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第11話 対峙



 目を覚ますと、見知らぬ場所で床に横たわっていた。手は後ろで縛られていて、上手く身動きを取ることが出来ない。


 辺りを見回そうと頭を上げようとすると、ズキッと鋭い痛みが走った。


「ここは……?」

「ようやく目覚めたか」


 突然、男の人の声が響いてビクッとしてしまった。しかも、この声はよく知っている。


 私にとってはたった一週間ほど前のこと。夜会で私に向かって怒鳴ってきた……


「ソフィア。俺のことは覚えているよな? お前の婚約者、カインだぞ」

「カ、カイン様……」


 横たわっている私の顔をのぞき込んできたのは、他でもない元婚約者のカイン様だった。恐怖で心臓がバクバクと鳴り響く。私は意識が遠のきそうになるのをグッとこらえて、口を開いた。


「な、何をされているのですか、こんな誘拐のようなことをして……」

「誘拐などではない。ただお前とよりを戻そうと思っただけだ」

「よ、よりを戻すって……婚約破棄してきたのはカイン様じゃないですか」

「そうだ。お前が気に入らなかったから婚約破棄し、ルナとの結婚を選んだんだ。だがな、あの時に選んだルナはもっと最悪な女だったんだ」


 それから、カイン様はペラペラと話し始めた。

 伯爵家から追い出された後に、ルナさんと結婚したこと。ルナさんは結婚しても、家事も何もしようとせず、金ばかりせびってきたこと。愛想を尽かして、つい先日家から追い出したことなど……。


 あんなに愛していたようだったのに、カイン様の悪口は止まらない。


「それであの女を追い出した後に実家に戻ったんだ。あの女と縁を切ったから家に戻して欲しいとな。そしたら、別の貴族の女性と結婚出来れば家に戻ってもいいと言われたんだ。俺の見知った貴族の女なんてお前くらいだからな。こうして迎えに来てやったんだ」


 なんて勝手な言い分なのだろう。


 2年前、カイン様の実家はレオンハルト様の権力によって社交界での立ち位置が危ぶまれたらしい。そういった経緯があるからカイン様とは縁を完全に切りたいはずだ。きっとカイン様が貴族の女性とは結婚できないだろうと踏んで、そんな無理難題を言ったに違いない。

 まさか公爵家の妻である私に手を出すほど愚かだとは思っていなかったのだろう。


「お前はなかなか一人で屋敷の外を出ないから、攫うのに苦労したぞ」

「こ、こんなことはおやめ下さい。私はレオンハルト様の妻です。あなたとよりを戻すなんてことはありません……!」

「だが、そんな夫のことを忘れてしまったのだろう?」

「え?」


 カイン様の言葉に目を見開く。だって、そのことは……。


「お前は、夫の記憶を忘れてしまったそうじゃないか。いきなり知らない男と結婚していたなんて怖くて仕方ないだろう? 幼い頃から知っている俺と結婚し直した方がいいに決まっているじゃないか」

「なぜ、私が記憶を失ったことを知っているのですか?」

「……は?」

「記憶を失ったことは、公にはされておりません。親しい一部の人しか知らないはずなのに、何故カイン様が知っているのですか?」

「そ、それは、お前の屋敷のメイドから聞き出して……」


 目が泳いでいるカイン様を見て確信に至った私は、更に問い詰めていく。


「あなたが私の記憶を失わせた犯人なのでしょう? 私が記憶を失う直前に屋敷に来て、“呪ってやる”と喚いたそうじゃないですか」


 そう、私の日記に記されていた事実。カイン様が私とレオンハルト様の前に現れて、「よりを戻そう」と迫ってきたらしい。私がそれを拒否すると、逆上して私のイヤリングを壊し、「呪ってやる」と吐き捨てて去っていったそうだ。


 カイン様は精神干渉系の魔法を得意としていた。だから、カイン様が現れたと知った時、もしかしたら記憶を失ったのはカイン様の魔法なのではないかと考えたのだ。


 私の質問にカイン様は観念したようにチッと舌打ちをした。そして。


「ああ、そうだよ。俺がお前の記憶を奪ったんだ」

「……!」

「せっかくお前を迎えに行ったのに、夫との関係を理由にお前が拒否したから、夫のことを忘れれば俺とよりを戻してくれると思ったんだ。だから、綺麗に夫の記憶だけ忘れるように魔法をかけたんだ。あの男との記憶が一つでも残っていたら、俺が不快だからな」

「なんてことを……っ」


 私は怒りに歯を食いしばる。あんなに優しい人のことを忘れさせるなんて……許せない。


「俺の魔力の方が強いし、お前に俺の精神魔法は破れない。夫との記憶なんて戻らないんだから、お前は俺と結婚をし直すんだ。いいよな⁈」

「嫌です!!」


 気づけば、私は叫んでいた。こんな大きな声なんて出したことない。でも、怒りで言葉が止められない。


「私が好きなのはレオンハルト様です。記憶を失っても、それは変わりませんでした」

「な……っ」

「あなたとは結婚しません。絶対に……!」

「何を言ってるんだ、お前は! 自分の立場を分かっていないようだな!」


 そう言って、カイン様は掌の上に魔法の炎を出した。そして、それを私に向かって投げつけてきたが……


 私はすぐさまそれを魔法で跳ね返した。私の魔法の衝撃波によってカイン様はその場に倒れてしまう。


「お、お前ごときが……俺の魔法を跳ね返して……っ⁈」

「あなたに遠慮して、魔法学校時代は魔法をセーブしていただけです。本来は、あなたよりずっと強いのですよ、私は」

「う、うるさいうるさいうるさいうるさい!」


 私がカイン様を睨み付けると、彼は髪の毛をかきむしり逆上してきた。


「お前達、出てこい! この女に自分の立場を分からせろ……っ」


 カイン様の言葉と共に、狭い部屋の外から出てきたのは数人の男達だ。全員が下品な笑いを浮かべている。


 怖い。けれど、もう一度魔法で吹き飛ばせば……!


 そう思って魔法を繰り出す準備したけれど、その必要はなかった。次の瞬間、すごい勢いで私達のいる部屋の壁がぶち壊されたからだ。


「ソフィアさん、無事ですか……!」


 現れたのは、私の夫であるレオンハルト様だった。


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