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始まりの終わりとその後の日常



 奇跡を起こすためには代償が必要だ。









 物事には始まりがあれば終わりがある。

 たとえその結末が、望まぬものであったとしても。




「どうするんだ?」


 聞きなれた声がして、自分が呆然としていたことに気づく。

 思っていた以上に自分はショックを受けているらしかった。


 床には痩せた男が血まみれで倒れている。

 先ほど自分が殺した相手だ。憎んでも憎みきれない相手。

 剣で一突き。それであっさりと死んでしまった。いっそ拍子抜けしたと言ってもいい。虚しささえ感じられない。


 男が死ぬ前に並べた、命乞いでさえない言い訳の羅列。

 それは所謂『真実』というやつを多分に含んでいた。ようやくわかった事の真相は、容赦なく残酷すぎる現実をつきつけてくる。


 黒幕を倒して、それですべてが解決すれば、どんなに良かっただろう。


 願いを叶えるために必要な力をつけた。知りたかった真実もわかった。

 けれど本当に望んだ結果だけは手に入らない。


「どうしようもないさ」


 一応、選択肢は存在している。けれど、選べないのだから仕方ない。

 それほど長い付き合いではないが、目の前の悪魔にはそのくらいお見通しだろう。



 悪魔は恐ろしく美しい姿をしている。

 輝く金の髪に透き通る緑の瞳。顔だけ見れば天使のようだが、背中にあるのはまぎれもない、悪魔の証たる漆黒の翼だ。

 強大な魔力を持ち、契約相手に絶大な力を与える。これほど早く真実にたどり着いたのには、この悪魔の働きによるところが大きい。


 しかし、悪魔との契約には代価が付き物だ。目的と引き換えにするもの無くば、契約は成り立たない。

 そして、直接尋ねてみたことは無いが、おそらく自分が契約した相手は悪魔の中でも相当上位な存在だろう。

 いったい何が要求されるのか。実のところ、いつもはぐらかされてばかりで、明確な答えを聞いたことは無かった。


「けりはついたから、おまえとの契約は一応完了ってことになるのかな」


 そう言って、浮遊している悪魔を見上げたが、悪魔は何を考えているのか良く分からない表情をしていた。

 策謀をめぐらすことは多くても喜怒哀楽ははっきり見せてくる相手だったので、こういうのはひどく珍しい。らしくなく遠慮でもしているのか。


「好きなもの、取っていっていいよ。あ~魂が好物なんだっけ?」


 確かそのような記述をどこかの本で読んだ気がする。なんでも絶望に染まった魂を好むとか。

 今の自分の状態が絶望というやつなのかは知らないが、これ以上別に望みもないので、今までの働きへの報酬として喰われてやってもいいという気分になっていた。


「…本当に、もういいんだな?」


「ああ」


 あ、でもできれば痛くしないでほしいなぁ、とは思う。痛みには強い性質だが、だからといって好き好んでいたぶられたくない。


「優しくしてね」


 などと茶目っけ混じりに言えば、悪魔は苦笑した。

 こういう表情は人間ぽい。


「ああ、優しくしてやるさ。大事なご主人様だからな」


 そう言って、悪魔は翼を広げた。


 視界が黒く染まる。

 そうして何もわからなくなった…
















 冒険に出る者というのは、何かしら追い求めるものがある。それは大抵財宝だったり、力であったり、真実だったりするのだろう。

 そうして得られたものが本当に自分にとって必要なものであったのかは、旅を終えてみなければわからない。

 そしてそれをどう使うかは、得た本人次第だ。


 その点、自分は有効に活用できている、とキラは自負している。

 キラもかつては冒険者と呼ばれる者だった。幾多の困難を乗り越え、失ったものもあったが、旅を通して得たものは大きい。

 たとえば…


「キラ。掃除の邪魔だ。そこをどけ」


 目の前にいる俗に超絶美形と呼ばれ、外にでたら女子にキャーキャー言われそうな男。間違いなく、彼こそ一番の収獲だったに違いない。

 容姿のみならずあらゆる家事に優れた、まさに一家に一人はほしい理想の人物。

 いや、正確には“人”物ではないが…


「おいキラ」


「うるさいなぁ。わかったよ。どけばいいんだろう、ルゥ」


 なかなか動こうとしないキラに業を煮やして、ルゥの声に凄味が増す。それを聞いてようやくキラは立ち上がった。

 いかにも渋々といった感じであったが、下手にルゥの機嫌を損ねると今日の食事が恐ろしいことになるのだ。

 が、自他共に認める面倒臭がりのキラだ。すぐに大して離れていないソファーにごろりと横になった。しかしルゥの方も慣れたもので、とりあえず床を綺麗にしようとそのまま掃除を続ける。




 悪魔って意外と家庭的なのだなぁ、とソファーで半分寝ぼけながらキラは思った。

 てっきり魂を取られるものだと思っていたのだが、気づいたら3食昼寝付きな生活が待っていた。

 しかもどうやら家事の魅力に嵌ったらしく、炊事洗濯はすべてこの悪魔がこなしている。

 特に料理が得意で、新作料理を作っているときなどは非常に楽しそうだ。おかげですっかり舌が肥えてしまって困る。


 どんな思惑があってのことなのか、あるいは単なる暇つぶしなのか。キラにはよくわからない。

 けれど…


(こんなのが悪魔の望んだ代価なら、悪くない)


 本格的に眠気が襲ってきた。

 起きた時には、部屋もきれいに片付き、悪魔が作ったおいしい料理が食卓に並んでいることだろう。


 夕飯はシチューだといいなぁと思いながらキラは目を閉じた。







 代価は悪魔と過ごす幸福な日常。

突然降ってきたネタです。

こんな感じなのがベースになります。

設定はたぶんシリアスですが、いかせるかどうか…

ちなみにわかりにくいでしょうが主人公は一応女です。

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