いなく女だ。

 決定的なところは見てないがーー


「どこ見てんだ、変態」


 佐奈の怒気に気付いて慌てて向き直る。

 俺は咳払い一つして仕切り直すと説明を始めた。


「これは仮説だが、遺伝子の問題だと思う」


 人の性別はXとYの二つの遺伝子で決まる。Xが二つ揃っていれば女性、XとYが一つずつで男性になる。


「と、ここまでは高校の生物の授業で習うな」

「私達まだ中学生でしょ」


 俺は予習してんの。

 それに来月から高校生だしな。


「けど、何となく分かったわ」


 そう言って佐奈がクローンを指差し、


「この子は宗也のX遺伝子だけを複製してXが二つ揃ったのね」

「察しがいいな」


 まだ検査はしてないから仮説の域を出ないものの、俺は自信があった。

 クローンは自分の事だというのに無表情で頷いている。

 そこで佐奈がふと首を傾げた。


「うん? それじゃ、この子は宗也のクローンというより……。」


 佐奈の言葉の続きを想像した俺は心底ぞっとした。

 そんな俺の心境を露とも知らない佐奈は納得顔で手を打った。


「宗也のお母さんのクローンよね!」


 せ、セーフ……。

 俺は胸をなで下ろす。

 佐奈が科学を苦手としていて助かった。真相を知ったらまた拳が飛んでくるに違いない。

 安堵感に胸を一杯にしている俺はクローンが佐奈の発言に首を振った事に反応が遅れた。


「佐奈さん、この場合はクローンでは無く宗也さんとお母さんのーー」

「わぁわぁわぁ! 君は何で爆弾発言しようとしてんのかなぁ!?」


 慌ててクローンの言葉を遮って詰め寄る。

 純真無垢すぎてお父さん心配よ!?

 クローンは事態が飲み込めているのかいないのか全くの無表情。佐奈は俺に疑うような視線を向けた。


「と、とりあえずはこのクローンの名前を付けておこうと思うがどうだ?」


 早口で話をすり替えた俺を佐奈はまだ睨んでいたが、クローンが俺に同意したので渋々賛成した。


「宗也は元からクローンを創るつもりだったんでしょ? 名前くらい予め考えときなさいよ」

「考えてあったさ。だが、女に付ける名前じゃない」

「因ミに、何と付けるツもリだったのですか?」

「……宗介」


 クローンに訊かれてぼそりと答えた名前に佐奈が呆然と口を開けた。


「……だ、誰が考えたの?」

「俺に決まってるだろ」

「そんなはずない! 幼なじみを騙そうったって無理よ!?」


 激高した佐奈が叫ぶ。クローンは無言かつ流麗な動作で耳を塞いだ。


「あんたが付ける名前なんて昔から天毒血エンジェルブラッドとか暗黒音ダークネスアルトーって訳わかんないやつじゃない!」

「止めろっ。その名を大声で口にするなぁ!!」


 厨二病だったんだよ。幼なじみなら察しろよっ。卒業式は済ませたんだよ! 厨二病に未来は見えないの!!

 しかも悲しいことに佐奈が口にしたのは俺が特許申請した発明品あるいは商標登録した商品の名前だ。

 近頃、世間様の視線が痛い。知ってるか、視線で人を殺せるんだぜ?


「……落チ着キまシたか?」


 さんざん言い争って、肩で息をする俺達にクローンが言った。


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