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短編

作者: まめ太

眠りについていると、ふと、なにやらの気配を感じたりする。

闇に目を凝らし、気配の正体を探ろうとするのだが、見えぬ。

どうしたものかとしばし考え、どうにもならぬから、目を閉じる。

するとまた、気配が気になりだす。


そうこうするうちに、気付く。

箱がある。

いや、これは普段から部屋の隅に積み上げられた空箱で、どうという事もない代物だ。

面倒で片付けるのを怠っていただけで、なんらの不審もありはしない。

ただ、その箱が妙に気になって仕方なくなってくる。

あれは、あのように、蓋が少し開いていたものだったか。

しっかりと閉めてあった気がするが、記憶は曖昧だ。

狭い室内にはこれといった荷物は入れておらず、布団から見えるのは箪笥とテレビだけだ。

枕の向こうに本棚があるが、首を回せばどうにか見えてこないこともない。

箱から目を離せずにいる今は、見ようという気も起きてこないのだが。


窓際、角に合わせて詰まれた空箱は四つ。

ふむ、四というのは不吉な数字だ、急にそれさえ気掛かりになる。

少し蓋が動いた気がしたが、たぶん、気のせいだろう。

窓は閉ざされており、風の悪戯と誤魔化す術はない。

月明かりがうっすらと箱を照らしており、僅かばかり開いた箱の上部は真の闇だ。

真の闇、そこからねっとりとした視線を感じる。

箱の隙間から、じっとこちらを覗いているような気がしてならぬ。

小さな箱には、おそらくは人の頭程度ならば収まるだろう。

ごろり、と転がる様を想像して、振り払う。それは、ない。

けれど視線は気にかかる。いや、それも気のせいなのだ、きっと。


箱の上部は不自然に開いていて、ほんの少しだけ闇が覗く。

薄く蒼い月の光は、この真の闇の底へは届かず、黒い影に何者かを隠す。

気配がする。

何者かの気配だけが、はっきりと。

それはただの思い過ごし、気の迷い、そう思うほどにねっとりと絡みつく。

何かが居る。

いや、居はしない。


カリカリと、音がした。微かに。

きっとゴキブリが出たのだ、箱の裏を這ったのだ。

虫が這う音がそこまではっきりと聞き取れるか否かは知りたくない。

またカリカリと、音がした。

パキン、と天井が鳴った。

上の階の物音が響いたのだ、よくあることだ。

箱の方向に、気配がある。そんな気がするだけで、定かではない。

気のせいだと思うし、思いたい。

それでも捉えられたように、気配に集中していく心を切り離せない。

見にゆけばいい、簡単なことだ。

布団から身を起こし、あの重ねられた箱の一番上を開けてみればいい。


明かりを点けた。

気配が消え、重苦しかった空気が軽くなる。

箱に近寄り、蓋を開けた。

中は、空だった。

当たり前だ、空箱なのは最初から解かっている。

自分で置いたのだから。

黒が視界の端にある、窓のガラスに映る黒だ。明かりを点けたことで出来たのだ。

真夜中のこと、窓の向こうが闇なのは解かりきったことだ。

けれど途端にこの窓が気に掛かって仕方なくなるのだ。

誰かの顔が闇夜に浮いているはずはない。

白い影がそこに立ち尽くしているはずはない。

けれど、見る気はしないから、布団へ戻る。


明かりを消せば、月の蒼い光が室内を染める。

気配が、また、戻ってくる。

箱の上部、微かに開いた蓋の隙間の真の闇も。

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