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ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


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第百七十一話:市場(マーケット)の落とし子、あるいは「ゴミ」の真価


 王都エストリアの中央市場。そこは、王国のあらゆる富と欲望、そして数万人の生活の残り香が、生臭い熱気と共に巨大な渦を巻く「世界の胃袋」だった。

 迷宮のように入り組んだ石造りの回廊には、北の連峰から届いた氷詰めの魚介、南の湿帯で採れた極彩色の果実、さらには出所不明の古びた魔導具までが所狭しと並べられている。売り子たちの野太い怒声と客たちの値切る声が、まるで物理的な圧力となって鼓膜を震わせた。


「フェン、絶対に離れるなよ。この人混みで魔獣の正体を現されたら、ポイントを稼ぐ前に俺の平穏な農民生活が強制終了だ」

「分かっておる。……だが主よ、この街の連中は全員鼻が詰まっているのか? 芳醇な魔力の匂いがする極上の素材が、あちこちで腐りかけの生ゴミと一緒に放置されておるぞ。我慢ならん」


 俺の足元で、ただの黒い小犬――「愛嬌のあるペット」を完璧に装っているフェンが、不機嫌そうに喉を鳴らした。

 俺――ルークス・グルトは、十歳の少年に相応しい好奇心に満ちた瞳を演じつつ、その裏側では、前世のブラック企業で鍛え上げた「分析官」の意識をフル稼働させていた。


【スキル:鑑定 Lv.1 連続稼働】

【対象:市場全域の陳列物および廃棄物】

【警告:処理情報量が推奨上限を突破。フィルタリング設定を『ポイント変換効率20%以上』かつ『市場評価額:銅貨100枚以下』に再設定……完了】


 右目の奥が、熱を帯びるように青白く閃光を発した。

 次の瞬間、色彩豊かな市場の風景は、俺の視界の中で無機質な「価値の数値」へと書き換えられた。

 多くの人々が群がり、法外な値がついている『霜降り肉』や『古代王国の装飾品』。それらは既に価値が公知されており、ポイント変換効率は基本の5%、良くて手数料を引かれて微増する程度だ。そんな「分かりやすいお宝」に用はない。


(……俺が求めているのは、システム上の穴。つまり、この世界の人間が価値を見落としている『隠された高還元案件』だ)


 回廊の最果て、日当たりが悪く、腐った野菜の端材や魚の内臓が放り込まれた廃棄場から、鼻を突く悪臭が漂ってくるエリア。そのすぐ隣に、店主が酒臭い息を吐きながら居眠りをしている、薄汚れた露店があった。

 並べられているのは、泥にまみれた歪な形の「木の根」や、ただの「石ころ」にしか見えないガラクタばかり。


「坊主、冷やかしか……? 運が良ければ薬草の代わりになるかもしれねえゴミ山だ。一つ銅貨三枚、三つで銅貨八枚で持っていきな……グゥ」

 店主が重い瞼を僅かに開き、面倒そうに告げて再び微睡まどろみに沈む。

 だが、俺の鑑定視界では、そのゴミ山の中の一つが、周囲を塗り潰すほどの黄金色の輝きを放っていた。


【対象:枯死した『世界樹の髭根(残滓)』】

【市場価値:測定不能(ただの燃料用木屑扱い)】

【ポイント換算評価:基本レート5.0% + 王都魔導士ギルドにおける潜在需要上乗せ1450.0%】

【期待獲得ポイント:15,000 pt(購入価格:銅貨3枚に対し)】


(――ビンゴだ。これこそが、ブラック企業時代に深夜のポイントサイトを網羅して見つけ出した『バグ同然の高効率タスク』の感覚だ!)


 心臓が早鐘を打つのを、冷徹な理性が一瞬で制圧する。

 ただの枯れ木の根にしか見えないそれは、数千年前の聖域から地下水脈を通じて流れ着いた、極めて純度の高い魔導触媒の残滓。王都の誇り高い魔導士たちが生涯に一度拝めるかどうかという代物だが、この世界の「鑑定魔法」は手順が煩雑で、石ころ一つを鑑定するのに金貨一枚分の触媒が必要だ。

 結果、誰もその真価に気づかず、この薄汚れた露店でゴミとして転がっている。


「おじさん。これと、あそこの少し綺麗な石、それからこの萎びた草……全部で銅貨十枚でどうですか? 自由研究の材料にしたいんだ」

「……けっ、物好きだ。持ってけ、小僧」


 取引成立。

 俺が汚れた布越しにその「髭根」を掴んだ瞬間、脳内のシステムログが過去最大級の快音を鳴らした。

【隠された逸品ロスト・アイテムを発見。称号ボーナス:『価値の再定義者』獲得。……保有ポイント:41,750pt → 56,750pt】


(一瞬で一万五千ポイント……。リーフ村の荒れ地を一年かけて耕すよりも遥かに効率が良い。……だが、これが王都の、そしてこの世界の残酷な真実でもある。知識を持つ者と持たざる者の間で、これほどまでの『搾取』が平然と行われているんだ)


 ふと、先ほど目にした路地裏の子供たちの虚ろな瞳が、前世で救えなかった後輩の顔と重なって浮かび上がる。

 この一万五千ポイントがあれば、彼らに数年分の温かい食事を提供できる。だが、今ここで無秩序な施しをすれば、それは「影」を呼び寄せ、俺の平穏を、そして彼らの命を余計に危険にさらす。

 俺は「髭根」を収納魔法の深奥に放り込み、フェンの頭を撫でて自分を落ち着かせた。


「フェン、次は食料だ。さっきお前が言っていた『芳醇な魔力の匂い』、そっちに案内してくれ」

「ふむ、あちらだ。……だが主よ、警戒せよ。そこには『嫌な匂い』も混じっておる。欲望に脂ぎり、他人の不幸を糧にする……お主が嫌う、ジルヴァのような種類の奴らだ」


 フェンの念話による警告に、俺の背筋に冷たいものが走った。

 導かれた先は、高級食材エリアの裏手にある荷揚げ場。そこには、大量の「貝殻」が山のように積み上げられていた。王都のグルメな貴族たちは、中の身だけを珍重し、殻を「道に敷く砂利」として廃棄しているのだ。

 だが、その貝殻の山――『アビス・パールの母貝』の隙間から、独特の虹色の光彩が漏れ出していた。


「……あり得ない。人魚族の深海域でしか獲れないはずの、アビス・ハートの欠片が、なぜ王都のゴミ捨て場に……?」


 その時だった。

「おやおや。そんなゴミの山を熱心に眺めて、君は随分と……そう、独創的な『趣味』をお持ちのようだね」


 背後からかけられた、絹のように滑らかで、氷のように底冷えする声。

 振り返ると、そこには銀髪を完璧なまでに整え、穏やかな――だが瞳の奥が絶対零度の冷徹さを湛えた青年が立っていた。


 ――ジルヴァ。

 設定資料集において、俺と対極の思想を持つ「もう一人の転生者」として定義された、最悪の略奪者。

 王都編の「影」の正体が、想定よりも遥かに早く、俺の目の前にその姿を現した。


(……クソ。拠点を整えた直後に接触してくるとはな。だが、向こうはまだ俺を『運良くお宝を拾っただけの平民の子供』だと思っているはずだ。ここは、徹底的に『農民の子供』を演じ切るしかない)


 俺は、ポイント亡者としての冷徹な分析スイッチを切らずに、表面上の表情だけを「キラキラした貝殻を見つけて喜んでいる無邪気な少年」へと切り替えた。

 心拍数を抑え、瞳孔の開きを調整する。


「あ、こんにちは! お兄さんもこれ、探しに来たの? この貝殻、太陽に当てるとすっごく綺麗なんだよ! 妹にお土産にしようと思って!」


 ジルヴァの細められた瞳が、俺の表情を、そして背後で威嚇寸前のフェンを、執拗に値踏みするように舐め回す。

 王都の中央市場。白日の下で行われる、ポイント亡者と略奪者の初接触。

 俺の「鑑定」が捉えた彼の市場価値は、測定不能――あるいは「世界を破滅させる不協和音」として、赤黒く点滅していた。


---



【読者へのメッセージ】

第百七十一話(真・完全版)をお読みいただき、ありがとうございます!

ゴミの中から一万五千ポイントを掠め取るルークスの「亡者っぷり」と、その裏にある悲しい過去。そしてジルヴァという「もう一人の転生者」が放つ異質な威圧感。

次回、ルークス vs ジルヴァ! 果たしてルークスはこの「略奪者」の追及を、子供のフリでかわし切ることができるのか。

「一万五千ポイントの快感、たまらない!」「ジルヴァとの対峙が怖すぎる……」という方は、ぜひ評価やブックマークで応援をよろしくお願いいたします!

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