たまには被ってあげよう
「私も弓が欲しい!」
一通りジタバタして落ち着いたマリーの要望により、二人はマーケットで弓矢一式を探しています。最近の殺人熱もあって、武器や防具が多く並んでいますね。
「あっ見てサナダ! ご安全ヘルメット売ってる!」
「ホントだ、絵に描いたような工事ヘルメット」
二人が見つけたのは十字マークのあしらわれた黄色いヘルメット、被れば思わず右足を上げて「ヨシッ!」と言いたくなること請け合いの品です。
二人のリアクションが気に入ったのか、店主さんも商品について語り始めました。
「ふふふ、見事なイエローでしょ? この現場猫ヘルメット」
「やっぱ現場猫なんだ」
「うん、最近弓が流行ってるから。その対策にヘルメットが売れると思って作ってみたんだよ」
ヘッドショットを防ぐ観点でヘルメットは非常に合理的です、有名キャラクターに寄せるのもマーケティングとしては良い手段と言えましょう。
まあ悪い点もあるんですけど、というか致命的なんですけど。
「なんだけど……売れなくてね」
「えっ?」
「なんでぇ……?」
これほど欲しくなる見た目をしたヘルメットがなぜ売れないのか、イカすイエローカラーが店で埃を被っているその理由とは。
「ほら、目立つから」
「それは……うん」
「まあ、遠くからでも良く見える色ではあるね……」
さもありなん。
そもそも目立たせるためのデザインですからね、ダンジョンで被った日には遠くから狙い撃ちされること受け合いです。店主もそれは分かっているのか、どこか諦めたような顔をしています。
「あはは……人気にあやかろうとしたのは良いけど、本来の目的を見失ったんだ。本末転倒だね」
「グッズとしては満点なんですけどね」
「うんうん、良いデザインだよ」
その滑らかな流線形は飛んできた矢を受け流してくれること間違いなしの見事な出来栄えです。これが派手なイエローでなければ、もしくは工事現場での使用目的であれば売れまくったこと間違いなしなのですがね。
店主も渾身の作品が売れ残ることに悲しみを覚えているのか、なんとか二人に買い取ってもらおうと足掻いていますね。
「せっかくだし二人共買って行かない? オマケも付けるよ?」
「ほほう、オマケとな」
「イェスイェス、こちらをご覧ください」
そう言った店主は隣の箱から、灰色の三角形なサムシングを取り出したのです。モフモフとした表面と白の混じった配色、それはまごうことなき……
「ネコミミ?」
「ネコミミです」
「カチューシャですらない、単品のネコミミだ」
ネコミミでした。手のひらサイズの三角形なネコミミが二つ、店主の手の中にあります。そしてそれをヘルメットに空いてるいかにもな隙間に差し込めば、現場猫ヘルメット(猫耳付き)が完成したのです。
「こちらの現場猫コスプレセット、なんとお値段5000マス。如何?」
「うーんいいお値段」
「試着ってできます?」
「もちろん」
試着を希望したサナダに店主がヘルメットを被せました、中々似合ってて可愛いです。そしてサナダが間髪入れずにそれを脱いで、マリーの頭に被せたのです。
「…………」
「サナダ? なんで私に被せたの?」
サナダは黙ってマリーを見つめています。
「………………………………」
「サナダさん? なんでジーっと私を見ているの? せめて何か言って?」
猫耳のキュートなマリーちゃんに沈黙を咎められても、サナダは何も言いません。
「………………………………」
「んにゅあぁ……」
そうして沈黙に負けたマリーが気の抜けた鳴き声を上げたあたりで、ついにサナダが口を開きました。
「…………うん、最ッ高に可愛い」
「んにぃ?」
「店主さんこれください、今すぐにください」
「やったっ! お買い上げありがとう!」
どうやらあまりの可愛さにコメントが見つからなかったようです、猫耳美少女は最強ですから仕方ない。不良在庫の処理に成功した店主、マリーを合法的に猫耳化できたサナダ、いきなり絶賛されてフリーズしているマリー。見事に全方位が得をしている素晴らしい取引です。
「えっあっ、なに急に? マリーちゃんの美少女フェイスに今更気づいたの?」
「うん、マリーの美少女カワイイフェイスに猫耳が合わさって最高に可愛い。今のマリーは間違いなく世界一可愛い」
「ちょっまっ急に褒め殺されると心の準備がッ」
「うんうん、今日は来てよかった。猫耳マリーの可愛さだけで今日の収支は大幅プラスだ」
「あっあうぅぅ…………」
突然の褒め殺しにマリーちゃんは絶賛赤面中です。彼女がいつも美少女を自称しているのは半分ネタなので、ガチで美少女扱いされると予想外の事態にフリーズするんですよ。可愛いですね。
「よし、これはマリーにプレゼントする。良かったら是非また被って欲しい、可愛いから」
「あぅっあっちょっ、そっそうだ! 弓! 弓探さないと!! 行くよサナダ!!」
褒め殺しを脱するべく話を逸らしたマリーが、サナダの手をグイグイ引っ張って弓を探し始めます。褒め追撃を避けるため、ヘルメットはインベントリ送りにされてしまいました。
「もう仕舞っちゃうの? もっと被ってて欲しいなぁ」
「褒められ過ぎて死ぬわっ! 帰ったら好きなだけ被ってあげるから我慢して!!」
「はーい」
羞恥心から赤面して大股で歩くマリーちゃんですが、吊り上がった口角が隠せていません。なんだかんだ褒められまくって悪い気はしないのでしょう、どことなくご満悦な雰囲気です。




