◆幕話 ユイト、ミリ、ライの初月給
商業区の店に入った瞬間、店主の目が、三人を上から下までなぞった。
「お子様だけでしたら、通り向こうの雑貨店の方がよろしいかと」
丁寧な声だった。
けれど、意味は分かる。
ここは、お前たちの来る場所ではない。
「これをお願いします」
ユイトは棚の前に立ち、差し出された勘定石へ手をかざす。
【支払い要求:1,500刻】
【決済完了】
店主の笑みが固まった。
「……失礼いたしました。ただいま、お包みします」
三人はようやく、客として数えられた。
◇
夕刻。
拠点に戻った三人の荷物を見て、レティシアは帳簿を開いた。
【購入品:保温布/茶葉/焼き菓子】
【支出:1,500刻】
「自分のために使うよう、申し上げたはずですが」
ユイトは背筋を伸ばした。
「これが、自分たちが一番欲しかったものです」
ミリとライも、うなずく。
「俺たちは、ずっと受け取る側でした。でも今は、自分たちの稼ぎで、エリセ先生や小さい子たちに温かいものを持っていけます」
ライが包みを抱え直す。
「菓子も、少しだけある」
ミリが小さく笑った。
「小さい子たち、喜ぶと思います」
レティシアは帳簿を見つめた。
それから、静かに閉じる。
「……わたくしも、初めてのお給金は、同じ使い方をしましたから」
それ以上は言わなかった。
◇
三人は包みを抱え、孤児院へ続く道を歩いた。
「あいつら、菓子を見たら絶対走ってくるぞ」
「転ぶ前に止めろよ、ライ」
「俺かよ」
孤児院の屋根が見える。
中庭から、子どもたちの声が聞こえた。
ミリが少しだけ足を速める。
ライも文句を言いながら、歩幅を合わせた。
ユイトは包みを抱え直す。
焼き菓子の箱は軽い。
保温布も、茶葉の缶も、たいした重さではない。
それでも、腕の中はずしりと重い。
ユイトは、口元が緩むのを止められなかった。
孤児院へ帰るのが、こんなに楽しみな日が来るなんて思わなかった。




