ガザリゾート開発
偉大なるアメリカのドラルト・トランブル大統領、念願のガザ地区のリゾート開発に取りかかった。しかし、イスラエルのパルパティーン首相はいつまで経っても停戦しようとしない。
何か良いアイデアは無いか。
するとロケット屋の大金持ちイーロン・マッサツが、日本のSFから「戦場観光」のアイデアを掘り出してきた。
登場人物
・ドナルト・トランブル 怒鳴るとトラブル。アメリカ合衆国大統領
暴言・迷言のオンパレード
・ピーター・ヘクセース ピーター・屁臭えっす。アメリカ合衆国戦争長官
・イーロン・マッサツ 日本語では「異論抹殺」。ロケット屋
日本マニアで昔のSFからお笑い芸人まで詳しい。
・J.D.ヴィラン アメリカ合衆国の副大統領
手柄はトランブルのもの、失敗の責任はヴィラン
・パルパティーン首相 イスラエル首相。フォースの暗黒面に堕ちた人ではありません
トランブルをそそのかしてイランを攻撃
・阿佐ヶ谷ICC所長 国際刑事裁判所の女裁判官。トランブルの制裁でクレジットカードが使えない
戦争犯罪を許さない
ドナルト・トランブル大統領は自分のアイデアが実現したことに大満足である。
イスラエルのパルパティーン首相がいつまで経っても停戦しようとしないので、ガザ地区のリゾート開発が頓挫するところだった。
「パルパティーンは人を不幸に陥れる疫病神だ(おっとどっこい、わしらは一神教だったな)」
「そそのかされてイランの指導者を皆殺しにしたのはいいが、泥沼にはまってしまった」
「このままでは中間選挙がヤバイ」
悩んでいたときにロケット屋のイーロン・マッサツが良いアイデアを持ち込んできた。こいつは意外なことに日本のカルチャーに詳しい。
「日本の小説家、筒井康隆の作品にベトナム戦争を観光対象にする短編があるよ。装甲車で本当の戦場を突っ切ってドンパチやっている中を観光するんだ。その作品で直木賞という文学賞の候補にもなったんだ。漫画家の松本零士の銀河鉄道999というマンガでも...」
それを聞いてトランブル大統領は「ザッツ・イット」とひらめいた。直木賞がなんだか知らんけど。
いつまで経っても戦争が終わらないなら、イスラエルとハマスの戦闘を観光するリゾートにすればいい。
いつものろくでもない思いつきであった。
ガザ地区の戦場観光の構想を発表したときは、中国やEUに加えてイギリス、調子に乗ってロシアまで非難してきやがった。もちろん拒否権を発動してやった。あいつらには関税を100%上輪のせしてやる。そういえば日本は「残念だ」と感想を述べただけだったな。日本の小説家と漫画家のアイデアを拝借したと電話したら、あの女も大喜びだった。日本は30%くらいで勘弁してやるか。
そして今、偉大なアメリカ国旗を掲げた特殊装甲車でトランブル一行はガザビーチ沿いを進んでいる。自爆ドローンや対戦車ミサイル程度ではびくともしない分厚い装甲に覆われている。イスラエルの上層部にはヴィラン副大統領が通知しているはずなので誤爆はありえない。
同乗者はピーター・ヘクセース国防長官もとい戦争長官と装甲車の運転手だけである。
「ヴィラン副大統領も連れてくればよかった」
「大統領と副大統領は同じ乗り物には乗れません」とヘクセース
「偉大なアメリカの装甲車に乗って死ぬことがあるもんか」
「いちおう決まりですから。J.D.ヴィラン副大統領はリモートでつながっています。ほら」
画面ではホワイトハウスで待機しているJ.D.ヴィランがニッコリ。
「こいつは笑っていても『悪い顔選手権』で優勝できそうだな」
「顔を見たら思い出した。おいヴィラン。ケネディ・センターの名前をトランブル・センターに変える件はどうした?」
「ああ。いえ、裁判所に執行停止の申し立てがあって係争中です」
「早くなんとかしろ。ケネディは第二次大戦中に日本イスラム共和国の船に爆沈され、無人島に漂流して英雄になったそうだが、無人島に漂流するやつなど英雄ではない。無人島に漂流したことが無い俺こそが英雄だ」
「日本はイスラム共和国じゃありません。私も無人島に流れ着いたことはないですけどね」
「うるさい。帰国するまでにケネディ・センターの名前を変えておくんだぞ」
トランブルが同乗者のヘクセースを見ると、人差し指の第1関節まで突っ込んで、すごい形相で鼻をほじっている。
トランブルはヘクセースが大嫌いである。ヘクセースは不潔なのである。屁もくさい。ヘクセースは日本に行ったとき大人気だったと喜んでいたが、日本に詳しいイーロン・マッサツによると名前を笑われただけだそうだ。
ヘクセースは、ばい菌を見たこと無いからと10年間一度も手を洗っていない。この間は鼻をほじった手で髪の毛をすいていたのをマスコミに突っ込まれていた。ざまあみろ。
トランブルは、ヘクセースが鼻をほじった指を壁にこすりつけたのを確認した。
「こいつのデスクの裏側を一度見てみたいもんだな」
「見たものしか信じないということは、神も信じていないんだろうな」
ヘクセースもトランブルのことは嫌いだった。何の取り柄も無い自分を国防長官もとい戦争長官に引き上げてくれたのだが、イランと事を起してからというもの怒鳴り散らして自分に当たるのである。核開発のことなどどうでもいいから早くイランと手打ちしろと毎日怒鳴られてうんざりしていた。
「しっかし、ガザビーチとかいっても何にも無いな。ホテルもレストランどころかヤシの木一本生えておらん」
「イスラエルとアメリカで更地にしてしまいましたからね。ほらミサイルの着弾の跡がたくさんあるでしょう。アリ地獄みたいにあちこちに空いている穴ですよ。戦場らしくていいじゃないですか」
「ミサイルの跡なんかどうでもいい。イベントが必要だな。男三人で女がいないというのがいかん。特別秘書官のネトリーでも連れてくれば良かった」
「おっ。あそこに難民がテントを張っているぞ。もう少し近寄ってくれ」
とトランブル大統領は運転手に指示する。ごっつい特殊装甲車が轟音を立てて近寄ってくるのにたまげたテントの難民がクモの子を散らすように逃げていく。
「わっはっはっ。これは面白い。次はあそこに突っ込め」トランブルは大喜び。
「イスラエルがさんざん殺しまくったのに、たくさん残っているな。イスラム教徒のデータベースを作ろうと言ったが、きりが無いからやめるか」
「おい。次はあそこだ。子供がたくさんいるぞ」
ヘクセースはうんざりして言う。
「やりすぎるとスマホで動画を撮られますよ。EUや中国が騒ぎます」
「スマホで撮っても、どこへも送れないだろう」
「NGOやNPOの施設にはwifiが通っていますよ」
「国際機関への資金拠出をやめたんだよな。まだ活動しているのか」
「個別の国や民間が活動していますよ。一番金を出しているのはアメリカの慈善団体です」
「おお。一番かっ。さすアメ。じゃない。帰国したら慈善団体の活動禁止の大統領令を出してやる」
「そんな無茶な」
トランプルは難民キャンプを蹴散らして喜んでいたが、そのうち
「いい加減飽きたな」
「難民を蹴散らすだけじゃ観光の目玉にならないな」
「そもそもパレスチナの難民しかおらん。イスラエル軍がいないと戦闘が起こらんではないか」
「したかないですよ。このところハマスも干上がっていますし」
「いっそのことハマスに武器援助をしてやるか」
「ナイスジョークですね」とヘクセース
「(本気だったんだけど)」とトランブル
トランブルはまた、とんでもないことを思いついた。
「スリルが足りん。ちょっと顔を出してみよう。上を開けろ」
「ちょっ。やめてください。狙撃されたらどうするんです」
「大丈夫だ、狙撃には慣れている」
「こら運転手。開けるんじゃ無い。やめてください。大統領」
すったもんだの挙げ句。とうとう装甲車の蓋を開けさせたトランブルは上半身を外へ出した。
周囲の難民が全員、装甲車の方を見ている。戦場に似合わない背広を着た金髪の老人が装甲車から出てきたのでビックリしている。誰だかは分かっていないようだった。
難民に注目されたので、トランブルは得意の絶頂になった。
そして十八番のトランブル・ダンスを始めてしまった。
さあ大変。トランブルがいると難民にばれてしまう。ヘクセースはトランブルの下半身にしがみつくと引きずり下ろそうとした。
「こらっ。鼻くそのついた手で俺に触るんじゃ無い」
「鼻くそどころじゃありません。アメリカの大統領が乗っているなんて知られたらどうすんです。今頃、ハマスに知らせているかも知れません」
「おっ。そいつはヤバいな」
トランブルも、あわてて装甲車の中に引っ込んだ。
「ほら。何にも無かっただろ。俺様は神に守られているんだ」
「これから何かが起こるんです。早く上陸艇のところまで戻りましょう」
ところが特殊装甲車は動こうとしない。
「難民が装甲車を取り囲んでいます」
難民と言っても、女と子供が大部分である。男は老人ばかりである。
幼子を抱いた母親が何組も、真っ直ぐな視線をこちらに向けて装甲車の周囲を取り囲んでいる。
「動かすと難民を轢いてしまいます」と運転手
「やっぱり大統領が乗っているとばれたようです」
「おい早く抜け出せ」とトランブル
「できません」と運転手
「難民なんか踏み潰せ」とトランブル
「そんな殺生な。取り囲んでいるのは武器も持たない女と子供ばかりです。私にはできません」
「お前は首だ。ヘクセース。運転を代われ」
ヘクセースが運転を代わるが
「うーん...。近くで顔も見える。子供がたくさんいるじゃないか」
ヘクセースも装甲車を動かすことができない。プレッシャーで汗がだらだらとしたたり落ちる。
そのうち、とんでもない刺激臭が漂ってくる。
「いかん。大量破壊兵器だ。おれの運命もここまでか」とトランブル
「大統領。私の屁は大量破壊兵器ではありません」刺激臭はヘクセースの屁であった
「私には女子供をひき殺すことはできましぇーん」と涙目のヘクセース
「戦争長官のくせに、お前も首だ」
もちろんトランブルも自分で運転して目の前にいる女子供をひき殺すことなどできない。トランブル・オールウェイズ・チキンズ・アウト。TACOである。
「このままじゃハマスがやってくる。ガソリンをまかれて焼かれたりしたら目も当てられない」
「そうだヴィラン。ガザビーチのあたりで私がハマスに襲われたとイスラエルのパルパティーン首相に連絡しろ」
「ままじじっっすすかか?」とヴィランとヘクセース。
「そんなことを知らせたら、ガザビーチに血の雨が降りますよ」
「戦争犯罪とかいって世界中が騒ぎます」
「問題無い。戦争犯罪かどうかを決めるのはアメリカだ」
「そういえば戦争犯罪を裁くとか偉そうにほざいていたICCの日本人所長。阿佐ヶ谷とかいったな。制裁対象にして追い詰めているところだ。今頃アマゾンで買い物ができずに困っているだろう。わっはっはっ」
「装甲車に流れ弾が当たったらどうするんです」
「大丈夫だ。この装甲車はイスラエルのひょろい戦車砲程度じゃびくともしない」
「偉大なアメリカのバンカーラスターくらいじゃないとな。バンカーラスターもほとんど在庫がなくなっちゃったけど」
「なるべく死者を出さないように言っておきますけどね」とJ.D.ヴィラン。
ホワイトハウスにいるヴィランもトランブル大統領のことが大きらいであった。手柄を立てればトランブルに横取りされ、トランブルが発生すれば責任を押しつけられる。こいつが死ねば自分が大統領になれるのに、しぶとく生き残りやがって。
「そういえばトランブルが視察しているなんてイスラエルには知らせていなかったな」
いつも適当に仕事をしているのでイスラエルにトランブルの視察を知らせ忘れていたことに思い当たった。
「いや、今さら大統領が視察しているなんでイスラエルに知らせたら大騒ぎになる」
「ばれたら今度こそ首かも知れない。何か大逆転できるアイデアはないか」
「うーん。よくよく考えれば、これは千載一遇のチャンスでは」
そしてパルパティーン首相に連絡した。
「米軍の装甲車がガザビーチ周辺で難民に奪われた。装甲車の座標を提供するので破壊して欲しい。頑丈な装甲車だが何発かミサイルをピンポイントで撃ち込めば破壊できるだろう」
筒井康隆の「ベトナム観光公社」や松本零士の「永久戦闘実験室」にインスパイアされていますが、内容は異なります。戦争を風刺したナンセンス小説となっています。
最初は残酷なシーンがありましたが、それを除いてR15制限を外しました。




