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番外編1

王都へ向かう途中での一幕。

何故悪魔が家事をしだしたのか?


 王都へと向かう馬車の中。

 同じような田畑が広がる景色が続き、いい加減黙ってそれを見るのにも飽きてきた頃、クロードがふと思い立ったように口を開いた。


「そういえば、ルゥ殿はどうしてあんなに家事が得意なんですか?」


 どうしてクロードがそんなことを質問したのかと言えば、ちょっとした好奇心と時間の有効活用のためだった。

 要するに、暇だったのである。

 まあ暇だったのは皆同じであったので、さっそくキラが食いついた。


「そう言えば、なんでだっけ?」


 話してほしい、と期待する四つの目に見つめられ、ルゥは珍しくもたじろいだ様子だった。

 だが、やがて諦めたようにため息をつくと、何故かキラの頭を軽く叩く。

 どうして叩かれたのかよくわからずきょとんとするキラの顔を見て、ルゥはもう一度ため息をついた。


「元はと言えば、おまえが家事をまったく出来なかったからだろうが。とてもじゃないが、あの時は見ていられなかったぞ」


「え……あ~、ああ!」


 キラは言われてようやく思い出した、というようにポンと手を叩いた。


 話は、キラとルゥがあの山小屋に住み始めたときまでさかのぼる。

 住む場所になるべく人間と接触しない土地を選んだため、生活はすべて自分たちの手で営まれなければならなかった。

 冒険者として旅をしていた間は、宿に泊まっていれば自分たちで家事をする必要はなかった。

 野宿するときは料理を作るときもあったが、どれも手間がかからず主に材料を鍋に入れて煮込むような代物ばかりであったし、当時のキラは目的達成ばかりに気がいって味を楽しむ余裕などなかったのである。

 しかし、普通に暮らしていくのならばそうもいかない。


「洗濯をさせればあたりを水浸しにし、掃除をさせれば逆に部屋を散らかす。料理では小麦粉をばらまいて、あやうく粉塵爆発までおこしそうになった。あげく全部途中で飽きて昼寝をしだし、後片付けはすべて俺がやるはめになった。それなら最初から全部俺がやったほうが早くて安全だ」


「キラ殿……」


「あはは。そんなこともあったような、なかったような?」


 なまぬるい視線でじとりと見るクロードに対し、キラは乾いた笑みを浮かべた。

 しかしとても反省しているとは思えない態度である。

 戦闘能力や医術、その他いろいろな面で常人の能力を超えるキラであったが、家事の才能だけはなかったらしい。


「しかも、おまえはなんだかんだと俺のやり方にケチをつけて……」


 別に悪魔ならば普通の人間の食事などは一切必要ないし、契約のために必要ならば、ぱぱっと魔力を使ってやってしまえばいい。

 しかし、掃除や洗濯の丁寧さや繊細な料理の味付けは、それだけでは難しい。

 面倒くさがりなキラは、けれどそういうのに対しては敏感だった。


 キラは元から目ざとかったのだが、以前は他人に対しあえて口に出して文句を言うことはなかった。それが今は、ルゥに対してだけは注文だらけになる。

 それはルゥがキラに接したことによる変化であったし、そうなるように仕向けた自覚はルゥにもある。


 しかし、しかしだ。万能に近い悪魔は、当然それに匹敵する矜持の高さを兼ね備えていた。

 まあ、ありていに言えば、キラは完璧主義者のプライドを逆なでしまくったのである。


 もはやケチなどつけさせまいと悪魔は自らすべての家事を一手に引き受け、その万能っぷりと見事証明するに至ったのであった。


「まあ、きっかけは必要にかられてだったが、途中から嵌まったのは本当だ。特に料理は面白い。それまでは生産的なことなど、したことがなかったからな」


 ルゥのそれまでの人(悪魔?)生は、壊すことばかりだった。

 物に限らず、人や魂、果ては同族とてもてあそび、気まぐれに引き裂く。

 何かを作るなど、考えたこともなかったのだ。


 しかし、そんなルゥの事情など知る由もないクロードは普通に趣味の話だと思い込んでいた。


「生産的なこと、ですか。あ、私も一時期趣味で花やハーブを育てていたことがあります」


 園芸自体は貴族の嗜みとしてはいささか似つかわしくなかったが、クロードのどこか柔らかな雰囲気には違和感がないように感じられた。

 ルゥの興味もひけたらしく、クロードは得意げに話しだす。


「自分が手塩にかけただけ後から成果が出ますし、注意深く観察すれば日々の変化もわかって、どこか愛しささえ湧いてくるんです。もっとも、私の場合は家をあけることが多く、結局世話を使用人任せにしてしまいましたが……そうだ、もしよければその株をお譲りしましょうか?ハーブなどなら料理などにも使えるでしょうし」


「育てる、か……」


 クロードの提案にルゥは少し考える素振りをし、けれどちらりとキラを見やると首を横に振った。


「いや、魅力的な申し出だが、遠慮しておこう。俺は今育てているもので精一杯だからな」


「え、ルゥってそんな食べられるもの育ててたか?」


 そのようなものに全く心当たりがないキラは思わず声を上げた。

 基本的にレギナ山は寒さが厳しくて、植物を育てるには相当手間がかかるはずだ。しかし、そんなことをルゥがしていた覚えはない。

 いぶかしげな顔をするキラに、ルゥは意地悪げに低く笑う。


「ああ。もっとも、どういう風に育つのか、それに食べられるくらいにまできちんと育つかは、まだわからないがな」


「……?」


 どこか含みを持たせたルゥの発言が理解できず、キラはきょとんとした顔をした。

 そのままクロードにも視線を向けるが、ルゥに関してキラがわからないことを付き合いの短いクロードにわかるわけがない。ましてクロードはキラに関する重要な認識を誤っているので、彼のほうも困ったように肩をすくめるしかできなかった。


 結局そのまま話はうやむやになり、もう一度キラが問いただしても、ルゥはどこか意味深に笑うだけであった。


 知らぬは本人ばかりである。


甘い……のか?

当社比としては甘いはず。

とりあえずキラは鈍いです。

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