6 旅立ちの朝に
「あー......あと十年かぁ.....」
翌朝。洞窟に差し込む朝日で、リヒトは目を覚ました。
昨日は勢いのまま『不死鳥の加護』を与えてしまったが、一晩超えて若干の賢者モードだ。
「う......ん、むにゃ......」
隣で眠るルナが寝返りを打ち、寝言を漏らす。
無邪気な寝顔を見ていると、不思議と「まあ、間違いでもなかったか」と思えてくる。
「......ヒマ、ガミ......パン......くれ......」
「............やっぱ間違いだった」
リヒトは頭をかきながら、深々とため息をついた。
「あれ......いつのまに......べっどに」
目をこすりながらルナも目を覚ます。
「昨日お前を俺が運んだんだよ。てか、これをベッドって呼んでるのか?」
「......ありがと......でも、きのうわたし、しんだような......?」
枯葉を敷き詰めただけの地面を見つめたリヒトの疑問など耳に入らないかのように、ルナは夢うつつの声で答えた。
「......」
リヒトも返事の代わりに、無言でルナの頭上にチョップを繰り出す。だが──
彼女が反応するよりも早く、炎の翼が現れそれを防いだ。
「こんな感じでお前ほぼ不死鳥になったから」
「どゆこと!?」
驚くルナに、彼は手短に『不死鳥の加護』を与えたことを説明する。
「それは、とってもありがと......でも、だいじょうぶ? かえるために『しん力』はためておくんじゃ......」
ニヤリと笑って、リヒトは答える。
「もちろん責任は取ってもらう。お前自身にな」
その言葉を聞いて、ルナはわずかに頬を赤らめた。
覚悟を決めるようにちょっとだけ間を置いたあと、口を開く。
「......やっぱりえっち。......まあ、いいけど」
そう言ってワンピースの裾に手をかける。わずかに白い肌があらわになった。
「待てアホ! そういう意味じゃねえ!」
「......じゃあ、どういう?」
「......もうどうせしばらくは戻れねえ。だから、この世界で──『 お前の父親を探し出して一発ぶん殴る旅』をすることにした。その荷物持ちをお前にやらせるってことだ」
ルナが大きな瞳をぱちぱちを瞬かせた。
訳がわかっていなさそうな彼女に、『俺が天界に帰れなくなったのはそもそもお前の父親のせい』理論を説明する。
しばしポカンとしたままリヒトを見つめる少女。
やがて「ぷっ」と小さな声が漏れる。
途端、せきを切ったように肩を揺らし、ついには声をあげて大笑いし始めた。
「そ、そんなにおかしかったか?」
涙を拭いながらルナは息を弾ませて答える。
「う、うん……かみさま、やっぱり、さいこう」
そう言うと、少女の瞳がきらりと光った。
「……わたしも、いっぱつなぐりたい」
その言葉に、リヒトは満足気にうなずく。
「ふん、目的は一致したな。……聞くが、お前の父親に何か特徴はあるか?」
「わたしと、おなじかみと目。……って、お母さんがいってた」
「銀の髪に赤い瞳の男、か」
岩肌に手をつきながら腰を上げ、二人は入り口へと向かう。
ルナが逆に問いかけた。
「どうするの? とりあえず、ききこみ?」
「そうだな。ここら辺に街は?」
「……がいどうを行くと、『アフィアート』ってまちがある、はず」
洞窟を出ると、ひんやりとした朝の風がリヒトの長い金髪を揺らす。
少しの沈黙。
ルナは一つ大きな伸びをすると、柔らかな瞳で彼を見上げた。
「............かみさまは、わたしになんでもくれる」
「いきなりなんだ? 言っとくが、荷物は持たせるだけだぞ」
彼女は首を横に振った。
「わたし、ずっとこのばしょを、でていきたかった」
ゆっくりと、言葉を重ねる。
「......でも、ゆうきがなかった。いまくれたのは、ここをでる、『きっかけ』」
そう言って、嬉しそうに微笑みを浮かべた。日が白銀の髪を透かし、赤い瞳が輝きを増す。
その姿は、神であるリヒトにすら、どこか神秘的な雰囲気を感じさせた。
「......お、お前、さすがに俺のこと信奉しすぎだろ。たまたまだし」
「しんじゃだい一ごう」
「もっといるわ! ......たぶん」
......ここ千年はまともなスキルを人に与えてこなかったリヒトにとって、ルナは本当に信者第一号なのだが、彼は知る由もない。
かくして、二人の旅路は幕を上げるのだった。
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