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地味スキル【荷物持ち】と【逃げ足】による、現代ダンジョン物拾い生活  作者: 自爆霊


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ケーキを買おうとする話

※ロビー第2区画マーケット:万食道


 マーケットの一角には万食道と呼ばれるエリアがあります。食品を作るためのキッチンや陳列の為のショーケースが設置されている、料理販売専門のエリアですね。

 前回臨時収入を得た二人はケーキ屋を求め、ここを歩き回っています。


「マーケットでケーキが買えるなんて、良い時代になったものだよねー」

「デスマーチのダンジョン開拓には感謝だな」


 【デスマーチ】はダンジョンの開拓を主に行うギルドです、所謂トップギルドというヤツですね。ランダムダンジョンに何度も突入して良さげな場所を見つけ、それを共有し探索する。ロビーの発展における立役者の一つです。


「本当にね、まさか小麦の代用品が生えてるダンジョンを見つけるなんて思わなかったよ」

「ランダムダンジョンなんか10回潜って9回即死するような苦行なのに、よくやるよホント」


 当然のことですが、全ての異世界が人間に向いた環境をしているということはありません。多くのダンジョンは平均気温1000度みたいな極限環境が当たり前で、陸の無い氷海が「人間向きの優しい環境」扱いされるような地獄なのです。

 そんな中デスマーチのメンバーは驚異的な精神力と忍耐を以ってランダムダンジョンに潜り続け、死に続け、そしていくつもの便利なアイテムを発見してきました。


「クッキー屋にプリン屋、クッキー屋にクッキー屋にスコーン屋を挟んでまたクッキー屋…………」

「……クッキー多くない?」

「流行ってんのかなー」


 日本人の食への執念は凄まじく、現世の物を持ち込めないロビーですら多くの料理とお菓子が作られています。これらの原材料は全てダンジョンで発見され、回収された物が使われているのです。


 ロビーが解放されてから数々のアイテムが発見されてきましたが、中でも小麦の代用品である【中麦】の発見は大きな転換点でした。

 敵性生物や致命的な環境要因の存在しない難易度0ダンジョン【中麦畑】が発見されたことにより、ロビーの住人たちは事実上無限の食道楽を獲得したのです。無尽蔵に収穫・製造できる中麦粉によって現世に帰らずとも食の喜びを得ることが可能となり、ロビーに永住する人口は大幅に増加しました。


「おうともよ、クリッケストって探索者が安く作れるロビー用クッキーのレシピを公表してねぇ。それをベースに改造して、自分の味をプラスしたクッキーを作るのが大流行しているのさ。まさに世は【大クッキー時代】ってワケさね」


 きっと二人に突如話しかけてきたこの老婆も、そうした恩恵に預かっている者の一人なのでしょう。


「なるほどねー、ところでアナタは一体誰? 私はかわいいマリーちゃんだけど」

「アタシの名はマリリー、気軽に「マリ婆」と呼んでおくれ」

「はじめましてマリ婆、サナダです」


 何の前触れも無く話しかけてきたマリ婆の言う通り、現在の万食道ではクッキー販売が大流行しています。というのも、ロビーの食材は現世の食材と微妙に性質が違うので、美味しく調理するには専用のレシピが必要なのです。

 そして「まあ代用品にしては美味しいよね」くらいのクッキーしか作れなかったところに現世と同等の味を作れるレシピが現れたのですから、それはもう祭りです。クッキーフェスティバルです。ケーキ屋もクッキー焼いてます。


「ねえマリ婆、私たちケーキを買いに来たんだけど……もしかしてタイミング悪い?」

「まあそうさね、というか新レシピがマジで美味しいから嬢ちゃんたちも食べてみた方が良いわよ。感動するわよ」

「そんなに? 品種改良しまくった現世小麦に野生のロビー中麦が勝てるとは思えないんですケド」


 今までロビーの常識では「ダンジョン産の食べ物が人間向けのワケがない」と考えられていました。もしこれが覆されたのであれば、ロビーはまた一歩理想の世界に近づきます。


「俺は気になるなー。せっかく勧められたんだし試しに買ってみようよマリー、これも縁だ」

「まあそれもそうだね、マリ婆は何かオススメの店とかある?」

「よくぞ聞いてくれたわよ! イチオシの店があるから案内したげるわ、ついてらっしゃい!!」


 マリ婆に連れられて、二人が万食道をグイグイと進んでいきます。ちなみにロビーで知らない人がヌルっと会話に混ざってくるのはよくある事です。SNSで知らないアカウントがリプしてくることくらいよくある事です。なので二人も一々ツッコんだりはしません、スマートに自己紹介をしてそのまま会話を続行することこそが、探索者の嗜みなのです。

 三人は中心部を抜けて、隅っこの方に向かっていきます。このあたりは人通りが少なく、店を開いている人もあまりいません。


「マリ婆ー? ホントにこっちであってるの?」

「本当よマリーちゃん、このマリ婆を信じて強い心でついてらっしゃい」

「流石にこんだけ自信満々なら大丈夫でしょ、マリ婆を信じようマリー…………紛らわしいな」


 ホントにね。ロビーでの名前は自由に決められますから、似ている名前など山ほどあります。日本語ネームでもサイトウやサイトゥスにマサイト、サイートなどキリがありません。


「何を言うのよサナダ君、このマリ婆ことマリリーと可愛い可愛いマリーちゃんのマリリー&マリーのマリマリコンビのどこがややこしいのかしら」

「そうだよサナダ、ちょっとマリマリカワイイマリーちゃんとマリリッと威厳のあるマリ婆がマリマリしているだけで、何を紛らわしいなんて大げさな」

「やめろやめろ! マリがゲシュタルト崩壊する!」

「マーリッリッリ! サナダをからかうのは楽しいマリねぇ!」

「マリリリリー! 若人で遊ぶのは気分が良いマリ!」

「あ"ぁ"ーーーっ!」


 そうして二人がサナダで遊んでいると、ついに目的の店にたどり着きました。女子高生くらいの容姿なのに妙に風格のあるシェフ服の店主は、一見さんお断り的な近寄りがたさを感じさせます。


「着いたわよ、ここが私イチオシのクッキー屋、【クリッカー】さね」

「……………………」

「名前的に……もしかして、この人がクリッケストさん?」

「……………………」


 クリッケストらしき店主は一言も喋らず、じっとマリ婆に視線を向けています。


「……………………」

「えっと、はじめまして、サナダです」

「……………………」

「マリーちゃんでーす、はじめましてー!」


 店主は何も言いません。そして二人も、静かに店主の言葉を待ちます。あと何故かマリ婆も黙っています。

 沈黙が続き一分ほど経ったタイミングで、店主がサナダとマリーをチラッと見ました。そして小さな声で……



「…………その、あの……いらっしゃいませ……」



 とだけ言って、また沈黙しました。


「…………まあアンタにしては良くやったでしょう! 特別に及第点をあげるわクリッケスト!」

「あー……もしかして、そういう?」

「そうよマリーちゃん、この子はシャイだから人と話すのが苦手なの! だから人が来ないよう、こんな隅っこで店をやってるワケさね!」


 クリッケスト、まさかのコミュ障。


「そういうことでしたか。ではクリッケストさん、クッキーを一袋くださいな」

「……えっと、はい、どうぞ」


 初見の威圧感に反して、アッサリとクッキーの購入は成功しました。目にかけてる少女が商売の第一歩を踏み出して、マリ婆も嬉しそうです。


「やったわねクリッケスト! 作ったお菓子が売れた以上、これであなたも職人デビューよ!」

「…………はいっ! 嬉しい、です」

「二人も気に入ったら時々買いに来てちょうだいな、この子はいつもここ使って店やってるから」

「はーい、座標メモしとくねー」

「レシピ開発者のクッキーか、めっちゃ楽しみだ」


 こうして初志不貫徹のショッピングは新しい名店を知る大成功に終わりました。衝動買いと予定変更はショッピングの華、ロビー生活の醍醐味が一つです。

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