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半年以上放置してすみません…

久方ぶりの更新です!

 翌日、3人は王都に向けて出発した。

 まずはふもとの街まで行かなければならない。 しかし、病み上がりのクロードの体に、下りとはいえ山はきつい。

 そこでキラはクロードの体に負担がかからない方法を考えた。


「キ、キラ殿…!?」


「なに?クロードさん」


 荷物を縛りながら、キラは視線をクロードに向けた。

 どことなくクロードの顔色は悪い。体調のせいではない。心理的な要因からだ。


「こ、これは一体…?」


「見ての通り、ソリだけど?」


「それはわかります。問題は…その、ソリをひく動物でして…」


 クロードの視線の先には、ソリに繋がれた、複数の生き物。

 灰色がかった毛皮、鋭い金色の瞳、グルルという低い唸り声、鋭い爪と牙。


「ああ、狼。大丈夫、みんな俺の知り合いだから」


 かじったりしないよ、といっそ朗らかに笑うキラ。

 ルゥはそんなやりとりに我関せずといった感じで、荷物を積み込んでいる。キラと同様、狼に萎縮している様子は見られない。

 クロードの反応は一般的な人間のものであるはずなのに、この二人の横にいると何故か浮いているように見えるから不思議だ。


「地方によっては大きな体をもつ犬にソリをひかせることはあると聞いたことがありますが、さすがに狼は…」


 しかも野生の狼だ。

 獰猛な動物でも小さなころから人間の手で育てれば、人慣れして気性が穏やかになるものもいるらしい。が、ここに集まった狼たちの瞳には、厳しい自然の中に生きてきたことをしめす強い光が見受けられるのだ。


「何言ってるんだよ、クロードさん。あんたは既にソリどころか、直接のっけて運んでもらったことがあるんだぜ。しかもこいつらのボスに」


 それに比べれば、というキラだったが、クロードにはそんな覚えはまったくなかった。


「なっ!い、一体いつ!?」


「ほら、あんたを拾った日。俺一人じゃとても運べなかったから、頼んで乗せてもらったんだよ」


 あの日、正確に言うなら、キラは狩りでまったく成果を上げていなかったわけではなかった。

 いつもより少なかったのは確かだったが、一応兎を一羽仕留めていたのだ。

 だが、クロードを発見し、重傷の彼を家まで運ぶにはキラ一人では荷が重かった。ルゥを呼びに行くのにも時間がかかる。

 そこでキラは、丁度近くにいた一頭の狼に助けてもらったのだ。

 それは通常の狼の二倍ほどの体躯をもつこの山の狼たちのボスであったのだが、彼はキラの頼みを快く引き受けてくれた。

 キラの獲った兎はそのボス狼への謝礼に渡してしまったので、結局成果はゼロになってしまったのだが。


 自分の意識がないときにそのようなことになっていたなど知らなかったクロードは、キラの告げた事実に非常に動揺していた。


「そ、そんな…キラ殿、あなたはなんで平気なんですか!相手は野生の狼なんですよ。しかも頼んだとか…あなたは狼と会話でもできるんわかるんですか!?」


「ああ、うん。できるよ」


「────!!」


「そっか。普通の人はあいつらの言ってることとかわかんないんだっけ。最近は他の人間に会ってなかったから忘れてた…」


 これからは気をつけないと、などとぶつぶつ言うキラ。


 魔法の中には動物を操るものがあるらしいが、それこそ操り人形のようにして戦わせることなどが目的なのでそこに動物の意思は存在しない。

 キラは恐れるでもなく狼たちに触れ、話しかけ、時に頼みごとをする。狼たちはそれに自分たちの意思で従っているようだった。

 キラと狼たちの関係はそれこそ本当の友であるかのように見受けられ、動物の扱いに慣れた猛獣使いなどともその様子は異なっている。


 キラの能力は明らかに普通からは逸脱している。

 そんなことは魔法関連に疎いクロードにだってわかった。


「あ、あなたは一体…」


「そのあたりにしておかないか、クロードさん」


 そこでようやくルゥが口をだした。

 クロードははっとしてルゥを見つめる。キラにばかり注目していたが、この場に平然としているルゥとて十分異常である。

 ルゥは自分を見つめるクロードの瞳に、未知のものに対する不安と恐れを感じ取った。

 これだから人間は、とルゥは内心僅かな苛立ちをつのらせた。


「このとおり、キラは少々普通の人間とは違うところがある。それを受け止めるも拒否するのもあんたの自由だが、不信感を持った人物を王都へ連れて行くのは騒動の元だ。引き返すなら今だぞ」


 そう言ったルゥの言葉は、どこかひやりとするものを感じさせた。

 引き返す、とはつまり、キラたちを王都へ連れて行くのをやめる、ということだ。

 ルゥはクロードに嫌なら一人で帰れ、と言っているのである。

 そうなってもルゥとキラは一向に構わないのだ。むしろルゥとしては、このまま静かにここで暮らすほうがキラにとっては幸福であろうと思っていた。

 人の世はひどく狭量で、キラが生きるにはいささかならず不便なのである。

 それでもルゥがキラを止めないのは、それがキラの意思であるからだ。もっとも、それとてキラが本当に傷つけられる前まで、ではあるのだが。


 ルゥの言葉に、クロードは目が覚めた心地がした。


「申し訳ありません。助力を乞うているのは、こちらだというのに…」


 自分のあまりの身勝手さに、クロードは恥いる思いだった。

 キラたちはそれまで我こそは、と申し出てきた者たちとは違う。

 王都に行くことだって元々キラは乗り気ではなかったのに、そこを無理を言って来てもらうのだ。

 キラは王子を救う最後の希望だ。そしてキラたちの身の安全と自由を保証すると、クロードは約束した。

 一度キラたちを信じると決めた以上、彼らに対する礼を失することはあってはならないのだ。

 ましてこのソリはクロードの体を慮って用意してくれたものである。

 頭を下げて謝罪をするクロードを見て、キラが軽く笑った。


「あんたはいい人だね、クロードさん」


 異質なものを見るような目つきは、キラにとってはひどく馴染みのあるものだ。

 そういう扱いをされるのに慣れていたし、今更腹が立つようなことでもない。

 けれど、クロードの愚直とも思える素直な行動にはどこか好感が持てた。

 自分の心を押し隠して眉ひとつ動かさないよりはよほど人間らしく、裏表がないのもはっきりとわかる。

 そういうクロードだからキラも心動かされたのかもしれない。

 もしクロードでない他の人間がキラを呼びに来たのだとしたら、今回の依頼も断っていたことだろう。


「キラ殿…」


「信じてもらえるってのは嬉しいもんだね。治せるかどうか保証はできないけど、王子の治療には全力を尽くすよ」


 感動で目を潤ませるクロードをちらりと見て、キラは一瞬噴き出しそうになるのを堪えて残りの荷物を固定する。

 作業を終え、パンパンと手を軽く払う。


「さて、それじゃ乗った乗った」


 キラに促される形で、全員がソリへと乗り込む。

 クロードはそれでもやっぱりおっかなびっくりといった感じで、狼たちから一番遠いソリのうしろの席に体を寄せてはいたが。

 ルゥはいつものごとく泰然自若として一番前の位置にいる。まあ狼ごとき、悪魔がおそれるはずもない。

 二人が乗ったことを確認したあと、最後に御者の席にキラが座る。


「ルゥ、さっきはありがと」


 乗り込みながら、かすめるような声でキラはルゥにそう言った。

 ルゥは一瞬目をみはり、そして前を向いて手綱を握るキラの頭をくしゃりと撫でた。

 その手の感触にキラは僅かに顔をほころばせ、ついで狼たちに出発の合図を送るのだった。

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