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18/18

18 教祖は次の街へ

 翌朝。被害を免れた宿屋に戻り、泥のように眠りこけていた三人は目を覚ました。


「……今更だけどさ」


 大きなあくびをしながら、ウィルが二人を見やった。


「あんたら、普段何してんだ? アフィアートの住人って感じじゃねーよな」

「……りょこうちゅう」


 ベッドの端に座ったルナが、眠気の残る声で答える。


「ふうん」


 ウィルは片眉を上げると、少し照れくさそうに言った。


「もしよかったら、この街で暮らすなんてどうだ?」


 正直神様はどちらでもいいが、少年はルナとは離れたくない。というか、もう将来は嫁に欲しいとまで思っている。

 だが、少女はゆっくりと首を横に振った。


「お父さん……さがしたい」


 その一言に、ウィルの目が驚きで見開かれる。


「……父ちゃん? 行方不明ってことか……」


 少年は、言葉を探すように視線を宙に泳がせた。まさか一発ぶん殴るために探しているとは夢にも思わない純粋な少年なのだ。

 やがて、ウィルは真剣な眼差しで少女を見る。


「……なにか、手がかりはあるのか……?」


 ルナは小さくうなずき、自身の赤い瞳と銀の髪を指で指す。


「わたしと、同じ目とかみのいろ」


 ウィルは顎に指を添え、考え込むように視線を伏せた。


「赤い瞳、銀髪の男……か」


 そうつぶやいたあと、ゆっくりとルナへ視線を戻す。


「……俺、見たことあるかもしれない」

「ほんと!?」


 ルナの瞳がぱっと輝く。

 勢いのままにずいっとウィルへ詰め寄ると、少年は気恥ずかしそうに顔を背けた。


「あ、ああ……。昔、俺の工房に買い物に来たことがあるんだ。銀の髪に赤い目なんて滅多にいねーし、覚えてる」

「それで……どこかに行くとか言ってなかったか?」


 リヒトが腕を組み、問いかけた。

 ウィルはしばらく宙を見つめ、眉間にシワを寄せて記憶を探った。


「……そうだ、『自動組み立てテント』を買って行ったんだ。遠出でもするのかって聞いたら……確か、西の方の地名だったような……」


 そこで言葉を切り、悔しそうに頭をかいた。


「……悪い、思い出せない……」


 ルナは首を振った。


「じゅうぶん」


 リヒトはベッドから出ると、あくびとともに問いかける。


「次は西にある街でも行くか。……ウィル、ここから西にはなにがある?」

「......『イルド』だな。獣人たちの街だ」


 ***


 西の城門前。

 数日アフィアートに滞在したのち、いよいよ出発する日が来た。

 本来もう少しゆっくりする予定だったが、リヒトたちの宿屋の前に神を一目見ようと民衆が殺到し、辟易して出発を早めたのだ。


「ウィル。いっしょに、いかない?」


 旅支度を整えたルナが、唐突にそう問いかける。

 思いも寄らぬ言葉に、ウィルは目を丸くした。唇を開きかけては閉じ、しばし考え込む。


「……悪い」


 やがて、少年は決意を込めた顔で首を振った。


「俺はやっぱり、父ちゃんみてえな立派な魔導具士になりてーんだ。だから……もっとこの街で修行しないとな」


 言いながら、鼻をこする。


「……お前と会えなくなるのは、寂しいけどな」


 最後に、消え入りそうな言葉を付け加えた。その声は、少女には届かない。


「……そう。また、あおうね」

「おう、もちろんだ!」


 少年は力強く言い切った。


「まあ、お前の作るオモチャは役に立つ。また買いに来てやろう」


 リヒトはそう言って、視線をルナの背負うリュックへと移す。『無重力リュック』──背負っても重さを感じさせない魔導具だ。


「…………てか、マジでルナに荷物持たせるんだな」


 ウィルはドン引いた顔でリヒトを見る。少年ですら多少持つ『紳士的な振る舞い』の概念を神様は持ち合わせていなかった。

 だが当のルナは、気にする様子もなくキョトンとした顔をしている。


「……なあ、神様の名前って、そのまま『神様』なのか?」


 ふと、ウィルがリヒトの目を真っ直ぐに見て問いかけた。


「? ……リヒトという名があるが、いきなりどうした?」

「べつにぃ」


 少年はそっけなく答える。


「変なヤツだな……おい、そろそろ行くぞ」


 その声とともに、二人は肩を並べて歩き出す。


「げんきでね」


 ルナがウィルに向けて手を振る。


「おう! 二人も、元気でな!」


 少年も腕をぶんぶんと振り返した。

 徐々に小さくなる背中を見つめ、ウィルは大きく息を吸い込む。


「神様ー! この街を救ったのはあんただ! 信者第二号が、ちゃんと『()()()()』布教しとくからなー!」


 少年の声に振り向いた神様は、少しだけ驚いた表情を見せる。

 だがすぐにふっと笑うと、何も言わずに再び背を向け、片手を上げて答えた。

……この瞬間が、後に世界最大となる宗派の誕生だったのだが……それはまた別のお話。


 ***


 街道をしばらく歩いていると、道の先で馬車に揺られる見知った背中が目に入った。


「ロレイン」


 ルナがその背中に声をかける。


「げっ……よく会うね、神様ご一行さん」


 振り返った青年は、引きつった笑みを浮かべた。『簿記会計レベルMAX』のスキルをリヒトから与えられた、転生者の行商人。


「ロレインは、どこ行く?」


 少女の問いに、ロレインは肩をすくめる。


「行く宛てなんてないんだけどねぇ。とにかく美少女と出会えそうな場所……僕のラノベデータベースによると……辺境の方にでも行こうかな。最近はスローライフ系が流行ってるし」


 普通に働いていれば十分にモテるのだが、彼はちくいち間違った選択で女性との出会いを遠ざけている。


「ルナちゃんはどこに行くんだい?」

「『イルド』だ」

「……アンタには聞いてないんだけど……へえ、また変な街に行くんだね」


 ルナが行商人の言葉に小首をかしげる。


「……ヘン?」


 ロレインは手綱を軽くたぐりながら言った。


「そうさ。獣人の街『イルド』──『腕力が通貨』の場所だよ」

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