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ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


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第二十六話:初めての街道と、騎士の背中

リーフ村の、そして俺の愛する家族の姿が、雪に覆われた丘の向こうに見えなくなってから、どれくらいの時が経っただろうか。


俺は、鎧の騎士が操る軍馬の前にちょこんと座り、マーサさんがくれた温かい外套に身を包みながら、生まれて初めて見る「村の外の世界」を、ただ黙って見つめていた。


ガタン、ゴトン、と馬が雪を踏みしめる規則正しいリズムと、俺の背中に伝わる騎士の体温だけが、この旅が夢ではないことを教えてくれる。腕の中では、俺と同じように外套にくるまったフェンが、不安げに、しかし信頼しきった様子で、小さな寝息を立てていた。


道は、道と呼ぶにはあまりに心もとない、獣道と大差ないものだった。両脇には、雪を被った針葉樹が、まるで世界の果てまで続いているかのように、延々と立ち並んでいる。時折、木々の間を雪ウサギが駆け抜けたり、遠くで狼の遠吠えが聞こえたりする。その度に、フェンの耳がぴくりと動き、俺は彼の小さな体を、さらに強く抱きしめた。


(……これが、村の外)


すべてが、目新しく、そしてどこか非現実的な光景だった。前世で、車窓から眺めた、整備された高速道路や、どこまでも続く田園風景とは全く違う。ここにあるのは、人の手がほとんど入っていない、剥き出しの、厳しい自然そのものだ。


同行する騎士は、驚くほど寡黙だった。彼が口を開くのは、「右に寄れ」「枝に気をつけろ」といった、必要最低限の指示の時だけ。俺がいくつか質問を投げかけてみても、返ってくるのは「……」「そうか」といった、単語にも満たない相槌ばかり。その背中は、まるで鉄の壁のように、一切の感情を窺わせなかった。


日が傾き始め、空が茜色に染まる頃、騎士は手綱を引き、馬を止めた。


「今夜は、ここで野営する」


そこは、風を避けられる、少し開けた岩陰だった。騎士は、手際よく馬から荷を降ろすと、慣れた手つきで焚き火の準備を始めた。俺も、何か手伝おうと薪を集めようとしたが、「子供はじっとしていろ。それが仕事だ」と、低い声で制されてしまった。


やがて、ぱちぱちと音を立てて、温かい炎が立ち上る。オレンジ色の光が、俺と騎士の、そしてフェンの顔を照らし出した。


夕食は、母さんが持たせてくれた保存用のパンと、ゲルトがくれた干し肉だ。炎で軽く炙った干し肉を齧ると、凝縮された肉の旨味と、燻製の香りが口の中に広がる。不器用な彼の顔を思い出し、俺は思わず、ふっと笑みを漏らした。


騎士は、俺の表情の変化に気づいたようだったが、何も言わずに、ただ黙々と自分の分の食事を口に運んでいる。


「……あの」


俺は、意を決して、彼に話しかけた。


「どうして、辺境伯様は、僕を?」


騎士は、咀嚼する動きを止め、炎に照らされた厳しい目で、じっと俺を見た。その視線は、まるで俺の心の奥底まで見透かそうとしているかのように、鋭い。


「……それは、お前自身が、辺境伯様の前で直接確かめることだ」

「でも……」

「俺の役目は、お前を無事に辺境伯様のもとへ届けること。それ以上でも、それ以下でもない」


その、取りつく島もない返事に、俺はそれ以上、言葉を続けることができなかった。



夜が、深くなる。


騎士は、俺とフェンを火に一番近い場所に寝かせると、自らは少し離れた場所に座り、剣を膝に置いて、見張りを始めた。その姿は、闇に溶け込む石像のように、微動だにしなかった。


俺は、マーサさんの外套にくるまりながらも、なかなか寝付けずにいた。慣れない環境と、明日への不安。そして何より、一人でこの厳しい夜を乗り越えなければならないという、心細さ。


(……父さん、母さん……)


懐で、父さんが作ってくれた木彫りのフェンを、強く握りしめる。その、木の温もりだけが、俺の心の支えだった。


(フェンがギデオンの足元で眠ってしまった場面)

騎士は、そんなフェンを、困惑した表情で見下ろしていた。


「……変わった、獣だな」


ぽつりと、彼が呟いた。それは、俺がこの旅で、初めて聞いた、彼の感情のこもった言葉だった。

**(なぜだ…?あんなに警戒していたのに。ギデオンさんの、俺を守ろうとする強い意志…あるいは、騎士としての揺るぎない忠誠心のようなものに、この子は何か特別な安心感を覚えているとでもいうのか…?それとも、ただ単に、焚き火のそばで番をしている一番強そうなやつの近くが安全だと、本能で理解しただけか…?)俺は、まだ理解できない相棒の行動に首を傾げながらも、その意外な光景に少しだけ心が和むのを感じた。**


その夜、俺は不思議と、ぐっすりと眠ることができた。


騎士は、そんなフェンを、困惑した表情で見下ろしていた。


「……変わった、獣だな」


ぽつりと、彼が呟いた。それは、俺がこの旅で、初めて聞いた、彼の感情のこもった言葉だった。


その夜、俺は不思議と、ぐっすりと眠ることができた。鉄壁のように見えた騎士の背中に、ほんの少しだけ、人間らしい温かみを感じたからかもしれない。



旅は、三日続いた。


寡黙な騎士と、人懐っこいフェン、そして俺。奇妙な三人の旅は、やがて終わりを告げる。


三日目の昼過ぎ。雪に覆われた丘を越えた、その時だった。


「……!」


俺は、目の前に広がった光景に、言葉を失った。


地平線の彼方まで、巨大な城壁が、どこまでも続いている。その城壁に守られるようにして、数えきれないほどの家々の屋根が、ひしめき合っていた。石畳の道、レンガ造りの建物、そして、街の中心に聳え立つ、荘厳な城。


辺境伯の治める街、ランドール。


それは、リーフ村という、世界の全てしか知らなかった俺にとって、あまりにも巨大で、圧倒的な光景だった。


「……着いたぞ」


騎士が、静かに言った。


「ここからが、お前の戦場だ、ルークス・グルト」


その言葉は、まるで俺の覚悟を試すかのように、冬の乾いた風に乗って、俺の耳に届いた。


俺は、腕の中のフェンを抱きしめ、懐の木彫りを握りしめる。


そうだ。これは、戦いだ。


俺の、そして俺が愛する全てのスローライフを取り戻すための、戦いが、今、始まる。


---

【読者へのメッセージ】

第二十六話、お読みいただきありがとうございました!

静かな、しかし期待感に満ちた旅路を経て、ついにルークスは新たな舞台へと到着しました。村の外の厳しさと、辺境伯の街ランドールの壮大さ。そして、寡黙な騎士との静かな交流が、皆さんの心に何かを残せていれば幸いです。

「騎士さん、意外といい人?」「フェン、グッジョブ!」「いよいよ街に入るのか!」など、皆さんの感想や応援が、ルークスが城壁の中へ踏み出すための一歩となります。下の評価(☆)やブックマークも、ぜひよろしくお願いいたします!

ついに巨大な城壁の街、ランドールへ到着したルークス。彼を待ち受けるのは、辺境伯との会見、そして未知の社会。彼の『戦い』が、ここから始まります。次回、どうぞお見逃しなく!

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