表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/85

第六十八話:雪解けの涙と、新たな誓い


「ルークス……!マキナの、様子が……!」


母さんの悲痛な声に導かれ、俺は家へと駆け戻った。そして見たのは、今にも消え入りそうな妹の姿。あの瞬間、俺の心は確かに、一度死んだ。後輩を失ったあの日の絶望が、現実の刃となって再び俺を貫いたのだ。


だが、奇跡は起きた。

父さんが森の奥深くで見つけ出した、あの不思議な『清涼樹』の葉。そして、俺が前世の記憶の片隅から手繰り寄せた、灰に潜む毒の特定と、『炭』による浄化の知恵。スキルに頼らず、己の五感と知識、そして仲間たちの助けだけを頼りに紡いだ反撃策が、悪魔の仕掛けた時限爆弾の進行を、確かに食い止めたのだ。


マキナの枕元に置かれた炭袋が、部屋に漂う見えざる毒を吸着し、母さんが心を込めて煮出した清涼樹のお茶が、彼女の小さな体に蓄積された毒素を、ゆっくりと洗い流していく。


翌朝。俺が不安な気持ちでマキナの寝床を覗き込むと、信じられない光景が広がっていた。


「……にい……ちゃん……?」


か細いながらも、昨日とは比べ物にならないほどはっきりとした声。マキナが、熱に浮かされた瞳ではなく、確かに俺の姿を捉えて、うっすらと微笑んでいたのだ。


「マキナ……!分かるのか!?」

「うん……。のど、かわいた……」


その、あまりにも普通の、子供らしい要求。それが、どれほど奇跡的な言葉であるか。俺は、込み上げてくる熱いものをこらえきれず、何度も、何度も頷いた。


「ああ、今、水を持ってくるからな!」


俺が慌てて水差しに手を伸ばすと、背後で、母さんの嗚咽が聞こえた。彼女は、マキナの手を握りしめ、ただただ「良かった……良かった……」と、涙を流し続けていた。


その涙は、伝染した。父さんも、駆けつけたハンスさんも、そして、いつの間にか部屋の入り口に立っていたギデオンさえも、その目には、安堵と、そして静かな感動の色が浮かんでいた。



マキナの回復は、この村全体の夜明けを告げる狼煙のろしとなった。

灰の除去と、清涼樹のお茶。その二つの対策は、劇的な効果を発揮した。


高熱にうなされていた老人たちの咳が和らぎ、食欲を取り戻し始めた。ぐったりとしていた子供たちの顔に、少しずつ血の気が戻り、部屋の中に、か細いながらも笑顔が灯り始めた。


村の空気は、一変した。数日前まで、互いを疑い、呪いの言葉を吐き合っていたのが嘘のように、人々は互いを気遣い、助け合い始めた。


「うちの爺様、マーサさんのくれたお茶のおかげで、久しぶりに粥を口にしただよ!」

「あんたの所の炭袋、まだ足りるかい?うちの分、少し分けるだよ」


母さんが配った炭袋。マーサさんが中心となって煮出し、分け与えられた清涼樹のお茶。そして何より、俺がもたらした『原因の特定』という確かな光が、人々を再び一つに結びつけたのだ。


その変化は、ゲルトの家にも、静かに訪れていた。

俺が、おそるおずるといった様子で家の戸口に立つと、ゲルトの母親が、憔悴しょうすいしきってはいたが、以前のような憎悪の色はない、穏やかな目で俺を迎えた。


「……爺様の熱が、少しだけ引いたよ。あんたの言う通り、灰を全部捨てて、炭の袋を置いたらね……」


彼女は、ぽつり、ぽつりと語り始めた。俺への疑念。救世主への裏切られたという思い。そして、目の前で衰弱していく義父への、どうしようもない無力感。


「……すまなかったね。あんたに、酷いことを言っちまって」


彼女は、そう言うと、深く、深く頭を下げた。俺は、何も言えずに、ただ、そのこうべが上げられるのを待った。彼女もまた、この悲劇の被害者なのだから。


その日の午後。

村の入り口の大樹に打ち付けられていた、あの忌わしい『呪いの看板』が、いつの間にか、跡形もなく消え去っていた。誰がやったのかは分からない。だが、村人たちの心が、再び俺を信じ始めた、何よりの証だった。


――ピロン♪

俺の脳内に、久しぶりに、あの心地よい電子音が響いた。

【称号『リーフ村の救世主』の効果により、村全体からの極めて強い信頼回復を検知しました。集団的な安堵と感謝が連鎖し、ボーナスが付与されます。合計で、1,500ポイントを獲得しました。】


【現在の所持ポイント:2,624 pt】


(……千五百ポイント……)

それは、俺が最初に『救急セット』を手に入れた時と同じ数字だった。だが、今の俺にとって、その数字の意味は、全く違って感じられた。これは、俺が失いかけた絆を、再び繋ぎ止め、$1,124$ptという、スキル『識別』すら使えない限られた手札の中で、己の知識と仲間を信じて勝ち取った証。金では決して買えない、信頼の価値だった。



村が、ゆっくりと、しかし確実に日常を取り戻していく中で、俺の心には、新たな決意が固まりつつあった。


「……ルークス。お前は、どうするつもりだ」


その夜、家の囲炉裏の前で、父さんが静かに尋ねてきた。その目は、息子を案じる父親のものであり、同時に、一人の男として、俺の覚悟を問うものでもあった。


俺は、燃える炎を見つめながら、静かに答えた。


「……ランドールへ、戻ります」

「そうか……」


父さんは、それ以上何も聞かなかった。ただ、俺の決意を、静かに受け止めてくれた。


「母さんには、俺から話しておく。……だが、無理はするな。お前の帰る場所は、いつでもここにある」

「……うん。ありがとう、父さん」


俺は、ランドールへ戻らなければならない。

今回の事件の黒幕、ジルヴァ。彼の悪意は、まだ終わっていない。故郷を狙った今回の攻撃は、おそらく、これから始まるであろう、もっと大きな戦いの、ほんの序章に過ぎない。俺は、彼を止めなければならない。俺が手に入れたこの平穏を、そして、ランドールで芽生え始めた新たな希望を、守り抜くために。


そして、もう一つ。

ゲルト。

彼が、ジルヴァの甘言に乗せられ、この事件に関わってしまった可能性は、否定できない。だとしても、俺は彼を見捨てるわけにはいかなかった。かつての自分と同じように、道を見失い、もがいている彼を、俺は放ってはおけない。


俺は、ギデオンの元へと向かった。彼は、村の外れで、愛馬の手入れをしながら、静かに星空を見上げていた。


「ギデオンさん。準備ができました。明日、ランドールへ戻りましょう」

「……承知した」


彼は、短く答えると、俺の目をじっと見つめた。


「……良い顔になったな、ルークス。三日前とは、別人のようだ」


その、初めて向けられた、明確な賞賛の言葉。俺は、少しだけ照れくさそうに、しかし力強く頷いた。


「はい。守るべきものが、また増えましたから」


俺は、リーフ村の、星が降るような夜空を見上げた。遠いランドールの空の下でも、きっと同じ星が輝いている。エレナ様、ゴードンさん、オーギュスト師匠、トーマスさん……。俺を待つ、新しい仲間たちの顔が、次々と浮かんでくる。


俺の戦いは、まだ終わらない。

故郷と、新しい仲間たち。その両方を守るために。

俺は、もう一度、あの城壁の街へと、帰るのだ。


夜明けと共に、俺とギデオンは、再び黒い疾風となって、南へと駆けた。

見送りに来た村人たちの、「ありがとう!」「気をつけてな!」という温かい声援を背に受けながら。

その喧騒の中、ゲルトの母親が戸口からこちらを見つめ、何かを祈るように唇を動かしているのが、俺の目には見えた気がした。


俺は、振り返らなかった。ただ、胸に宿る決意の炎を、静かに燃え上がらせながら。

俺のスローライフを取り戻すための、本当の戦いが、今、始まる。


【読者へのメッセージ】

第六十八話、お読みいただきありがとうございました!

ついに村の危機を乗り越え、再び絆を取り戻したルークスと村人たち。そして、新たな決意を胸に、ランドールへと戻る彼の姿。この再生と旅立ちの物語を、楽しんでいただけましたでしょうか。スキルに頼らず困難を乗り越えた彼の成長を感じていただければ幸いです。

「マキナ、回復してよかった!」「村人たちとの和解に涙…」「ギデオンの言葉、熱い!」など、皆さんの感想や応援が、ルークスの次なる戦いへの、何よりの力となります。下の評価(☆)やブックマークも、ぜひよろしくお願いいたします!

故郷の危機を乗り越え、精神的にも成長したルークス。彼がランドールに戻った時、街は、そして仲間たちは、どうなっているのか。そして、潜む影との対決は…?物語は、再び辺境伯領の中心へと舞台を移し、加速していきます。次回も、どうぞお見逃しなく!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ